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仮面ライダーアクセル0話〜5話 
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█ 仮面ライダーアクセル0話〜5話

Last-modified: 2015-01-09 (金) 21:32:22 / Short URL: http://wiki.nothing.sh/1490.html / add to hatena bookmark - users / add to livedoor clip - users

仮面ライダーアクセルまとめ

【目次】

0話「闇の中へ」

コポコポと真っ白なカップにコーヒーが注がれていく。
お盆に乗ったコーヒーはウェイトレスに運ばれて俺の目の前にトンと置かれた。
香ばしい香りが鼻をくすぐる。
カップを手にとって口元へ持っていくと香ばしい香りが鼻腔一杯に広がった。

「……苦いわ、もっと薄いのがいい
とりあえず砂糖とミルクくれよ」
「…やっぱあんた煎れてあげ甲斐無いわ」
ウェイトレスがそれまでの澄ました表情をサラっと崩して嫌そうな顔をする。
「いやだってほんと熱くて口の中火傷しそうだし味わかんねーって」
「くっ、あたしがどのくらいの温度なら一番味と香りが立つかとか考えて煎れてるっていうのにこいつは・・・!」
「やっぱコーヒーはジョー○アに限るね、缶コーヒーの
うーん、俺って違いのわかる男」
「あーもー嫌!マスターこいつなんとかしてくださいよー!」
「ハハ、雅にはまだ早すぎる大人の味だったな」
ウェイトレスが癇癪起して泣きつかれた奥に居る初老の男は慣れた様子で受け答えをした。
「そりゃないよおやっさん、俺はもう十分に大人だぜ?」
この初老の男はこの喫茶店『ω』のマスターで俺のバイクの師匠。
昔はプロのライダーだったっていう本格派で俺は親しみを込めておやっさんと呼んでいる。
「どこがよー、図体ばっかり大きくなって中身は全然ガキじゃないの」
こっちのウェイトレスはアカリって言って『ω』でアルバイトしてる女子高生だ。
人懐っこくていい奴だがやたらと指図してくるタイプで俺もよくあーしろこーしろといわれる。
どうでもいいがおやっさんには敬語で俺にはバリバリタメ語で話してくるのは何故だろう
俺のほうがお前より年上なんだぞ、けしからん。
まぁそれはいい。

「はー、ごちそうさま
んじゃちょっと風になってくるわ」
「…またバイク?」
「雅、最近多くないか」
なんだか二人とも自重しろとか言ってるように見えるがきっと気のせいだ。
「実はバイク走らせるのにいい穴場見つけたんでね
ここでまったりとアンニュイな午後を過ごしてる場合じゃないんだ
そんじゃ行って来まーす」
「あ、ちょっと!雅!」
俺はそういってヘルメットを手にとると
勢い良く店の外に飛び出して前で眠っていた愛車にまたがって手際よく目覚めさせてやった。
「わぅっ!」
「おう、ちょっと行ってくるぜジョージ!」
俺は店の前に繋がれているおやっさんの愛犬ジョージに挨拶をすると彼方へと駆け抜けて行った。

青空の下、オフロードを1台のバイクが颯爽と駆け抜ける。
「く〜誰も居ない場所を一人で思う様駆け抜けるのってほんとサイコー!」
ここは最近俺が見つけた場所でただでさえ田舎で人の少ないこの辺でも特に人気がなく
尚且つちょっと雑草が多いもののだだっ広くてバイクを走らせるのにはサイコーの場所だった。
山のちょっと奥の最近使われた様子が無い長い長いトンネルを抜けてから
ちょっと道をそれた場所にあり麓の町からは死角になっている場所で
ひょっとしたら私有地か何かかなーという気もするけどきっと何かの建設計画でもあったが
田舎すぎるか何かで計画が頓挫したんじゃないだろうか。
何にせよ当分は俺が好き放題バイクを走らせても大丈夫そうな場所であることは間違いなかった。
「…ん、なんだアレ」
ちょっとした気まぐれで普段は余り通らない道の荒いコースを通っていると
なにやら古い人工物らしき横穴が掘ってあるのを見つけた。
木々にうまく隠れてぱっと見ただけでは存在に気づきもしそうにない穴だった。
動物が掘ったり自然に出来た穴ではなく石を柱にしてあったり何かで削ったような後があったりと
明らかに人の手によるものだった。
こっちの方はまだろくに人の手のはいっていない場所だと思っていたので少し驚くと同時に好奇心が沸いた。
「これがあるから人の手を付けずに放置されてたのかな…」
何も無い土地に建物を建てようとしたら下から遺跡が出てきて
建設が一時中止になるなんて話はそうある話でもないが聞かなくも無い。
しかしこんな田舎に古代人が住んでいた痕跡を見つけたんだと考えると少しロマンのようなものを感じた。
「誰も居ないし…ちょっとだけ中見てみるかな…」
俺はバイクのライトを穴の中に向けるとその明かりを頼りに中へと入っていった。

穴の中は意外と狭くすぐ行き止まりで外からのバイクのライトだけでもギリギリ歩ける程度だった。
「…思ったより大したことなかったな、まぁこんなもんか」
なんだか物足りなくて周りを見回すと石で蓋のしてある四角いなにかがあった。
これは一体なんだろうか、無性にあけてみたい衝動に駆られる。
「…まずいかなぁ…骨とか入っていたら嫌だし…でも…」

でも、気になった。とても、とても。

なぜかそれをあけなくてはいけないようなきが、した。

「べ、別にすぐに戻せば…」
何かに促されるように俺は蓋を持ち上げた。
そこには丸くて綺麗な玉が置かれていた。

「なんだ、これ…宝石?いやそれにしてはでかすぎるよな…うぁっ!?」
その玉を手にとって眺めると中に何かが居てこっちを見たような気がした。
そして驚いた瞬間手の中からその玉がふっ、と消えた。

「え、いま手に持ってて…な、無くした?!どどどどどどどこに…す、すごい貴重な物だったらどうしよう…
あああああ…?!」
その時どこからかキチキチと蟲の鳴くような音がして、気づくと俺は遺跡から逃げ出してバイクにのっていた。

「なんなんだよあの遺跡…」
俺は逃げるようにバイクを走らせていた、いや、実際あの場所から逃げ出したかったのかも知れない。
それにいい加減日が傾いてきた、そろそろ帰らないとまずいと思った俺は帰り道に向けて走り出した。

俺は必死にあの遺跡の事を忘れようと勤めた、あの不気味な玉だけが置いてあったあの場所を。
いまだに耳に残るあのキチキチという音を必死に振り払ってあの場所の楽しいことだけを思いだそうとしていた。
あの遺跡のことさえ忘れればここは素晴らしい場所なのだ。そう自分に言い聞かせようとしつづけた。
だがあの遺跡以外何一つ非の打ち所が無いようにさえ感じるあの場所だが実はひとつだけ不満がある。
あそこに行くために通る必要のあるトンネルが非情に暗いのだ。
電気も消えかかっていてそれに多少曲がっているので向こうからの明かりも見えない。
こういうのは国の怠慢だと憤ったりもしたがこんな辺鄙な場所じゃ後回しになっても仕方ないかと思う。
「ヤバイな…もう大分暗いじゃねーか、スピード落すか…」
それにしても薄気味が悪いところだった、ここも、あのイセキも
帰りに『ω』にでもよってあの苦いコーヒーでも飲めばこの嫌な気分も拭えるだろうか、そんなことを想った。
そうしてトンネルの一番暗い部分に差し掛かった時、キキキ…と音がした。
最初はバイクか何かの音かと思ったがどこかあのキチキチという音に似ている気がした。
その時前の方の天井に蝙蝠が一匹居ることに気がついた。
(こんなところにもすんでるんだな蝙蝠って…まぁ暗いしな、ここ)
でも、なにかがおかしかった。
そう、蝙蝠にしては大きすぎたんだ
それはあわせて2mはありそうな大きな羽を広げてそして

『キキキキキ!ミツケたゾ!かゼのしんギょク!!!!』

気づいたときには、俺の目の前ににおおきな、おおきな『目』があって
そのなかにあの『玉』とおなじものがこちらをみているのにきづいたとき、オれはいしきをうしなった。
もうあの平穏な日常には戻れないとも知らずに、深イフかイ『闇』の中で、ネムリに堕ちて行った。

1話「闇の中、アクセルを踏み鳴らせ」

『キキキ!オリジなルのしんギょクとそノテキごウしゃヲてニイレタンダ!とウぜんわかッテるんだロうな?』
『ええ、組織の上層部は今回のあなたの功績を高く評価するでしょう』
なんだ…?意識がはっきりしない。
『キキキ!これデおレハうエニいけルゾ!キキキ!キキキキキ!』
『おめでとうございます
 それでその風の神玉の適応者はどこに?』
『ソッちだ!ハやクハやクかイゾウしてシマエ!』
誰かが会話しているのが聞こえる。
『ええ、組織も即投入できる戦力を必要としていますのですぐに洗脳手術を施します。
 少々時間がかかるのであなたは休んでいてください』
『キキ!キキキキ!わかッタ!タのシミダ!キキキキキキキキキ!』
改造や洗脳といった物騒な単語が聞こえてきてくる。

誰を?何に?なんだ?何が起こった?

俺は慌てて目を覚まして起きようとするが手足が動かない。
何度か起き上がろうと格闘している内に手足が拘束されていることに気がつく。
わけのわからない状況を少しでも理解しようと唯一拘束の緩い頭を動かして周りを見回す。
白塗りの薄暗い部屋にによくわからない色々な機械が置いてあって
まるで手術室のような印象だった。
ひょっとして俺はバイクでこけて怪我をして運びこまれたのだろうか。
そういえば意識を失う前はバイクに乗っていた気がする。
まず最初におやっさんに危ないから当分バイク禁止にされたりした時のことを危惧する。
まずい、それは死ぬ、肉体が死ぬ前に心が腐って死ぬ 俺バイク無いと生きてけない。
待て待て待て相手に非があればおやっさんも許してくれるんじゃないだろうか。
そういう結論に至って事故当時の状況を思い出そうとすることにする。
確かいつもの穴場に行ってそれから遺跡に勝手に入って気味が悪かったから帰ろうとしてそれでトンネルで…
トンネルで オオキナ オオキナ 蝙蝠 ニ デアッテ 『目』のマエニ オオキナ 『目』 ガアッテ

(なんだ、これ…!?)
有り得ない記憶だった。
あんなバケモノが居るなんて有り得ない。
ここは異世界でも宇宙のどこか別の惑星でもなくて地球にある日本の田舎の小さな町のはずなんだ。
有り得ない、絶対に有り得ない。
きっと事故で記憶が混乱しているんだ、そうに違いない。

「これがオリジナルの神玉の適応者か…」
突然視界に知らない白衣の男が入ってきた。
年は俺よりはいくらか年上に見える。
その目にはこちらに興味を持って観察するような…そう、俺を値踏みするような感じが含まれていた。
「だ、誰ですかあんたは…?お、俺どうなったんですか…?」
意外なことに口は動いたしちゃんと喋れた、しかし男はこちらの言うことを無視してヘソの下辺りをコン、と人差し指でたたいた。
コン?なんで腹をたたいてコン、なんて音がするんだろう。
まさか骨とか突き出してるのだろうか、いやしかし腹に骨なんてあったっけ
とにかく思った以上にマズそうな自分の様態が心配になってくる。
「神玉の位置は俺と同じ腰の辺りか、大分深く埋まってるな
適合率は悪くない」
シンギョク?俺の腹に何かめり込んでるのか?
「あの、俺今どうなってるのか教えてほしいんですけど…」
「…さっきから五月蝿いな、お前
眠っていたら神玉だけ抉り出してとっととここから離れる予定だったのにやりづらいだろうが
あの蝙蝠野朗、麻酔ぐらい自分でかけとけよ…」
いい加減こっちの質問を無視され続けて堪忍袋の尾が切れた
「おい!さっきからなんなんだよあんた訳の分からないことばっかり言って俺は…」

キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ!!

唐突に部屋に、あの時の蝙蝠の鳴き声が響渡った。

「うわぁああああああああああああああああああ!?」
あの時の記憶が蘇り、俺は叫んだ。
「イマほんブカられンラクがキタゾ!マだそしキのイシゃはコッチにオクられテナイッテサ!
げんいンふメイのジコニアって!キキキ…!オマエ、ダれダ?」
「…ったく、本当にツキが無いな」
「何なんだよ!一体何なんだよこれ!」

「ホンとダ!ツキがなイ!ツキがなイ!キキキキキ!」
「どうなってるんだよ!?ここは日本だろ?!違うのか!!」

「ああ、ツキが無いぜ
気付かなければ出世を夢見たまま逝けたのにな、お前」
「ナん…だト?」
「なんでこんなバケモノが居るんだよ!?教えてくれよ!
誰か…誰か応えろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「だから五月蝿いんだよ、お前」
「ウゲッ」
鳩尾にドンっ、と拳が降りてくきて息が詰まる。
「ほら、とっとと立て」
男が俺の寝ている台の横の何かを操作すると手足が動くようになった。
「ゲホっ、ゲホっ!
な、なにしやが…」
「動けるようにしてやったんだ、感謝しろ
で、お前『変身』はもうできるのか?」
「ゲホっ、何だよ変身って?さっきからあんたの言ってる事訳がわからないって言ってるだろ!?
なぁ、ちゃんと教えてくれよ!」
もう何がなにやら分からない、あの蝙蝠男とこの男
どちらが信用出来るのかさえ
「ま、そうだろうな…さっき捕まったばかりだからな…」

「キキ!なんなンだおまエ?ニンゲんのクセに!オレニかテルトでもオモッテるのか?
いっタいナンなンダ!?」
どうやらあの蝙蝠男もこの男の正体が気になるということはわかった。

「いいだろう、そこの若葉マークが取れてない奴にも教えてやらなきゃいけないようだからな」
「な…?」
男の腰の辺りが凍る、それはまるでベルトのような形になり砕けて本当にベルトが現れた。
「キキ?!お、おマエまサカ!」
             「  変! 身! 」

腰のベルトが青く輝き男が足元から氷に包まれていき完全に包まれるとすぐに砕けその中から
まるで、あの蝙蝠男と同じ、異形の戦士が現れた。

「な、なんなんだよこれ…人が…バケモノに…?」
俺は今日既に何度言ったかわからない言葉をまた口にした。
「おマエハオりじナルのしんギょクてキオウシゃ!アウとすぱイダーうぇイブ!!
うラギったのカ!?」

「その通りさ、だがお前等に名付けられた名前をそのまま使うのは気に入らないな
そうだな…俺は貴様等から得た仮面の力で戦う復讐騎…仮面ライダー
そう、仮面ライダーウェイブだ!」
異形のその顔が、哂った気がした。

「キキキ!そシキヲうらぎるトハばカナヤつめ!
うらぎリモノをこロシテオリじなルのしんギょクヲとリモドせばおレハもッとウエにいけル!
キキキキキキ!」
「ふっ、オリジナルの神玉とコピー神玉の違いを見せてやる 来い」
その最後の一言を持って匙は投げられ、異形と異形の戦いが始まった。

「なんなんだよ…本当になんなんだよ…!」
異形同士の人知を超えたレベルでの戦いが目の前で繰り広げられる。
訳の分からないこの状況でもっとも理解し難かかったのはその異形の戦いを理解してしまう自分自身だった。
その異形達の動きが見え、その動きが感じ取れた。
「はぁっ!」
勝負は人から異形になった男が優勢であった。
既に彼の大剣がその巨大さからは考えられない速度で振るわれ何度か蝙蝠男を捉え、斬り付けていた。
蝙蝠男の方は見る間に弱り、遂に部屋の隅に追い込まれ後ろに倒れこんだ。
「格の違いがわかったか?」
男が蝙蝠男の首元に大剣を突きつける。
「キ、キキキキキキキキキキ!!!」
「まずは、一つ」
男がそのまま大剣を突き刺そうとしたとき、彼の横の壁が爆ぜた。
「ブフォォォォオオオオオ!!」
「ガッ!?」
爆ぜた壁の中から異形の猪が男の体に突っ込んでそのまま向こうの壁を破壊して走り去っていった。
「キキキキキ!いクラオリじなルヲもッテイテも2たイ汽妊蓮キキキキキキキキ!
おットそのまエにこいツヲダまらセなくチャな…キキ!」
蝙蝠男があの、トンネルの中であった時と同じ目でこちらを見てくる。
「あ、ああ…!」
自分に矛先が向いたことに気がついて後退る。
トビラは向こう、蝙蝠男の後ろ
さっき開いた穴に俺が行くよりあの蝙蝠男の方がきっと早い。
きっと もう 逃げ場は 無い。

     『で、お前『変身』はもうできるのか?』

さっきあの異形の男が俺に聞いていた。
俺も変身できるのかと。
もう、ということはいつかはあの男のように異形に『変身』するのだろうか、ひょっとしたら既にもう
あの事故の時と同じ目が迫ってくる。
「キキキッ!」
危険な風を感じた。
今まで感じたことの無い感覚に戸惑いながらもとにかく動いた。
「――……っ!?」
それまで脳天のあった場所に羽先についた大きな爪が振り下ろされていた。
辛うじて避けられたものの確実に自分の死が迫っていることを理解する。
このままだとまずい、掛け値なしにまずい。
「ちょコマかト!」
蝙蝠男から必死に逃げる。
なんでもいいからここから抜け出したい。
早く家に帰って苦いコーヒーが飲みたい。
こいつをなんとかしてここから出たい。
そのための、力が欲しい。

その時、キチキチという蟲の鳴き声が聞こえて腹の辺りで風が吹いた。
「な、なんだこれ…?」
今日もう何度言ったかわからない言葉をつぶやく。
腰にいつの間にかベルトが巻かれていた。
「やっぱりあいつと同じ…!?」
「キキ!モうニゲばはナイゾぉおオオお!」
藁をも掴む思いでさっきあの男がやっていたのを真似て、叫ぶ。
「変身!」
風が俺の体を包み、爆ぜた。

「キキ…なニガ…キキ!?」
「これが…変…身…?」
自分の体を見ると黒い何かに包まれた上にそこら中にプロテクターのようなものがついていた
顔に触れるとやはり何か硬いものに包まれていた。
「キ…キキ!まダダ!からダガなれテナいうチナら!!」
蝙蝠男が襲い掛かってくるがさっき以上に確かに風を感じ避ける。
体が軽かった。
風を感じる度にどんどん力が漲っていく気がした、いや違う。
これは確かな力だった、動けば動くほどこの力が自分のものになっていった。
「キキ…ばんぜンのジョウタいならオまエなんゾニ…キキィー!」
蝙蝠男が距離をとってから羽ばたき、飛び掛ってきた。
俺は拳を骨が軋むほど強く握り締めて迎え撃つ。
「おおおおおおおおおおおおお!」
体に漲っていた力が拳に集中していくのがわかる。
それを思いっきり向かってきた蝙蝠男にぶつけた。
拳が蝙蝠男の腹にめりこみ、吹き飛んだ。
「キ…キキ…キィィッィイイイイイイイイ!!!」
蝙蝠男の大きな目にヒビが入ったかと思うと次の瞬間蝙蝠男は爆発していた。
「ぜぇ…ぜぇ…」
危険が去ったことを理解して緊張の糸が切れてその場にへたり込んだ。
「す、すげぇ…この力…あ…そ、そうださっきの!」
一休みして落ち着いたらあの異形の男が吹っ飛ばされていったのを思い出した。
慌てて猪の異形が開けて去っていった穴を見るとどうやらあのまま外まで突っ込んでいったようだ。
他にここから出れる道もわからないし、俺はとにかくこのあなを通って外に出ることにした。

「…態々外まで連れてってくれるとはありがたいこった
逃げられるとか考えなかったのか、お前」
結局俺はあの猪の怪人、アウトボアの体当たりを食らって幾重もの壁を抜けて基地の外まで吹き飛ばされたらしい。
「ブフォー!かんけいない!おまえどうせここでしぬ!ブフォー!」
「まぁいい、あんまり時間は掛けてられない訳があってな
とっとと来いよ豚野朗」
足元が少々ふらつくが立ち上がるのに問題は無かった。
そして即座に鼻息荒く突っ込んできたアウトボアの体当たりを受けて吹き飛んだ。
「ブフォー!だれがぶただ!ゆるさない!ゆるさないぞ!ころしてやる!ブフォー!」
今度は余裕を持って受身を取っていたのでほとんどダメージは無かったがわざと大げさに喰らった振りをしておいた。
「ブフォー!もうとどめだ!ブフォオォオオオオ!」
かかった。
距離良し、角度良し、勢い良し。
俺はアイスエッジの柄を強く握り力を集中させる。
そしてアイスエッジを構えて、向こうがこちらの間合いに入った瞬間に飛び出した。
「ブフ!?」
そして二人が擦れ違った瞬間には既にアウトボアは胴体の辺りで上半身と下半身が泣き分かれしていた。
「…マイナス…スラッシュ」
「ブ、ブブブ…」
振り返ってアウトボアの方に歩いていき切断面から氷付こうとしているところを軽く蹴ると奴の上半身は砕け散った。
「…さて、と」
俺は砕け散ったアウトボアは無視して出てきた穴の方に振り向いた。
「どうするかなさっきの奴は、放っておいて後から神玉だけ回収してもいいが…」
後味は悪いだろう。
しかし自分の目的のためにはこれからそういった思いをすることは避けられない。
ならばここで危険を冒して助けたところで…
そう思っていると穴の奥に何かの気配を感じた。
十中八九アウトバットだろう、もう少し中に居てくれるとありがたかったが
実際出てくるのが遅すぎるくらいだった。
出てくるのなら仕方ない、さっきは邪魔が入って仕留め損なったが今度は逃さない。
「おーい!生きてたんだなあんた!今度こそちゃんとどういうことか教えてもらうからな!」
だが中から出てきたのはオリジナルの神玉の適応者の方だった。
穴から出るとこちらへ駆け寄ってくる。
「お前、アウトバットはどうした」
「あ、アウトバット…?バットって…さっきの蝙蝠男か?
俺殺されそうになってわけわかんなくなってそれであんたの真似したらなんか体が変わって
えーとそれでなんか殴ったら爆発した!わけがわからねーよ!」
「そうか…変身出来たか」
「なぁなんなんだ変身って!さっきのバケモノはなんだよ!?」
「適合者付きのオリジナルの神玉一つか
上々だ、ツキが回って来たな」
「お前いい加減無視するのやめて俺の質問に答えろよ!」
俺は掴みかかろうとした適合者の男を避けて向こうに隠しておいたバイクの方に向かった。

俺は憤っていた。
何であの男はことごとくこちらの質問を無視するのか。
いい加減にして欲しい。
「おい、待てってば!いい加減こっちの質問に」
「教えてやるから早く乗れ、俺は早く此処から離れたいんだ」
「答えやが…え、マジ?うお、何そのバイクかっけぇどこで買ったの?いや改造バイクか?」
男は純白に青白いラインの入った流線型の美しいバイクに乗ってエンジンを掛けているところだった。
怒りの矛先が宙を滑ってその美しいフォルムに目が行く。
「…さっきから五月蝿いほど聞きたがってたのはそれか?」
「あ、いやそうじゃなくてお前なんで変身したのかとかそもそもあのバケモノは何なのかとか…」
とりあえずバイクの後ろに乗りながら必死に質問をまとめようとする。
「悪いがやっぱり質問は後だ、早く此処を離れるぞ」
男は俺が後ろに乗るとすぐにバイクを走らせた。
「や、やっぱここから早く離れないと追っ手とかが…!」
俺はやはり何かヤバイことに巻き込まれたんだと焦る。
「ああ、それもあるが」
「あるが?」
その時背後で耳を劈く爆音が鳴り響いた。
「進入した時真っ先に基地のジェネレーターを弄っておいたんでな
そろそろ逃げないと爆発に巻き込まれるところだった
思っていたより爆発が早かったし正直ギリギリだったな」
「て、てめぇ…そのカッコのままだったのはこのためか…」
爆音で耳がグワングワン響いて頭を痛ませながら辛うじて言った。
「確か質問は俺が何者かだったか?そろそろ答えてやる
俺は湖越銀、折角だからお前の名前も聞いておこう」
そういうと男は変身を解いて異形の姿から人の姿に戻った。
「お、俺はか、風野雅…質問は…後にしてくれぇ…」
当分は何を言われても耳が痛くてまともに話が出来そうに無かった。

後々になって思えば、この轟音が俺と銀の長いようで短い戦いの始まりの音だったのだ…。

2話「跳べ、奴よりも高く」

コポコポと真っ白なカップにコーヒーが注がれていく。
お盆に乗ったコーヒーはウェイトレスに運ばれて男の目の前にトンと置かれた。
男はゆったりとした余裕のある仕草でコーヒーカップを口元に運びしばし香りを楽しんでから口へと持っていった。

「旨い、まだまだ詰めが甘いところもあるが
高校生でこれだけのコーヒーを煎れられる奴は中々居ないさ、自信を持ってもっと腕を磨くといい」

「わぁ、そんなに褒められると頑張って煎れた甲斐があります!」
「さすが銀、お世辞もうまいな」
「黙れ」
「はい」

今俺の目の前でコーヒーを飲んでいる男の名は湖越銀。
蝙蝠男にさらわれて色々とピンチだった俺を助けてくれた男だ。
『ω』に帰ってきてからわかったのだが俺が連れ去られてから丸一日経っていたらしく
アカリは俺が事故ったに違いないと大騒ぎしおやっさんにも大分心配を掛けてしまったようだ。
とりあえず俺がバケモノに会ったり銀もバケモノだったり俺もバケモノに変身しちゃったりしたことは黙っておいて
アカリの話に乗っかって俺が事故で動けないところを銀が助けて病院まで連れて行ってくれたということにしておいた。
そういう訳で今俺の恩人として銀を『ω』総出(と言っても三人と一匹だけだが)でもてなしているところなのである。
銀に色々聞きたいことがあったがそれはこの騒ぎが終わってからということにしておいた。

「アカリちゃん、そこの味音痴の言う事には耳を傾けるな
ここのマスターの言う通りに練習していけば必ず上達していくから」
銀はこちらを振り向きもせずに俺を親指で指した。
「はい、あたし頑張ります!」
「しかしすまないね、雅が迷惑かけて」
「いえ、当然の事をしたまでです」
「わうっ!」

会った当初はぶっきらぼうな奴だと思ったので最初は不安だったのだが
銀は予想を遥かに上回る世渡りの上手さでこの場に馴染んでいた。
しかし何故俺とアカリへの対応がここまで違うのか。
意外と女好きなのだろうか、むっつりか、むっつりスケベなのか。

しようもないことばかり考えていると何か大事な事を忘れているような気がしてきた。
そう、何かすごい大事なことを忘れている気がする。
なんだか体に穴が開いているような、半身を失ったような、そんな喪失感を覚えていた。
「………………あぁ!そうだ!ちょっと銀バイク貸して!」
「ん、ああ構わ…何?」
俺は机の上に置いてあった銀のバイクのキーを取ると外へ飛び出して銀のバイクに跨るとキーを入れてエンジンを噴かした。

「ま、待て!お前人のバイクで一体何所へ行くつもりだ!?」
銀も何事かと後を追って外に飛び出した。
「すまん、相棒が暗いトンネルの中で放置されてるなんて俺には耐えられないんだ!」
「な、何だと?まさかお前攫われた時に他に人が…」
人ではないが大事な奴と二人きりだった。
「そういう訳で悪いけどバイク借りるぜ銀!すぐ戻るから!」
そう言って俺は蝙蝠男に襲われた場所に向かって走り出した。
そう、俺の相棒のバイクを救出しに行くために。

さらわれてからの初バイクで制限速度ギリギリで気分良く運転しているとすぐに例のトンネルまで辿りついた。
あの時のことが一瞬フラッシュバックしてちょっと怖気づきそうになるが相棒のために勇気を出してトンネルへと侵入する。
「俺の相棒は…あった!」
俺のバイクはトンネルの一番暗いところでこけていた。
曲がりくねっていたので速度を落としていたのが功を奏したのか塗装がはげてガワが少しへこんだだけで済んだ様だ。
「さて…こっからどうやって持って帰るかな…」
ついつい相棒の危機に飛び出してしまったが目の前にある二台のバイクを見て素直に業者を呼べばよかったと心底後悔した。
「とりあえずトンネルの外に出て道の脇に置いておくか…お、ちゃんと動くな」
動作確認をして相棒の無事を確認した後とりあえず俺のバイクをトンネルを出た道の脇まで持っていきその後銀のバイクで帰ることにした。
俺はバイクと共に外に出て道の脇に置いた。
そしてトンネルの中に戻って銀のバイクを返そうと思い後ろを振り返るとトンネルの上にそいつは居た。
長くて、赤く赤く血管の浮き上がった耳と血のように真っ赤な二つの目がこちらを捕らえていた。
全身白尽くめな中でその二つと明らかに異常発達している左足と
その腿に埋め込まれた蝙蝠男の目と同じようなものから伸びる赤い赤い血管が異彩を放っていた。
そして突き出た骨や異常に発達した爪や歯なども相まって全く原型をとどめないグロテスクな怪物だがそれは兎型の異形のように思えた。
「チィッ見られたか、まぁいい…ヒョウ!」
兎の異形はニヤリと口元を歪ませるとその場から消え、トンネルが奴の居た部分が砕けて崩れ落ちトンネルを半ば塞いだ。
「あいつこの前の奴と同じ…消えた?…逃げたのか?」
それは甘い考えだと風の動きが告げる。
風の乱れが如実に奴が今自分に向かって牙を剥こうとしていることを告げていた。
(何所だ…何所に消えて…何所から…)
風の動きに全神経を集中させる。
「……上かッ!」
言うよりも早く横っ飛びでその場を移動した次の瞬間兎の異形が今居た場所を砕いていた。
「チィッ!」
このままではそう長く持たない、そう思ったときあの時と同じように腰の辺りで風が巻いた。
「このままやられてたまるかよ!変身!」
風が体を包み、爆ぜる。
「っしゃあ!」
風が消えると前と同じように俺の体は異形の戦士へと変身していた。
「ほう!ただの哀れな目撃者かと思ったらまさか貴様が組織の支部を破壊した裏切り者か!
やはり人探しは『脚』で探すに限る!」
「言っとくが爆破したのはもう一方の奴だ!」
「どちらでもいい!貴様を倒せば俺の組織での株が上がる!ヒョウ!」
そういうと兎の異形が再び地面を砕いて跳ぶ。
こうなった以上自分一人でどこまで戦えるかわからないが前と同じようにやるしかない。
骨が軋むほどに拳を強く握りこむ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
こちらに向かって凶悪な爪の生えた左足を向けて落ちて来る兎の異形に向かって渾身の力で拳を天に振り上げ

見事に拳は空を斬り胸に凶悪な左足を叩き込まれた俺は背中でアスファルトを砕きながら地に伏した。
「エガァ!?ウギァッ…ゲホッ!」
蝙蝠男の時は見事に直撃したのに今度はかすりもしない。
今の一撃で仕留めようと思っていたので受身も防御も何もしていないところに恐ろしく強力な一撃を叩き込まれたため息さえ出来ない有様だ。
(なんで…前はうまくいったのに…?!)
思い起こせばあの時の蝙蝠男は既に銀に大分ダメージを与えられて明らかに弱っていた。
それに対して今相手にしている奴はおそらく万全のコンディションだろう、あんな風に簡単に倒せるはずがハナからなかったのだ。
(ま、まずい…逃げるか…せめて体制を整えなくちゃ…!)
俺はヒュッ、と一息吸って呼吸を整えると脱兎のごとくその場を逃げ出そうとした。
「ヒョウッ!」
しかし後ろで地面が砕ける音がすると次の瞬間には目の前に兎の異形がその赤い目でこちらを見下ろしていた。
「ムダだ!俺の『脚』からは逃げられない!」
「く、糞…!」
「ヒョウッ!」
兎の異形が再び姿を消し俺は辛うじてその場を跳んで避けた。
「ちょこまかと!ヒョウッ!ヒョウッ!ヒョウッ!」
何度も何度も俺を踏み殺そうと兎の異形が跳ぶ。
俺はただただその場を動いて避け続けるだけだった。
このまま避け続けていてもいつか避けきれずに捉えられて殺られる。
(何か…何か隙は…あ)
打開策を考えながら逃げている内にあることに気付いた。
ジャンプしている間は奴は一定の軌道を描いていてそれから外れて大きく動くことは出来ない。
よく考えれば当たり前なのだがそもそも普通の人間はそんなに空高くジャンプすることなど無いから気付かなかった。
さっきは良く見ずに勢いで振り上げて外したが軌道を読んでちゃんと狙えば当たる気がしてきた。
(心を落ち着ければ風が奴の軌道を教えてくれる…!)
狙うのはもっとも無防備な奴が上昇しきった瞬間だ。
「ヒョウッ!」
「だぁッ!」
兎の異形を追って俺も跳ぶ。
計算通りに奴の真下にぴったりと追いつく。
奴を完全に俺の拳の射程内に捉えた、後はただ全力で拳を振り抜くだけだ。
「うおおおおおおおおおお!」

俺の拳が届くより遥かに早く奴の左足が空中で俺を蹴り飛ばし
俺は斜め四十五度で頭から一直線に地面に激突し三回程大きくバウンドしてから
2メートルほどアスファルトの道路をガリガリ削りながら滑ってうつぶせに倒れこんだ。
「な、なんでだぁぁぁぁぁ…」
「馬鹿かお前!あんなとこに居るなんて俺の『脚』に蹴られたいと言っているようなもんだろうが!
それにしても俺に空中戦を挑むとは本当に馬鹿な奴だ!」
なるほど、相手の下に居たら蹴られるのは道理だ。
大体脚の方がリーチが長いのだから俺の拳の射程に奴が入るより遥かに前に俺は奴の左足の射程内に入ってしまっていた。
「そっか、空中戦で下に居たら不利だよな…」
また一つ賢くなったようだ。
そうとわかれば地に伏して寝ている場合ではない。
「もう馬鹿と付き合っているのも飽きたぜ!いい加減トドメを刺してやる!」
兎の異形が跳び立つ体制に入った。
「はぁぁあぁああああ…」
俺もジャンプするために体制を整え力を溜める。
自分の周りの風がざわめいた気がした。
「ヒョウッ!」
「だぁぁああああ!!」
俺と奴、二つの異形が同時に空へと跳び立つ。
「懲りずに俺と空中戦をしようなどと…何!居ない!?」
「こっちだぁぁあああああ!!!」
下を見ても居ないのは当然だ。
俺は奴よりも遥かに高く跳んだのだから。
「ひぃっ!?」
「らぁああああああああああああああああああああ!!!」
俺は風に後押しされるかのごとく奴を大きく上回る落下スピードで追いすがると
着地直前の奴の無防備な背中にそのまま右足を叩き込んだ。
周りの地盤を砕きながら地面に兎の異形が大きくめり込んだ。
「昔見たなんとかバニーってこんな感じだったかな…」
俺は奴の上をどいて少し離れた。
背中が盛大に拉げた兎の異形が最後に手を伸ばそうとした時
左足の玉にヒビが入ると大きく爆発した。
「…まずいな、銀のバイクが取りに戻れない…」
俺は兎の異形の最初のジャンプで盛大に崩れたトンネルを見て絶望的な気分で一人ごちた。

迂闊だった、普段の俺だったならばあんな風にバイクのキーをあっさり取られたりはしなかったはずだ。
今現場に戻るのは非常にまずい、組織の誰かが調査に来ている可能性が高い。
明らかに気を抜ききっていた。
「あの馬鹿…雅の奴、帰ってきたらこってり絞らにゃいかんようだな…」
「あ、あの馬鹿なんて事を…ごごごごごめんなさい銀さん!そ、そのなんていうか」
「いや、馬鹿を警戒していなかった俺も悪かった
それよりあいつが事故って俺に会う前に向かっていた場所わかるか?」
「ええっと確かバイクを乗り回せる穴場を見つけたとかで…場所は…」
この少女に会ってしまったせいだろうか
――と特別似ているというわけではなかったがこの少女は何故か俺に――を思い起こさせた。
「わかった、ちょっと追いかけてくる」
「え、でも距離が…」
「途中でタクシーでも拾うさ、代金は奴持ちでな」
そういうと俺は走り出した。

数分走り続けて人気がほとんどなくなっているのを確認すると俺は全力で走り始めた。
変身しなくても神玉の力で常人とは比べ物にならないスピードで走ることが出来る。
このスピードなら10分と経たずに目的の場所までたどり着けるだろう。

本当にどうかしていたと改めて自分を信じられない気分になった。
俺は組織への復讐を果たさなければならないのだ。
安らぎを感じている暇など無いはずなのだ。
この異形の仮面の力で復讐を果たす、それだけのために俺は存在していればいい。
そう、組織を突き殺す一本の刃であればいい。
ただの刃に安らぎなど無用の長物のはずだ。

走りながら思案していたその時、一瞬何かが煌くのが見えた。
「何…!?」
咄嗟に後ろに飛ぶと目の前に、透明な剣が突き刺さり道の横から異形の男がゆっくりと歩いてきてこちらを振り向いた。
「ほう、人間にしては速いと思ったが今の一撃をやはり貴公が湖越銀でいいようだな
さて、貴公は我が『好敵手』に相応しいか否か…見せてもらうぞ」
「本当に…今日の俺はどうかしているな…」
そう言って俺は自嘲気味に笑った。

3話「闇より来る好敵手」

よく目を凝らしてみると道路に刺さっていたのはただの大きく鋭いガラス片だった。
ただのガラス片をどう投げたら道路に突き刺さるのかと考えると眼前の異形の男が如何に恐ろしい相手かが推察できた。
「その姿…アウトドラゴンフライと言ったところか」
眼前の異形の男の顔と羽等の形状からそう推察して言葉をかける。
相手に埋め込まれている神玉の種類がわかればある程度戦闘スタイルや弱点が推察できる。
神玉を持った相手と戦う時にはまず考えなければならないことの一つだ。
「ふむ、確かにその名は私の持つ神玉から考えれば妥当なところだが長すぎてどうも気に入っていないのだ
周りには私のことはアウトリヴァーレと呼ばせている」
「そうか、なら俺のことも俺好みの名前で呼んでもらおうか」
「良いだろう、名乗るがいい」
そういうと蜻蛉の異形は相手の話を聞く体制に入った。
「俺の名は…」
意識を集中させると腰に氷のベルトが現れそれが砕けると中から真のベルトが出てくる。
「変!身!」
変身のプロセスを踏むと同時に眼前の異形の男に対して突っ走る。
その間にも俺の体を氷が包み続ける。
完全に俺の体を氷が包んだ時点でわざと氷を周りに向かって砕く。
「仮面ライダー、仮面ライダーウェイブだ」
「名乗ると見せかけての奇襲、私の美学に反するがその勝利への執着心は嫌いではない」
奴に向かって飛ばした変身時に発生した氷が全て捌かれたのを確認して舌打ちをすると
すぐに変身時に発生した氷柱の中からアイスエッジ取り出し構えて奴に斬りかかる。
「いい太刀筋だ、重みもある。
だが少々遅い」
蜻蛉の異形はこちらの剣戟を拳で捌くと俺の胸板に強烈な一撃を放った。
俺は後ろに跳んで威力を殺すとすぐに構えなおして勢い良く跳び出し全力の一撃を放つ。
しかしアイスエッジは虚しく空を斬りアスファルトの地面を切り裂くだけだった。
「なるほど、貴公は我が『好敵手』に相応しい相手のようだ」
奴は俺の頭上より遥か高くに跳びこちらを見下ろしていた。
そして急降下すると俺に向かって背中の羽を広げて斬り付けて来た。
「チィッ!」
辛うじてアイスエッジでその刃を防ぐが降下の際の凄まじい風圧が衝撃波となってこちらを襲い俺は
吹き飛ばされ地面を転がった。
「どうした、もっと私を楽しませろ!」
そういうと奴はまだ体制を立て直せず片膝を付いている俺に向かって跳び込み上から拳を振り下ろして来た。
俺はもう一度転がりながら避けるが間髪無く次の攻撃が来て体制を立て直すことが出来ない。

こちらから攻撃を行う隙が見出せず、攻撃を繰り出せても決定打となる一撃も放てる要素がこの相手に対してはなかった。
俺が組織に居た頃周りに居た怪人とは格が違う、幹部に限りなく近い実力を持つ相手だということは確かだった。
これだけの実力を持った相手だ、こいつを倒せば次は必ず幹部クラスが動く。
日本で今動ける幹部は『あの男』だけだ。
こいつを倒せば、『あの男』を引きずり出せる。
この機を逃せば『あの男』が手の届かない支部へまわるかもしれない。
時間が経てば経つほど裏切り者の俺を完全に潰す包囲網は狭められていくだろう。
完全に八方塞になったとき、俺という復讐の為の刃は折れる。
その前に一刻も早く『あの男』を引きずり出す。
だからこいつを逃がす訳にはいかない。

実力差や不利、俺の持つ物は『あの男』の喉元に喰らいつくための牙以外はあらゆる物を金繰り捨ててでもここでこいつを倒す。

その時、遠くからバイクのエンジンの音が聞こえた。

銀のバイクをトンネルが崩れて回収できずに中に放置という大ポカをやらかして
どう謝ろうかと陰鬱な気持ちで相棒と家路についていると風の乱れを感じた。
よーく耳を澄ますと向こうの方で何か人ならざるものが戦っている気配を感じた。
「まさか銀が…よし、変身!」
さっきのこともあり俺はまたあの異形の仲間が現れたのではないかと思い変身するとバイクを道の脇に寄せて
道路からそれて屈みながらこっそりと道の脇の茂みに身を隠しながら進んだ。

気のせいであることを願いながら幾らかこっそり歩き続けると案の定銀と異形の怪物が戦っている。
茂みに身を隠しながら覗くと驚くべきことにあの銀が完全に劣勢だった。
(嘘だろ…)
自分より遥かに強いと思っていた銀が敗北しようとしている事実に
自分とあそこの異形の間の圧倒的な差を説明されるまでも無く理解して絶望的な気分になる。
(でも俺がやらなきゃ…今なら後ろから…)
俺がここから奇襲で一撃食らわせれば形成逆転できるかもしれない。
いや、ここで俺が一発逆転させなくてはならない。
俺は最高の一撃を放つために意識を集中した。

あれから数分打ち合いを続けているが、やはり防戦一方から抜け出せない。
それどころか反撃の糸口も見出せない有様だった。
そうしていると道の横の茂みに雅が変身してたままで隠れているのが見えた。
(馬鹿が…)
やはりさっきのバイクの音はこいつだったか。
明らかに眼前の異形は気付いているだろうが気にもかけていない様子だった。

(…雑念が多すぎるな)
もうそんなことはどうでもいいのだ、今の俺はこいつを倒して『あの男』を引きずり出し
そしてその喉元に突き刺さる一振の刃、ただそれだけでいいのだ。
そう、全ては其処へ辿り付く為のみに存在しているのだ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
潜んでいた雅が蜻蛉の異形に一撃を与える為に空高くへと跳び出した。
そう、それでいい。
蜻蛉の異形は遥か高くから一撃を加えようとした雅に対して真っ向から必殺の一撃を与える。
(その瞬間が隙だッ!)
既に俺は技を放つ体制に入っていた。
蜻蛉の異形は雅の相手をした瞬間わずかながらこちらへの注意を逸らして隙を見せていた。
「マイナス――」
蜻蛉の異形がこちらに向き直ろうとするがもう遅い。
「――スラッシュ!」
回避不能のタイミングで全てを凍らせる氷刃にて奴の胴を両断する

筈だった。

「…悪くなかったのだがな」
「あ…ガッ…」
有り得ないはずのことだった。
あの距離、タイミングで俺が仕損じることも、奴の手刀が俺の剣戟より速く俺の左肩を切り裂いたことも。

「ひよっことはいえ少し見ていれば私との力量の差くらいはわかっただろうに
それでも私に一糸報いて友を助けようとしたそこの男も
…そしてそれを止めねば返り討ちにあって死ぬだろうということをわかりながらも
私を倒すことを優先した貴公の勝利への執念もな」
今の一撃で倒せなかったなら仕方が無い。
早く次の手を考えなければならない。
早く早く早く早く…
「そう、未だに勝負を捨てないその執念は尊敬に値する
貴公らに敬意を表してここは退くとしよう、私も痛手を負った。」
そう言うと奴は俺の一撃が掠ったのか凍りついた脇腹を撫でた。
「そうだ、言い忘れていたがそこの男はまだ生きているぞ
…あの時の蹴りはひよっことは思えないほど素晴らしかった
私の攻撃の威が完璧では無いながらも相殺されたよ」
雅の方を見ると僅かにだが確かに動いていた。
「傷を治して万全の力でいつか戦おうではないか
その時はもっと私を楽しませてくれ」
そうだ、もっと強くならなくてはならない。
強く鋭く冷徹な、『あの男』の喉元に突き刺すための刃を磨がなくてはならない。
去って行く蜻蛉の異形を見向きもせず俺はそのことだけを考え続けた。

4話「少女とゴシップ記事」

「…知らない天井…」
目が覚めると、前方に見覚えが無い薄汚い天井が広がっていた。
どこかで聞いたようなことをつぶやいたりしてベッドから起き上がり辺りを見回すと
ベッドの横の椅子に座った銀がハムエッグとトーストを気だるそうに頬張っていた。
「む、起きたか
思ったより治りが早いな」
銀はそそくさと残ったハムエッグとトーストを口に押し込んでミルクで流し込むという
もったいない食べ方をするとこちらに向き直って真面目な顔で話を始めた。
「色々あっていい加減に延び延びになっていたが俺達が戦う組織について話そうと思う
寝起きで悪いがあまり時間を掛けたくない、一回で頭に入れろ」
「ぁ、ああ、わかった
真面目に聞くよ」
寝起きだし元来暗記とかそういうのは苦手な方なのだが真剣なまなざしに気おされて俺は気を引き締めた。
「お前が攫われた組織の名前はアウトロン
世界征服を目論む悪の秘密結社だ」
「…なんかいきなり胡散臭い話になったが今までのに比べればマシか…」
かなり突飛な話だったので頭を抱えそうになる。
しかし今までのことに比べればよっぽどまともな話ではあった。
普通の悪の秘密結社は怪人とか送り込んでこないだろう、多分。
「話の腰を折るな」
銀が話をしている最中に口を挟んだからか不機嫌そうに眉を顰めた。
「それでだ、アウトロンが世界制服をするに当たって目をつけたのが神玉だ
俺やお前の腰の辺りに埋まっているのがそうだ」
「お、これか…」
へその下辺りを触ると硬くてすべすべしたものがあった。
体に異物が埋まっているというのに不思議と違和感や異物感などといったものは感じなかった。
「そいつを体に埋め込むと俺やお前、そして俺達が戦った奴等のように変身して
人の限界を遥かに超える力を出すことがことが出来る」
「へぇ…そんなにすごいのか?」
確かにその辺りのことは身に染みて理解してきた。
しかしそれでもこいつが世界征服が出来る程の力だというのはにわかには信じがたいものもあった。
「そのうち体で理解するさ、お前はまだ力を使いこなせていないからそう感じるだろうがな」
銀は一瞬俺の腹の辺りに目をやると一度ため息をついた。
銀は考え込むように数瞬の間虚空を見つめるともう一度真剣な瞳でこちらを見つめながら
彼の戦う動機となるものを語った。

「それで俺は人類の自由と平和を守るために組織を脱走して戦うことを決意した訳だ」

「そ、そうなのか、意外と正義感あるんだなお前」
それまでの印象からは思いもよらない動機を告げられて少々面食らった。
しかしすぐに素直にいい奴だと見直した。

「まぁ、な」
銀が少しこちらから目を逸らした。
きっと褒められて少し気恥ずかしかったのだろう。
口元には少しはにかんだような笑いが浮かんでいた。
「そして仲間を増やすために洗脳前のお前を救出した訳だ」
「な、なるほど」
これで何故銀が俺を助けたのかとか何故追われているのかとか今まで謎だったことが全てわかった。
「そうと分かったらもちろん俺も手伝うぜ!
いや、このことをみんなに言えばみんなで力をあわせてアウトロンを潰せるぜ!
とりあえず警察にこのことを言ってだな」
意気込んですぐに考え出した俺の提案は銀にすぐさま却下された。
「駄目だ、既に警察や報道組織などあらゆる場所に組織の者が居る
言ったところで与太話として揉み消されてこちらの所在もバレて消されるだけだ」
予想以上に組織の力が強く、既にこの国にも潜りこんでいることを告げられて驚く。
「じゃ、じゃあどうすれば…」
「決まっている、奴等の頭を潰していけばいい
俺達の手でな、そうすれば組織を瓦解させて潰すことが出来る」
「なるほど…」
具体的にどうすれば良いのかはわからないがとにかく孤独な戦いになりそうなことだけはわかった。
「それじゃあこれからはここを拠点に戦っていくんだな!?」
「いや、足が付くとまずいからニ、三日すれば別のホテルへと転々としていく予定だ
とりあえず連絡先だけは教えておく。何かあったらこちらに連絡を入れろ
俺も助けが欲しい時は俺もそちらに連絡を入れる」
そういうと銀は携帯を出して来たのでこちらも携帯を出して電話番号とメールアドレスを交換した。
「いいか、絶対にお前が変身できることは周りには悟らせるな
アウトロンに知られればお前だけでなく周りにも迷惑が及ぶことは間違いない」
「ああ、わかった」
おやっさん達にだけは迷惑を掛ける訳には行かない。
そういう思いを込めて強く頷いた。
「とりあえず言いたいことはこれだけだ
ホテルの前にお前のバイクが置いてある、心配かけているだろうから早く家に帰っておけ」
「…あ」
バイクといえばすっかり忘れていたことがあった。
「あのさ、銀
実は例のトンネルに…」
「…諦めろ、恐らくお前の相棒とやらはもう助からん
あの場で殺されたか組織に連れ去られて神玉を埋め込まれたかのどちらかだ」
恐る恐る銀のバイクがトンネルの中に放置されていることを告げようとすると
なんだか受け答えがうまく噛み合わない。
「え、相棒はホテルの下に居るんじゃないの?」
「……まさかお前の相棒というのはあのバイクの事じゃないよな?」
銀が眉間の辺りに手を当てて苦笑いをした。
「ああ、そうだけど」
言う終わるか否かの次の瞬間視界が真っ暗になるとコメカミに凄まじい痛みが走った。
「アダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!」
頭蓋骨に万力で押しつぶされるかのように鈍い力が加わる。
「参考までに教えてやろう、この力を手に入れてから正確な握力は測っていないが
今の所この姿での最高記録はボーリングの玉だ」
「痛い痛い痛い!ゴメッ!ギブ!ギバァーップ!!!」

あれから1週間ほど経った。
俺は三度宿泊先を変え、今は町外れの寂れたホテルに泊まっていた。
宿泊代などの生活費に関しては組織の構成や全容については全くわからない尖兵のような扱いだったが
役職だけはそれなりだったおかげで金だけは組織から脱走する際に纏まった量を盗みだすことが出来ていた。
「しかし即興の嘘でも結構騙せるものだな、まぁ相手が相手だったからだろうが」
あの時雅には俺の動機を含めて必要のない情報
俺の思い通りに動かすのに支障が出る可能性のある情報はその場限りの嘘で塗り固めておいた。
正直良いのが思いつかなくてあんな適当な嘘だったのでバレるんじゃないかと心配だった。
嘘をついた際も完全に口元が引きつっていた気がするし何度か目を逸らしてしまった。
しかしあの後雅からは「一緒にがんばろーぜ!」とか「何か俺にやることは?」といった連絡しか来ていないのでひとまず大丈夫だったようだ。
とりあえず「何かあったらこちらから連絡するからくだらないことで一々連絡してくるな」と釘を刺しておいた。

とにかく今は情報も力も無いのだから力を蓄えつつ隠れながらアウトロンの尻尾を掴まなければならない。
「そのために重要なのは雅だ…」
蜻蛉の異形相手に生き残ったこと、一週間前に見た高い回復力
間違いなく奴には神玉への高い適応率、すなわち強くなる素質があった。
最初は組織にオリジナルの神玉を渡さないための措置で、捨て駒程度にしか考えてなかったが
蜻蛉の異形との戦いを経てより上層部の敵を倒すためには雅を使い物になるレベルまで育てる必要があると考えを改めた。
とりあえず実戦経験をもっと積めば大分変わるだろう。

だが今はそれより情報が欲しかった。
余りにも情報が無くこちらからはアクションが出来ずに今は防戦一方にならざる終えない状況だ。

そういう訳で今俺は携帯で片っ端からメールマガジン形式で配信される情報誌を読み漁っていた。
大規模な新聞社等の大きな情報流通ルートは既にアウトロンに抑えられているが
日本中に点在する小さな情報誌などは流石に完全に抑えることは出来ていない。
当然危険な情報は見つけ次第真っ先に揉み消しにかかるが
単なるゴシップとして処理されて風化してしまうような問題ないと判断された場合は態々潰しにかかるような面倒は犯さず
そのまま放置されている場合もある。
以前にも組織の下級層が一人、姿を見られてしまい地方の小さな情報誌にすっぱ抜かれたことがあるがただのガセ情報として風化していった。
だから今は大規模でまともな情報を伝えてくれるものより小さなデマスレスレの情報を配信している胡散臭い情報誌の方が役に立つのだった。

「…金色のザリガニ…これは流石に無いか」
その分うんざりするほどくだらない情報も多いが文句は言っていられない。
顔が割れているのだから外に出て積極的に情報収集するのは危険が伴うのだ。
ある程度の目星をつけてから動く必要があった。

「あははははは!みてみて雅これ!」
「お、何だそれ」
休憩室からバイトのアカリちゃんの笑い声が聞こえてくる。
朝ごはんには遅く昼ごはんには早い微妙な時間帯で客は全然来ていなかったので
雅とアカリちゃんは奥の休憩室で休んでもらっていた。
「いやこのメルマガなんだけどさ、金のザリガニに毛の生えたカエルだってー
よくこんなの載せられるよねここ、あんまりにも馬鹿馬鹿しくってさー」
「いやそんなとこのを購読してるお前もどうかと思うが」
「別に真面目に読んでるわけじゃないわよ
変な記事ばっかり載せてて面白いからとってるだけよ
ほらこの下のほうの『謎の連続失踪事件 未知の生物の関与の可能性か!?』とか
多分書いてる人だって真面目に書いてるわけじゃないでしょ」
「ふっ、所詮お前もガキだな…見ろこの発見者の隣に写っている取材に来た記者の顔を!
こいつは間違いなくロマンを追いかけてる時の男の顔!こいつは真剣にこの記事を書いてるんだ!」
雅がまた元気よくしょうもないことを力説して叫んでいるのが聞こえた。

「……それはそれでどうなのよ」
「うん、どうなんだろなー若いったって曲がりなりにも社会人としてなー」
「この記事の文章もとても本職の記者とは思えないしね」
二人とも楽しげにゴシップ誌の話をしているようだった。
仲良きことは美しきかなといったところか、若者達はああやって元気にしてるのが一番いい。
さぁそろそろお客も来だす頃だし二人を呼んで来るかな。

結局『謎の連続失踪事件 未知の生物の関与の可能性か!?』が気になって
『ω』での仕事が終わった後相棒と一緒に現場に直行してきてしまった。
あまり余計な行動を起すなと銀に言われていたがこれくらいならまぁいいだろう。
それに「くだらないことで一々連絡するな」と言われた後なので流石に銀に連絡を入れるのは気が引けた。
記事によると失踪者が消えた時間帯は夜ごろが多くその時間帯に2m程度の人影らしきものを見たという証言がいくつかあったらしい。
ひょっとしたらアウトロン絡みの事件かもしれないと思い来て見たのだった。
「でもなー金のザリガニとか載せるところの記事だしなー」
適当に一回りして帰ろう、そう決めると俺は再びバイクを走らせた。

「んー、やっぱ何も無いなー」
20分ほどのろのろと走り回っていたが何もない、やはりただのガセネタだったようだ。
「あ、雅」
そろそろ帰ろうかと方向転換してバイクを走らせるととアカリと出くわした。
アカリは俺の顔を見てなぜか驚いたような表情をした後嫌そうに目を逸らした。
なんだか少し腹が立った、俺が何をしたって言うんだ。
「おいおいお前なんでこんなとこ居るんだよ」
まあそれはそれとしてこのまま帰るのもなんだったので
俺はバイクから降りてアカリに話しかけた。
「あ、あんたこそなんで居るのよ」
まずい、アレだけ馬鹿にした手前あの記事が気になって来たとは言いづらい。
「いや、その散歩に…そういうお前は何してるんだよ」
俺は苦しい言い訳をすると話を逸らしにかかった。
「あ、あたしはその、晩御飯の買い物に…」
アカリは話を振られると何故かまた目を逸らした。
「この辺住宅ばっかでコンビニくらいしか無いぞ」
「…晩ごはんをコンビニおにぎりで済ませたい時もあるのよ」
「お前の家もっと近くにコンビニあるじゃん」
「ツナマヨが売り切れてたのよ!」
異様なまでにムキになって買い物に来たということにしようとしている。
「そ、そうか」
余りの必死さにこいつも俺と同じであの記事が気になったから来たんだな
となんとなしに察した。
アカリが謎の生物とかに興味があったとは中々驚きだ。
こいつは堅苦しいくらい常識人な奴だと思ってたんだが意外な一面を見た気がする。
女の子の意外な一面というともっとドキドキとかきゅんきゅんとかしてくれても良さそうなものだがそれは諦めるとしよう。
「まぁなんでもいいけどここって失踪事件とか多発してるんだろ?
あんま夜に女の子が一人で出歩くような場所じゃないぞ」
「ん、そうだね
雅にしてはまともなこと言うじゃない」
「俺はいつだってまともだ」
心外なことを言われた俺は顔をしかめて反論した。
「どこがよ、あんたも危ないから早く帰りなさいよ!」
アカリは笑いながらそういうと後ろを向いて足早に帰っていった。

「さて、何にもなさそうだし俺も帰るか…」
「いいところに来たな」
「うぉあ!?」
向こうの道の曲がり角から突然声を掛けられて俺はびっくりして身構えた。
「まさかこんな所でお前と出くわすとはな
折角だ、付き合え」
「…付き合えって何にだよ」
俺は銀の急な出現と申し出に戸惑って頭を掻いた。
「俺がお前に頼むことと言ったら決まっている、アウトロン退治だ」
異常なほどタイミングよく出てきた銀だがひょっとしてアウトロンの話だから
アカリが帰るまでそこの角で待っていたのだろうか。
その姿を想像しようとしたがシュールすぎて吹きそうなので心の中でやっぱりやめておいた。
「え、何か奴等の尻尾を掴んだのか銀!?」
それはそれとして俺が特に何も出来ずにこんな胡散臭い情報に釣られてうろついている内に
アウトロンの情報を手に入れるとは流石銀と言った所だろうか。
まさか銀があの記事を読んでここに来たということも無いだろうから
別の筋から情報を仕入れたのだろう。
「ああ、外は余り出歩きたくないからメールマガジン形式で配信されている情報誌を見て回っていたら怪しい情報があったんでな
来て見たらどうやら当たりらしい」
「…えー?」
どうやらあまり当たってほしくない方の予想が当たっていたらしい。
俺は肩を落として怪訝な顔をした。
「そこら中に組織の怪人の痕跡が残っているだろ、例えばそこだ」
暗かったので気付かなかったが銀の指差した先の横道の壁には何かで引っかいたような大きな傷が残っていた。
「お前、よく気付くなこんなの」
この薄暗い中で脇道の傷跡なんてよく見つけたものだと感心した。
「目はいい方なんでな、特に夜目はよく効くんだ」
どうと言う事は無いといったような口調で銀は言った。
「とにかく一連の誘拐事件は組織の仕業だ
神玉を埋め込んで自分達の兵隊として使おうというのだろう、間違いない」
「ほんとかぁ?」
普段なら銀の言うことをすぐに信じていただろうが情報源が情報源なだけに今ひとつ信用できなかった。
壁の痕跡も建築機材とかそういうので間違って削ってしまったのをそのままにしているだけでは無いかと半信半疑だった。
銀の勇み足という奴ではないだろうか。
きっと組織のことばかり考えているから何でも組織に結び付けて考えてしまうのだ。

「きゃああああああああああああああ!!」
その時、さっきの銀以上に良過ぎるタイミングで甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「ほら見ろ、俺の言った通りだろ?」
「…って言うか今の悲鳴まさか…アカリ!?」
俺は今この辺りで被害者になりそうな人リストから真っ先にアカリを思い浮かべると
すぐさま悲鳴の聞こえたほうに走り出そうとした。
「待て」
しかし飛び出す俺の腕を何かが掴んでいた。
「何するんだよ!早く行かないと危ないんじゃないのか!?」
俺は銀に腕を掴まれて苛立ちをあらわにして怒鳴った。
「変身してから行け、変身するところを彼女に見られると面倒だ」
俺はこの生活が長いだけあってこういうことには頭が回るのかと感心はしたものの
やはり煩わしい制限に焦りは隠せない。
「わかったぜ、変身すればいいんだろ!変身!」
俺は一陣の風と共に現れたベルトに意識を集中し今まで通りに変身へのプロセスを踏んだ。
すると俺の体は風に包まれ、その風が爆ぜると共に俺の体は異形の戦士へと姿を変えた。
「変!身!」
同時に銀も同様に変身プロセスを踏んで氷に包まれ、そして砕かれた氷の中から銀の変身体が現れた。
「っしゃあ!待ってろアカリ!」
「待て」
二度も止められて俺の苛立ちも限界に達しつつあった。
「いい加減にしろよ!今度は何だってんだ!?」
「折角だ、バイクを見てみろ」
「この姿なら相棒には悪いけど走ったほうが速…?!」
言われた通りにバイクの方を見るとそこには風のように
優美な流線型のフォルムへとドレスアップした相棒がそこに居た。
ダークグリーンの塗装にライトの部分はまるで赤い昆虫の目のようだった。
なんというかまるで同窓会でクラスで地味だった女の子がいきなり美人になっていて
誰だお前何があったと問いただしたくなるようなそんな気分になった。
「す、すげぇ!どうなってんだこれ!?」
「いいから急げ、逃げられるぞ!」
「あ、うん」
「俺は後から追う!急げ!」
微妙に釈然としない気持ちで俺はフルスロットルで相棒と共に悲鳴の聞こえた方へ向かった。

「待て!」
「何!?」
俺はアカリを抱えて闇夜に消え去ろうとする異形の男を大声で呼び止めた。
姿を変えた相棒はまさに疾風の如きスピードで闇に潜んでいる異形に追いついたのだ。
「…貴様か、ウェイブと共に組織を裏切ったという奴は」
こちらを軽やかな動作で振り向いた異形はすらりと伸び、且つ力強さを感じさせる二足を持ち
顔は猫科の持つ機能美に富んだ美しい形であるが口元から伸びた太い血管が醜く盛り上がり
その中で二つ闇夜の中でもギラギラとした鋭い眼光には肉食獣特有の力強さが感じられた。
漆黒に包まれたその表皮の中によく見ると丸い黒斑模様、所謂豹柄が隠されており黒豹の異形であることが見て取れた。
そしてその力強い腕と爪にはぐったりとして意識の無いアカリが居た。
「てめぇ…アカ…いや、その娘に何をしたぁ!?」
「ふん、生きが悪くなるようなことはしないさ
大事な実験材料だからなぁ!」
そういうや否や黒豹の異形はアカリを捨ててこちらへ向かって一瞬で距離を詰めに
鋭く闇夜に煌く爪を振りかざしながら長く伸びた足で走り出した。
「くっ!?」
俺は慌てて相棒から飛び降りるが黒豹の異形はすでに数十センチの距離にまで肉薄してこちらに腕を振るい爪を突きたてた。
俺は胸の装甲に傷を受け、吹っ飛ばされてゴグっという音を立てて壁に叩き付けられた。
すぐに立って体制を整えようとする俺を黒豹の異形は一回転しながらこちらに飛び掛り勢いを付けた爪で俺の腕を切り裂いた。
「うぅぅらぁあああっ!!」
追い詰められた俺は地面に転がったまま
こちらに覆いかぶさろうとする黒豹の腹を思い切り蹴りつけると
地面をゴロゴロと転がって勢いをつけて立ち上がりながら距離を離した。
「こいつ…速いぞ…!」
こうも矢継早に攻め立てられては俺にはロクに反撃することさえ出来ない。
風を読んで相手の攻撃を避けることもこうまで速さに差があると体が追いつかない。
この相手に殴り合いは不利だと感じた。
「ちっ…思ったよりは…だがそれでも大した相手ではないな
人が集まる前に終わらせるか」
黒豹は肉食獣が獲物を見る目でこちらを睨み付ける。
俺は奴にとって餌という訳か、だがそうは行くものか。
奴の猛攻撃に晒される前にこの前の技で一撃で決着をつける。
「はああああああ…」
俺は心を集中させ体に風を纏う。
この風の力を持って一気に跳びあがって目の前の異形をこの足で貫くのだ。
「たっ!がぁ!?」
風に乗って空高く舞い上がらんとするか否かの瞬間に黒豹の異形が跳びこんだ。
大きく開いた口の中にある綺麗な宝石の中の目と目があったと思った瞬間
鋭く大きな二つの牙が俺の顔を切裂こうと俺に触れ
牙に突きたてられることは辛うじて避けたものの俺は跳び立てずに空中で体制を崩した。
その勢いのまま走りぬけた黒豹の異形は勢いを殺さずにこちらに向き直って走りこみ
空中で半回転していた俺の腹を両手の爪で切裂いた。
俺はその勢いでそのまま地面に叩き付けられた。
「う…痛ぅ…」
そこら中を切裂き叩き付けられて体中がズキズキと痛んだ。
「さぁ、トドメといくか」
黒豹の異形は俺に優雅に歩み寄るとトドメを刺そうと爪を振り上げそして

鋭い何かが異形の腕に突き刺さった。
「何!?」
「全く、何て体たらくだ」
声の先には変身した銀が居た。
口から糸を吐き黒豹の腕に先端につけた氷を突き刺していた。
「お、遅いだろギ…ウェイブ!」
「誰の所為でバイクが使えないと思っているんだ…!」
「貴様がウェイブか!こいつのトドメを刺したら次は貴様だ!」
「あ、やべちょっと待っ…!」
黒豹の異形が糸の突き刺さっていない腕で俺にトドメを刺そうと爪を振り下ろす。
「ふんっ!」
「何!?」
銀が首と体を大きくひねると糸に引っ張られた黒豹の異形は
宙を舞って道の向こう側に叩き付けられ跳ね返って道の脇の花壇に落ちた。
「サンキュー!助かったぜウェイブ!」
「何をやっているんだお前は、この程度の相手に梃子摺るな
大体何故そこにバイクがこけているんだちゃんと使え
相手は人間だと思うな非常になれ轢殺せいいから轢殺せ世間が許さなくても俺が許す
それが無理でも盾にするくらいは出来ただろうがそれにそこの壁思い切り叩き付けられた痕があるぞ
受身はちゃんと取れダメージを食らいすぎだ装甲が傷だらけになっているぞ
もろに喰らうな相手の攻撃は刃が立たない用に角度を考えろ」
せっかくお礼を言ったのに銀はすさまじい勢いで俺に駄目出しをしてきた。
早口だしそんなに一編に聞き取れないのだがどうしたものか。
「いや、バイク好きとして轢殺すのはちょっと…」
とりあえず一番気になった点がそこだったのでそこだけ意見を言っておくことにした。
「相手を人間だと思うなと言っているだろ
俺達にしか奴等の野望を打ち砕くことは出来ないのだからきっとそのくらいは許される」
銀が無茶な理論でさらに俺にひき逃げを薦めて来た。
「いや、法律とかそういう問題じゃなくて轢くという行為自体に抵抗が
あいつ見た目猫に近いし」
「じゃあ虫とかそういうモノだと思え
そのくらいなら普段から気付かない内に轢いてるだろ」
「うう…もうお前やってくれよぉ…」
どうあっても銀は俺に轢逃げ攻撃を強要するつもりらしかった。
俺はやはり嫌だったので銀に丸投げしようとした。
「無理だ、この前の傷がまだ治っていない
動くのがやっとだ」
「く…なら仕方ないか」
普通に動いてる気がしたが本人にしかわからないレベルで色々あるんだろう。
俺は観念して相棒の方に向かった。
「私を無視するなぁああああああああああ!!!」
その時突然花壇に頭から突っ込んでいた黒豹の異形がむくりと起き上がり吼える。
「おっと、もう少しじっとしていろ」
銀はそういうともう一度体をひねって黒豹を宙に舞わせる。
「そう何度も同じ手を喰うと思うな!」
「それくらいわかっている」
引っ張る糸に上手くあわせて跳んだ黒豹の異形を銀は氷の大剣を投げつけて迎撃し
もう一度体をひねって壁に叩き付けた。
「早くしろ、傷に響く」
「わかってるって…行くぜ相棒!」
俺は相棒を引き起こすとコケても全然塗装禿げないな等と考えながら
キックペダルを踏みおろしてエンジンを入れると
相棒に跨りアクセルを踏んだ。

「遅い、今の動作を5秒で出来るようになっておけ」
「また駄目出しかよ…」
まだ初心者なんだからもうちょっとソフトにいってほしい。
「貴様等…馬鹿にしやがって…!馬鹿にしやがってぇええええええ!!!」
最初あったときの静かな態度を金繰り捨てて激昂した黒豹が俺と相棒に向かって跳びかかる。
俺はとにかく距離を取ろうとフルスロットルで相棒を前進させる。
「スピードで私に勝てると…何!?」
俺と相棒は黒豹の異形を遥かに突き放すスピードで道路を一気に駆け抜ける。
十分に距離が開いたところで俺はフロントブレーキをかけてリアタイヤを浮かし
そのままリアを蹴りまわしてUターンして勢いを殺さずに黒豹の異形に向かってさらに加速した。
「わ、私より速いだと…糞、糞ぉおおおおおお!」
痛くプライドを傷つけられた様子の黒豹の異形がこちらに爪を振りかざして向かってきた。
二人の距離は数瞬にして縮まりお互いが肉薄する。
「今だ!」
「何!?」
俺はさっきUターンした時にやったテクをさらに勢いをつけてやった。
黒豹の異形がリアタイヤに思い切り吹っ飛ばされる。
俺はそのままの勢いで360°回転すると吹き飛んで空を舞っている黒豹の異形に向かってフルスロットルで踏み込んだ。
相棒が風を切って進み切裂かれた風は俺たちに纏わり力となるのを感じた。
「さっきの…お返しだぁぁぁあああああ!!!」
風を纏った俺と相棒は落下直前の黒豹の異形にそのまま体当たりした。
さらに遥か向こうへ吹っ飛んだ黒豹の異形は空高く舞い上がりそのまま空中で爆発した。
轟音が耳を劈く中、俺はあれだけ苦戦した相手が相棒と一緒なら倒せたことに色々と感慨深いものを感じた。

「色々と聞きたいことがあったんだが…
まあ色々と収穫もあった、これで良しとするか」
いつのまにか近くにまで歩み寄っていた銀が言った。
「おう、助かったぜ銀!
…あ、アカリ」
銀の肩には気絶したアカリが担がれていた。
地面に転がされたせいか少し汚れていたが怪我も見当たらないしどうやら無事なようだった。
「とりあえずこの娘を何処か安全な場所に連れて行く
後ろに乗せろ」
「あ、うん…ところでさ」
俺はアカリの無事も確認して安堵したところで恐る恐る銀に一つお願いをしてみることにした。
「何だ?」
「たまに変身してこの状態の相棒乗り回しちゃだめ?
ちゃんと人気の無いところでアイダダダダダダダ!!」
今度は喋ってる途中でいきなり視界が真っ暗になると再びコメカミに凄まじい痛みが走った。
「俺が絶対にお前が変身できることは周りには悟らせるなと言わなかったか?」
「い、言ったけどちょっとくら痛いいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「参考までに言うと変身した状態での最高記録は鉄球だ
まあそれより硬くて丁度良いサイズのものが見つからなかったんだが」
銀は『俺の頭蓋骨の寿命は後数秒』と言いかえられなくも無い事実を告げるとさらに力を入れた。

「ちょっと雅!みてみてこれ!」
「あ、またそれか」
休憩室からバイトのアカリちゃんの笑い声が聞こえてくる。
朝ごはんには遅く昼ごはんには早い微妙な時間帯で相変わらず客は全然来ていなかったので
いつもどおり雅とアカリちゃんは奥の休憩室で休んでもらっていた。
「『謎の連続失踪事件続報! 未知の生物に襲われた少女に直撃インタビュー!』?
なんだこれ」
「ふふっ、遂にあたしも時の人って奴よ」
「…お前かよ少女Aって…」
「まーね、これであたしが言ったこと少しは信じた?」
「…やっぱ夢だろ、うん
病院なら探すぜ?」
「うー!結局この記者さんしかあたしの話信じてくれないー!」
「そりゃあな、作り話なら常識の範囲でやってくれよ」
「くっ、見てなさいよ
いつか尻尾掴んでやるんだからー!」
「やめとけって…」
アカリちゃんはどうやらこの前暴漢に襲われてそれを謎の生物と思い込んでしまっているようだった。
怪我も何も無く教われる前に雅が間に合って大事は無かったらしいがショックは大きかったようだ。
きっと脳が心を嫌な記憶から守ろうとする作用が働いているに違いない。
私も大人としてちゃんと彼女の心のケアを考えてあげなくてはならない。
そしてそのためには今は雅とああやって馬鹿やってるのが一番いいだろう。
そんなことを思いながら今日も私はこの店でグラスを磨いていた。

5話「めぐりあい」

「ゲ、ゲー!」
蛙の異形が小さく縮こまった体制から大きく跳ねて脱兎のごとくこの場から逃げ出そうとする。
「追え、雅!」
「わかってるさ!」
俺は銀に言われるまでもなく瞬時に相棒のバイクを走らせると空高く跳ぶ蛙の異形を追い抜いて止まった。
「ゲ!?」
慌てた蛙の異形は今度は左に跳んで逃げ出そうとした。
「逃がすかよ!」
俺は相棒の上に立つと意識を風に集中させる。
心で風に呼びかけ力を貸してもらう。
そんなイメージを心の中で作り上げると本当に風が自分に集まってきて力になるのだ。
この力を手に入れてから初めて覚えた不思議な感覚だったが嫌な気分はせず
逆に高翌揚感さえ感じる。
「はああああ…はっ!」
風の力を存分に受け取った俺は跳び上がった蛙の異形を倒すべく共に跳びあがる。
蛙の異形の真上で跳躍の頂点に達し下に居る標的を見据えた。
「ゲゲゲ、ゲー!!?」
「たぁりゃああああ!」
追い風を背に受けた俺の蹴撃が上空から蛙の異形の体を踏み抜いた。
蛙の異形の体が背中を中心にグヌリと歪み遂には貫かれる。
「シャっ!」
俺はその勢いのまま地面に着地すると後ろの方で蛙の異形が爆散する音が聞こえ爆風が背を撫でた。
「ふむ、それなりに様になってきたようだな」
「まぁねー」
銀が珍しく俺を誉めたので俺は気をよくして腕組みをして胸を張った。
「よし、帰るぞ」
「あ、あれ、そんだけ?」
さらなる賛辞を期待した俺は手早く帰り支度を始める銀の様子を見て70年代風にずっこけた。
相変わらず銀は駄目だしはよくするが誉めることは滅多になかった。
しかしたまに誉めてくれたのだからもうちょっといろいろ言ってくれればいいのに銀はこちらを見向きもしない。
「早くこの場を離れるぞ」
「…っちぇー」
銀が数日前何所からとも無く新たに仕入れてきたバイクに跨ったのを見て
俺はこれ以上のお褒めの言葉は無いと観念して相棒に跨りにいった。
ちなみに最初に銀が乗っていたバイクは未だにあのトンネルの下だ。
そのうち助け出して俺がレストアしてやりたいが
銀にあの場所は組織が張っている可能性が高いので迂闊に近寄るなと言われていた。
もし行くなら入念に計画を練ってから行きたいということらしい。
だから回収するならその時か組織を倒してからだな、とそんなことを思いながら変身を解いて家路へと着く俺たちであった。

新しいバイクにはやっと馴染めて来た様だ。
態々以前乗っていた改造バイクと似た物を探すのに苦労した甲斐があった。
今は人気の少ない寂れた街道を低速でゆっくりと走らせているところだった。
あの後俺はアウトブラックパンサーやその後に現れた昨日のアウトフロッグのような
組織の怪人による誘拐事件の詳細について調べた。
調べた結果案の定被害者には女性が多くさらに詳しく被害者の詳細を調べたところ
比較的美人に分類される女性が多かった。
さらに事件現場を調べてみたところかなりアウトロンのものと特定出来るような証拠が多く
また、事件が発生するのは2、3日置きという非常に短いスパンで
これでは誰かに組織の存在を気付かれかねない。
それは俺の様な組織を知っている人間が相手ならば簡単に尻尾をつかめるということだった。
そこから導き出した結論はこの区域の組織の構成員は非常に杜撰な指示の元に動かされているということ。
そして最初に言ったように女性、それも美人が被害者に多いという点から考えられる下種な気配から
この区域の指揮を執る幹部は奴としか考えられない。

「いつまで俺の後ろをうろちょろしている気だ
態々後ろを付け易い様にノロノロ走ってやっているんだ
気を利かせてとっとと出て来い、雑魚に時間を掛けたくないんだ」

「雅、ちょっとジョージの散歩行って来い」
「えーいやですよ、ジョージ俺のこと噛むし
いつもはおやっさんが行ってくれてるじゃないですか」
「ちょっと今日は腰が痛くてな、歩くのが辛いんだ」
そういうとおやっさんは辛そうに腰を擦る。
「あ、だったらカウンターあたしがやりましょうかマスター?」
アカリがすかさずおやっさんのそばに寄り添って背中を撫でて心配そうに聞いた。
「あ、俺もカウンター仕事の方がいいなー」
「黙れ味音痴」
「…はい」
打開策を見つけたと思いきや音速でアカリに却下されてしまう。
「いや、これだけは自分でやらないとな
ましてや雅なんぞに死んでもやらせられりゃしないよ
アカリちゃんはいつもどおりウェイトレスやってくれるだけで助かるから」
「そうですか、わかりました
でも今日はマスターの分までビシビシ働いちゃいますから!」
アカリがぐっとガッツポーズをとってやる気をアピールした。
「俺もビシビシ働いちゃうぜ!」
俺もアカリを真似てポーズをとってやる気をアピールした。
「いいからお前はとっとと散歩連れて行け」
おやっさんはそういうと入り口を指差した。

そういう訳で俺は今ジョージの散歩をしていた。
首輪にリード付けるまでに俺とジョージの凄まじい死闘が繰り広げられたが
お気に入りの服に噛んだ後がくっきり残るという尊い犠牲を出してなんとか俺が勝利し散歩に行くことが出来た。
子犬の頃はあんなに可愛かったのに何故こんなことになってしまったんだろうか。
こいつが小さい頃はヒモで背中に縛り付けて一緒にバイクで走り回って
遊んでやったりしたというのに何故こんなに嫌われてしまったのだろう。
まあ散歩だと分かれば放っておいてもちゃんといつもの散歩ルートを勝手に進んで行ってくれるのでなんとか噛み付かれずに済んでいる。
そういえばこの散歩ルートはあのトンネルの近くだった。
危険を承知でジョージの散歩ルートを変更すべきだろうか、それともこのまま行くべきか。
俺は真剣にリスク計算をし始めながら歩いていた。

数分考え続けてもう大分近くまで来てしまっているし実際にトンネルの前まで行くわけでもなく近くを通るだけだし
噛み付かれるリスクを負うくらいならこのままいつもの散歩ルートを行こうと結論をだした。
「グルルルルル…」
と思ったら即座に臨戦態勢で威嚇を始めた。
なんとかなると思ったのにそんなに俺が嫌いかジョージ。
しかしよく見ると様子がおかしい。
ジョージが威嚇しているのは俺とは全然違う明後日の方向だ。
「おい、どうしたジョージ…?」
あっちの方には何も居ない、ただの林だって言うのに何故かジョージは威嚇を続ける。
おかしい、明らかにおかしい。
よく気配を探ると風の動きがジョージが吠えている辺りからおかしくなっている。
「だ、誰か居るんですか…?」
我ながら間抜けな問いかけだと思ったがそれでも聞かずにはいれなかった。
ザワザワと木々がざわめく音と共に周りの空気が澱み歪む。
「逃げろジョージ!」
「バウ!」
俺がリードを離して叫ぶと事態を察してくれたのかはわからないが
ジョージは一目散に来た方へと走っていった。
風の歪みは大きくうねりながらこちらへと向かってくる。
「くっ、変身!」
林の木の上から跳びかかってくる黒い巨体を見上げながら
ゴリラって木登りしたっけ?などと思いながら俺は変身した。

「オホホホ…裏切り者の分際でずいぶんと大きな口を叩いたものね」
「全くですわ姉様」
二人の女はそれぞれ左右のビルの上からふわりと降り立つと
口元に手を当てて眉を潜めこちらを見下すような視線を送った。
「いいから早く来いと言っている」
俺はバイクから降りると左右の女を睨み付けた。
「あらあらせっかちな殿方は嫌われましてよ、ねぇ姉様?」
「ええ、その通りだわ」
二人はまだこちらを蔑むように見ている。
あちらから仕掛けてくる気は無いということだろうか。
とにかくこのまま睨み合っていても仕方が無い。
「そちらから来ないならこちらから行くまでだ、変!身!」
俺は変身すると同時に現れた氷を砕き、それをぶちまけて牽制する。
二人の女はふわりと飛び上がって雹礫の射程外まで逃げると
片方は美しい羽を見せ付けるように、もう片方は醜く恐ろしい羽で威圧するように異形の姿へと変身した。
「さぁそろそろ躾のなっていない裏切り者を始末しましょうか」
「ええ、行きますわ姉様」
二つの異形はこちらを見下ろすと羽を羽撃かせて複眼でこちらを見下ろしながら
俺の周りをクルクルと回り始めた。
さて、空を舞う敵二人をどう料理した物か。

「ウッホォオオオオオオオオオ!!!」
「うわったったった!?」
俺はゴリラの異形が上空から巨大な両手を組んで
振り下ろしてくるのを間一髪で横っ飛びで避けた。
砕けて飛び散った道路のアスファルトが顔を掠める。
「こっから反撃を…ってうわわわわ!?」
ゴリラの異形が俺を殴り飛ばそうと駄々っ子の如く縦に両腕をグルグル回して突き進んでくる
直撃は避けるが両拳が触れた物を道路ごと砕きながら進んでくるので
砕けたアスファルトが体にビシビシと当たって思わず顔を腕で覆う。
「チョコマカするな!」
「そんなこと言われても!」
俺は相手に対して斜めに踏み込んで横に回って踏み込んだ勢いで
回転してゴリラの異形の後頭部に後回し蹴りを叩き込む
「ウッホ!」
つもりがやたらむやみに発達して丸太のような太さの腕で防がれた。
「ウッホォオオオオオオオ!」
「ウゲ!?」
ゴリラの異形が竜巻の如く腕を振り回して片足立ちのまま固まっていた俺を吹き飛ばす。
巻き起こる凄まじいい風と拳圧を感じながら綺麗なアーチを描いて宙を舞ったが
いい加減吹き飛ばされ慣れたのか辛うじて足の裏で着地する。
そこから拳を軋む程強く握り締め真っ向勝負を挑む
「いくぜえええええええ!」
ゴリラの異形も体を大きくひねって一撃で全てを打ち砕く拳を持って迎えうつ。
勝負は一撃、この一撃に全てをかける。
「こおおおおおおおおい!」

と見せかけて俺は相手の目の前でトンと軽く跳ぶと相手の後に跳び降りて後頭部に後ろ蹴りをかました。
「ウッホォ!?」
今度こそきっちり相手の後頭部を俺の右足が蹴り抜く。
相手の姿勢が崩れた隙に間髪入れずに攻勢を緩めず左足で奴の背骨の真ん中ら辺に飛び膝蹴りを叩き込む
「フグォ!?ウゥホホホォ!」
ゴリラの異形がよろめきながらも裏拳でこちらを砕こうと
こちらに振り向きながら左腕を振り回すのをしゃがみ込んで避ける。
豪腕がブゥンと空を切り巻き起きた風が頬を撫でる。
俺はしゃがんだまま左脇からかすかに覗いた顎を見据えると体のバネを思い切り伸ばして左拳で打ち据える。
「ウグ…ウホォ…」
完全にペースを握った俺はこのまま一気にトドメを狙うべく
頭を抑えよろめくゴリラの異形に対して今度こそ渾身の一撃を放つために骨が軋むほど強く拳を握り締める。
「トドメだぁあ!」
俺の拳は見事にゴリラの異形の胸板に突き刺さらずに逆にこちらが吹き飛ばされる。

「あ、あれぇ!?」
「ウホォ!!」
よろめきも無くなり完全に体制を立て直したゴリラの異形が豪腕で俺もろとも胸を叩きまくる。
所謂ドラミングという胸を叩いて威嚇するというゴリラの習性のような奴に巻き込まれた俺は
ゴリラの異形の胸板と腕をドゴンバゴンと行ったり来たりと甘美な死の抱擁を楽し落ち着け俺。
なるほどゴリラの分厚い胸を叩いても痛くも痒くも無いというわけかと納得する。
これからは相手が何の怪人なのかをしっかり見てから戦おうと心の引き出しの大事なところにメモをしていれる。
引き出しを閉じたところでこれからどうするかを考える。
左右にはゴリラの異形の腕、前は胸板後ろは拳
この状況から何とかして逃げ出さなくてはならない。
上が開いているがこうもドンドコしていてはジャンプもできない。
こういう時銀ならどうしていただろうかと薄れていく意識の中で思い出そうと必死に頭を働かせる。
何かと変身の時に氷飛ばして攻撃の基点にしていたということを思い出した。
アレは俺にも出来るのだろうかと思案する。
変身時の風でこのゴリラを吹き飛ばす、それならこの状況からでも攻撃できる。
しかし一度変身を解く必要があり生身でこの攻撃を喰らったらおそらくそのまま死ぬ。
だからといってこのまま考え続けていてもそのうち死ぬだろう。
数瞬考えをめぐらせてどうせ死ぬならやってみた方がいいかと結論を出した。
そう決心すると俺は左腕に叩かれた次の瞬間変身を解く。
そして胸板に思い切り叩きつけられる。
ここから右腕が俺の背中に叩きつけられる前に風を呼び戻す。
集中、呼びかけ、応答、来た。
「変身!」
風が体に纏われ爆ぜる。
この間たぶん0.1秒くらい。
爆ぜた風の勢いでゴリラの異形が吹き飛ばされた。
「よし、成功!」
「グッ…ウッホォ…」
ゴリラの異形はふらつきながら起き上がろうとする。
俺は今がチャンスだとばかりに必殺の一撃を放つべく心を集中させる。
再び風に呼びかけ力を借してくれることを強く信じ、その力をもって敵を貫くことを心に思い描く。
「はぁぁああ…はぁっ!」
俺は巻き起こる上昇気流に乗って空高く跳び上がる。
さっき胸板を殴って失敗した経験を生かして今度狙うのは脳天。
跳躍の頂点にて狙いを定め一気に降下する。
「たぁありゃああああああああああああああああ!!!」
「う…ぐっほ!?」
俺の必殺の一撃がよろめきながら立ち上がったゴリラの異形の驚愕した表情を浮かべる顔面に直撃する。
「よっと……よし!」
俺はゴリラの異形の顔面から跳び降りて背中を叩く爆風と劈く爆音で後ろの異形が爆発したことを確認するとガッツポーズを取った。

「オホホホホ…」
「ウフフフフ…」
二人の異形はさっきからこちらの周りを高速でグルグルと回るばかりで一向に攻撃を仕掛けてくる様子は無かった。
ただ背中から生えた大きな羽を羽ばたかせて四つの複眼で気味悪くこちらを見下ろすばかりだ。
相手の手札がわからないのでまずは様子見に徹したが何もしてこない。
このままでは埒が開かないが、だからといって相手の手の内が読めないまま
相手の土俵に突っ込むのも得策とは言い難い。
ひょっとするとただの陽動か何か、時間稼ぎではないかかという考えが脳裏をよぎる。
しかしそれにしては妙に自信有り気な奴等の態度が気になる。
どうにも頭が巧く回らず決断が出せない。
「いい加減に何かして来たらどうだ、このままじゃ退屈で欠伸が出そうだ」
いい加減焦れて俺は二人の異形に言った。
「お馬鹿な人ですわね、もう既に私達の攻撃に曝されているっていうのに
ねぇ姉様?」
「ええほんと、私達の攻撃に気付かないなんてなんて哀れな人かしら」
「何だと…?」
二人の異形がお互い顔をあわせてクスクスと笑い合う。
「本当にお馬鹿な人、姉様が毒燐粉を巻き続けていたことに気付かないなんて…」
「本当に哀れな人、私達の攻撃に既に完全に嵌っていることに気付かないなんて…」
頭が回らない、息も段々と苦しくなる。
体が思うように動かず思わずバイクに手をついた。
「私が毒を散布し」
「そして私と姉様の二人で風の檻を作る」
『これが!ハリケーンヴェノム!』
「オホホホホ…この毒は即効性は無いけれどもあなたを
ジワジワと真綿で首を絞める様に始末するにはうってつけよ」
「ええ、まったくですわ姉様」
二人の異形は高らかに俺がどんな技に嵌ったのかを教えてくれた。
なるほど、勝利を確信して冥土の土産の心算かペラペラと喋ってくれたがそういうことならまだ手は有る。
俺はアイスエッジをバイクの動力源に突き刺した。

裏切り者のウェイブは自分の死を悟ったのか
バイクに自ら剣を突き刺して爆発に巻き込まれて楽に死ぬ道を選んだようだ。
流石神玉の力を受けたバイクだけあって爆発して凄まじい爆風と黒煙が辺りを覆った。
「潔いいというより性根がなってないですわね、ねぇ姉様…姉様?」
姉からの返事が無い、煙で向こう側が見えないのでよくわからないが爆発で耳をやられたのだろうか?
「姉様!ねえさ…!?」
黒い煙の中から出てきたのはビルの上で大剣を持って振りかぶるウェイブと

ビルの上から糸で吊るされた首から上が無い姉。
「ヒィッ!?」
まさかあの爆発は自爆ではなく空気中に舞う毒燐粉を吹き飛ばして私達の風の檻を破るためのものだったというのか。
ただただ狼狽する私の胸をウェイブの投げた大剣が深々と刺し貫いた。
「生憎と毒には耐性が有ってな
あのまま毒を吸い続けたら危なかったがこの程度になら動ける
残念だったな」
それは地面へと落下していく私にはもう関係の無い言葉だった。

「危なかったぁ…さージョージ探して帰るか…」
俺は一難去ったことを確認して俺は頭を仮面の上から掻くとため息をついた。
その時、風がざわめいた。
「悪いがそれは後にしてもらおうか」
風は背後の木の上を中心に激しくざわめいていた。
周り全ての空気が一瞬にして重くトゲトゲしいものへと変わった。
「…――お前は…!」
「貴公には名乗りがまだだったな
我が名はアウトリヴァーレ、お手合わせ願おうか」
そいつはその林の中で一番高い木の上で腕を組んで立っていた。

「いやぁ〜相変わらずの腕前だねぇ〜なぁ銀?」
「…――貴様は…!」
通りの向こうから悠々と歩いてきた男
一目で染めたものとわかる安っぽい金髪
ジャラジャラと下品な音を鳴らす金のアクセサリー
だらしなく着崩したワイシャツ
あの時から一瞬たりとも忘れたことの無い、この俺の復讐の標的
「会いたかったぞ…山田ぁああああああああああああ!!!」
「ひっひっひ、その名前気に入ってないって言ったよな?ん?」
奴は最初に逢った時と同じいやらしく下品な笑みを浮かべてこちらを見た。


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