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仮面ライダーアクセル1クール目 
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█ 仮面ライダーアクセル1クール目

Last-modified: 2015-01-09 (金) 21:31:59 / Short URL: http://wiki.nothing.sh/1489.html / add to hatena bookmark - users / add to livedoor clip - users

仮面ライダーアクセルまとめ

【目次】

0話「闇の中へ」

コポコポと真っ白なカップにコーヒーが注がれていく。
お盆に乗ったコーヒーはウェイトレスに運ばれて俺の目の前にトンと置かれた。
香ばしい香りが鼻をくすぐる。
カップを手にとって口元へ持っていくと香ばしい香りが鼻腔一杯に広がった。

「……苦いわ、もっと薄いのがいい
とりあえず砂糖とミルクくれよ」
「…やっぱあんた煎れてあげ甲斐無いわ」
ウェイトレスがそれまでの澄ました表情をサラっと崩して嫌そうな顔をする。
「いやだってほんと熱くて口の中火傷しそうだし味わかんねーって」
「くっ、あたしがどのくらいの温度なら一番味と香りが立つかとか考えて煎れてるっていうのにこいつは・・・!」
「やっぱコーヒーはジョー○アに限るね、缶コーヒーの
うーん、俺って違いのわかる男」
「あーもー嫌!マスターこいつなんとかしてくださいよー!」
「ハハ、雅にはまだ早すぎる大人の味だったな」
ウェイトレスが癇癪起して泣きつかれた奥に居る初老の男は慣れた様子で受け答えをした。
「そりゃないよおやっさん、俺はもう十分に大人だぜ?」
この初老の男はこの喫茶店『ω』のマスターで俺のバイクの師匠。
昔はプロのライダーだったっていう本格派で俺は親しみを込めておやっさんと呼んでいる。
「どこがよー、図体ばっかり大きくなって中身は全然ガキじゃないの」
こっちのウェイトレスはアカリって言って『ω』でアルバイトしてる女子高生だ。
人懐っこくていい奴だがやたらと指図してくるタイプで俺もよくあーしろこーしろといわれる。
どうでもいいがおやっさんには敬語で俺にはバリバリタメ語で話してくるのは何故だろう
俺のほうがお前より年上なんだぞ、けしからん。
まぁそれはいい。

「はー、ごちそうさま
んじゃちょっと風になってくるわ」
「…またバイク?」
「雅、最近多くないか」
なんだか二人とも自重しろとか言ってるように見えるがきっと気のせいだ。
「実はバイク走らせるのにいい穴場見つけたんでね
ここでまったりとアンニュイな午後を過ごしてる場合じゃないんだ
そんじゃ行って来まーす」
「あ、ちょっと!雅!」
俺はそういってヘルメットを手にとると
勢い良く店の外に飛び出して前で眠っていた愛車にまたがって手際よく目覚めさせてやった。
「わぅっ!」
「おう、ちょっと行ってくるぜジョージ!」
俺は店の前に繋がれているおやっさんの愛犬ジョージに挨拶をすると彼方へと駆け抜けて行った。

青空の下、オフロードを1台のバイクが颯爽と駆け抜ける。
「く〜誰も居ない場所を一人で思う様駆け抜けるのってほんとサイコー!」
ここは最近俺が見つけた場所でただでさえ田舎で人の少ないこの辺でも特に人気がなく
尚且つちょっと雑草が多いもののだだっ広くてバイクを走らせるのにはサイコーの場所だった。
山のちょっと奥の最近使われた様子が無い長い長いトンネルを抜けてから
ちょっと道をそれた場所にあり麓の町からは死角になっている場所で
ひょっとしたら私有地か何かかなーという気もするけどきっと何かの建設計画でもあったが
田舎すぎるか何かで計画が頓挫したんじゃないだろうか。
何にせよ当分は俺が好き放題バイクを走らせても大丈夫そうな場所であることは間違いなかった。
「…ん、なんだアレ」
ちょっとした気まぐれで普段は余り通らない道の荒いコースを通っていると
なにやら古い人工物らしき横穴が掘ってあるのを見つけた。
木々にうまく隠れてぱっと見ただけでは存在に気づきもしそうにない穴だった。
動物が掘ったり自然に出来た穴ではなく石を柱にしてあったり何かで削ったような後があったりと
明らかに人の手によるものだった。
こっちの方はまだろくに人の手のはいっていない場所だと思っていたので少し驚くと同時に好奇心が沸いた。
「これがあるから人の手を付けずに放置されてたのかな…」
何も無い土地に建物を建てようとしたら下から遺跡が出てきて
建設が一時中止になるなんて話はそうある話でもないが聞かなくも無い。
しかしこんな田舎に古代人が住んでいた痕跡を見つけたんだと考えると少しロマンのようなものを感じた。
「誰も居ないし…ちょっとだけ中見てみるかな…」
俺はバイクのライトを穴の中に向けるとその明かりを頼りに中へと入っていった。

穴の中は意外と狭くすぐ行き止まりで外からのバイクのライトだけでもギリギリ歩ける程度だった。
「…思ったより大したことなかったな、まぁこんなもんか」
なんだか物足りなくて周りを見回すと石で蓋のしてある四角いなにかがあった。
これは一体なんだろうか、無性にあけてみたい衝動に駆られる。
「…まずいかなぁ…骨とか入っていたら嫌だし…でも…」

でも、気になった。とても、とても。

なぜかそれをあけなくてはいけないようなきが、した。

「べ、別にすぐに戻せば…」
何かに促されるように俺は蓋を持ち上げた。
そこには丸くて綺麗な玉が置かれていた。

「なんだ、これ…宝石?いやそれにしてはでかすぎるよな…うぁっ!?」
その玉を手にとって眺めると中に何かが居てこっちを見たような気がした。
そして驚いた瞬間手の中からその玉がふっ、と消えた。

「え、いま手に持ってて…な、無くした?!どどどどどどどこに…す、すごい貴重な物だったらどうしよう…
あああああ…?!」
その時どこからかキチキチと蟲の鳴くような音がして、気づくと俺は遺跡から逃げ出してバイクにのっていた。

「なんなんだよあの遺跡…」
俺は逃げるようにバイクを走らせていた、いや、実際あの場所から逃げ出したかったのかも知れない。
それにいい加減日が傾いてきた、そろそろ帰らないとまずいと思った俺は帰り道に向けて走り出した。

俺は必死にあの遺跡の事を忘れようと勤めた、あの不気味な玉だけが置いてあったあの場所を。
いまだに耳に残るあのキチキチという音を必死に振り払ってあの場所の楽しいことだけを思いだそうとしていた。
あの遺跡のことさえ忘れればここは素晴らしい場所なのだ。そう自分に言い聞かせようとしつづけた。
だがあの遺跡以外何一つ非の打ち所が無いようにさえ感じるあの場所だが実はひとつだけ不満がある。
あそこに行くために通る必要のあるトンネルが非情に暗いのだ。
電気も消えかかっていてそれに多少曲がっているので向こうからの明かりも見えない。
こういうのは国の怠慢だと憤ったりもしたがこんな辺鄙な場所じゃ後回しになっても仕方ないかと思う。
「ヤバイな…もう大分暗いじゃねーか、スピード落すか…」
それにしても薄気味が悪いところだった、ここも、あのイセキも
帰りに『ω』にでもよってあの苦いコーヒーでも飲めばこの嫌な気分も拭えるだろうか、そんなことを想った。
そうしてトンネルの一番暗い部分に差し掛かった時、キキキ…と音がした。
最初はバイクか何かの音かと思ったがどこかあのキチキチという音に似ている気がした。
その時前の方の天井に蝙蝠が一匹居ることに気がついた。
(こんなところにもすんでるんだな蝙蝠って…まぁ暗いしな、ここ)
でも、なにかがおかしかった。
そう、蝙蝠にしては大きすぎたんだ
それはあわせて2mはありそうな大きな羽を広げてそして

『キキキキキ!ミツケたゾ!かゼのしんギょク!!!!』

気づいたときには、俺の目の前ににおおきな、おおきな『目』があって
そのなかにあの『玉』とおなじものがこちらをみているのにきづいたとき、オれはいしきをうしなった。
もうあの平穏な日常には戻れないとも知らずに、深イフかイ『闇』の中で、ネムリに堕ちて行った。

1話「闇の中、アクセルを踏み鳴らせ」

『キキキ!オリジなルのしんギょクとそノテキごウしゃヲてニイレタンダ!とウぜんわかッテるんだロうな?』
『ええ、組織の上層部は今回のあなたの功績を高く評価するでしょう』
なんだ…?意識がはっきりしない。
『キキキ!これデおレハうエニいけルゾ!キキキ!キキキキキ!』
『おめでとうございます
 それでその風の神玉の適応者はどこに?』
『ソッちだ!ハやクハやクかイゾウしてシマエ!』
誰かが会話しているのが聞こえる。
『ええ、組織も即投入できる戦力を必要としていますのですぐに洗脳手術を施します。
 少々時間がかかるのであなたは休んでいてください』
『キキ!キキキキ!わかッタ!タのシミダ!キキキキキキキキキ!』
改造や洗脳といった物騒な単語が聞こえてきてくる。

誰を?何に?なんだ?何が起こった?

俺は慌てて目を覚まして起きようとするが手足が動かない。
何度か起き上がろうと格闘している内に手足が拘束されていることに気がつく。
わけのわからない状況を少しでも理解しようと唯一拘束の緩い頭を動かして周りを見回す。
白塗りの薄暗い部屋にによくわからない色々な機械が置いてあって
まるで手術室のような印象だった。
ひょっとして俺はバイクでこけて怪我をして運びこまれたのだろうか。
そういえば意識を失う前はバイクに乗っていた気がする。
まず最初におやっさんに危ないから当分バイク禁止にされたりした時のことを危惧する。
まずい、それは死ぬ、肉体が死ぬ前に心が腐って死ぬ 俺バイク無いと生きてけない。
待て待て待て相手に非があればおやっさんも許してくれるんじゃないだろうか。
そういう結論に至って事故当時の状況を思い出そうとすることにする。
確かいつもの穴場に行ってそれから遺跡に勝手に入って気味が悪かったから帰ろうとしてそれでトンネルで…
トンネルで オオキナ オオキナ 蝙蝠 ニ デアッテ 『目』のマエニ オオキナ 『目』 ガアッテ

(なんだ、これ…!?)
有り得ない記憶だった。
あんなバケモノが居るなんて有り得ない。
ここは異世界でも宇宙のどこか別の惑星でもなくて地球にある日本の田舎の小さな町のはずなんだ。
有り得ない、絶対に有り得ない。
きっと事故で記憶が混乱しているんだ、そうに違いない。

「これがオリジナルの神玉の適応者か…」
突然視界に知らない白衣の男が入ってきた。
年は俺よりはいくらか年上に見える。
その目にはこちらに興味を持って観察するような…そう、俺を値踏みするような感じが含まれていた。
「だ、誰ですかあんたは…?お、俺どうなったんですか…?」
意外なことに口は動いたしちゃんと喋れた、しかし男はこちらの言うことを無視してヘソの下辺りをコン、と人差し指でたたいた。
コン?なんで腹をたたいてコン、なんて音がするんだろう。
まさか骨とか突き出してるのだろうか、いやしかし腹に骨なんてあったっけ
とにかく思った以上にマズそうな自分の様態が心配になってくる。
「神玉の位置は俺と同じ腰の辺りか、大分深く埋まってるな
適合率は悪くない」
シンギョク?俺の腹に何かめり込んでるのか?
「あの、俺今どうなってるのか教えてほしいんですけど…」
「…さっきから五月蝿いな、お前
眠っていたら神玉だけ抉り出してとっととここから離れる予定だったのにやりづらいだろうが
あの蝙蝠野朗、麻酔ぐらい自分でかけとけよ…」
いい加減こっちの質問を無視され続けて堪忍袋の尾が切れた
「おい!さっきからなんなんだよあんた訳の分からないことばっかり言って俺は…」

キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ!!

唐突に部屋に、あの時の蝙蝠の鳴き声が響渡った。

「うわぁああああああああああああああああああ!?」
あの時の記憶が蘇り、俺は叫んだ。
「イマほんブカられンラクがキタゾ!マだそしキのイシゃはコッチにオクられテナイッテサ!
げんいンふメイのジコニアって!キキキ…!オマエ、ダれダ?」
「…ったく、本当にツキが無いな」
「何なんだよ!一体何なんだよこれ!」

「ホンとダ!ツキがなイ!ツキがなイ!キキキキキ!」
「どうなってるんだよ!?ここは日本だろ?!違うのか!!」

「ああ、ツキが無いぜ
気付かなければ出世を夢見たまま逝けたのにな、お前」
「ナん…だト?」
「なんでこんなバケモノが居るんだよ!?教えてくれよ!
誰か…誰か応えろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「だから五月蝿いんだよ、お前」
「ウゲッ」
鳩尾にドンっ、と拳が降りてくきて息が詰まる。
「ほら、とっとと立て」
男が俺の寝ている台の横の何かを操作すると手足が動くようになった。
「ゲホっ、ゲホっ!
な、なにしやが…」
「動けるようにしてやったんだ、感謝しろ
で、お前『変身』はもうできるのか?」
「ゲホっ、何だよ変身って?さっきからあんたの言ってる事訳がわからないって言ってるだろ!?
なぁ、ちゃんと教えてくれよ!」
もう何がなにやら分からない、あの蝙蝠男とこの男
どちらが信用出来るのかさえ
「ま、そうだろうな…さっき捕まったばかりだからな…」

「キキ!なんなンだおまエ?ニンゲんのクセに!オレニかテルトでもオモッテるのか?
いっタいナンなンダ!?」
どうやらあの蝙蝠男もこの男の正体が気になるということはわかった。

「いいだろう、そこの若葉マークが取れてない奴にも教えてやらなきゃいけないようだからな」
「な…?」
男の腰の辺りが凍る、それはまるでベルトのような形になり砕けて本当にベルトが現れた。
「キキ?!お、おマエまサカ!」
             「  変! 身! 」

腰のベルトが青く輝き男が足元から氷に包まれていき完全に包まれるとすぐに砕けその中から
まるで、あの蝙蝠男と同じ、異形の戦士が現れた。

「な、なんなんだよこれ…人が…バケモノに…?」
俺は今日既に何度言ったかわからない言葉をまた口にした。
「おマエハオりじナルのしんギょクてキオウシゃ!アウとすぱイダーうぇイブ!!
うラギったのカ!?」

「その通りさ、だがお前等に名付けられた名前をそのまま使うのは気に入らないな
そうだな…俺は貴様等から得た仮面の力で戦う復讐騎…仮面ライダー
そう、仮面ライダーウェイブだ!」
異形のその顔が、哂った気がした。

「キキキ!そシキヲうらぎるトハばカナヤつめ!
うらぎリモノをこロシテオリじなルのしんギょクヲとリモドせばおレハもッとウエにいけル!
キキキキキキ!」
「ふっ、オリジナルの神玉とコピー神玉の違いを見せてやる 来い」
その最後の一言を持って匙は投げられ、異形と異形の戦いが始まった。

「なんなんだよ…本当になんなんだよ…!」
異形同士の人知を超えたレベルでの戦いが目の前で繰り広げられる。
訳の分からないこの状況でもっとも理解し難かかったのはその異形の戦いを理解してしまう自分自身だった。
その異形達の動きが見え、その動きが感じ取れた。
「はぁっ!」
勝負は人から異形になった男が優勢であった。
既に彼の大剣がその巨大さからは考えられない速度で振るわれ何度か蝙蝠男を捉え、斬り付けていた。
蝙蝠男の方は見る間に弱り、遂に部屋の隅に追い込まれ後ろに倒れこんだ。
「格の違いがわかったか?」
男が蝙蝠男の首元に大剣を突きつける。
「キ、キキキキキキキキキキ!!!」
「まずは、一つ」
男がそのまま大剣を突き刺そうとしたとき、彼の横の壁が爆ぜた。
「ブフォォォォオオオオオ!!」
「ガッ!?」
爆ぜた壁の中から異形の猪が男の体に突っ込んでそのまま向こうの壁を破壊して走り去っていった。
「キキキキキ!いクラオリじなルヲもッテイテも2たイ汽妊蓮キキキキキキキキ!
おットそのまエにこいツヲダまらセなくチャな…キキ!」
蝙蝠男があの、トンネルの中であった時と同じ目でこちらを見てくる。
「あ、ああ…!」
自分に矛先が向いたことに気がついて後退る。
トビラは向こう、蝙蝠男の後ろ
さっき開いた穴に俺が行くよりあの蝙蝠男の方がきっと早い。
きっと もう 逃げ場は 無い。

     『で、お前『変身』はもうできるのか?』

さっきあの異形の男が俺に聞いていた。
俺も変身できるのかと。
もう、ということはいつかはあの男のように異形に『変身』するのだろうか、ひょっとしたら既にもう
あの事故の時と同じ目が迫ってくる。
「キキキッ!」
危険な風を感じた。
今まで感じたことの無い感覚に戸惑いながらもとにかく動いた。
「――……っ!?」
それまで脳天のあった場所に羽先についた大きな爪が振り下ろされていた。
辛うじて避けられたものの確実に自分の死が迫っていることを理解する。
このままだとまずい、掛け値なしにまずい。
「ちょコマかト!」
蝙蝠男から必死に逃げる。
なんでもいいからここから抜け出したい。
早く家に帰って苦いコーヒーが飲みたい。
こいつをなんとかしてここから出たい。
そのための、力が欲しい。

その時、キチキチという蟲の鳴き声が聞こえて腹の辺りで風が吹いた。
「な、なんだこれ…?」
今日もう何度言ったかわからない言葉をつぶやく。
腰にいつの間にかベルトが巻かれていた。
「やっぱりあいつと同じ…!?」
「キキ!モうニゲばはナイゾぉおオオお!」
藁をも掴む思いでさっきあの男がやっていたのを真似て、叫ぶ。
「変身!」
風が俺の体を包み、爆ぜた。

「キキ…なニガ…キキ!?」
「これが…変…身…?」
自分の体を見ると黒い何かに包まれた上にそこら中にプロテクターのようなものがついていた
顔に触れるとやはり何か硬いものに包まれていた。
「キ…キキ!まダダ!からダガなれテナいうチナら!!」
蝙蝠男が襲い掛かってくるがさっき以上に確かに風を感じ避ける。
体が軽かった。
風を感じる度にどんどん力が漲っていく気がした、いや違う。
これは確かな力だった、動けば動くほどこの力が自分のものになっていった。
「キキ…ばんぜンのジョウタいならオまエなんゾニ…キキィー!」
蝙蝠男が距離をとってから羽ばたき、飛び掛ってきた。
俺は拳を骨が軋むほど強く握り締めて迎え撃つ。
「おおおおおおおおおおおおお!」
体に漲っていた力が拳に集中していくのがわかる。
それを思いっきり向かってきた蝙蝠男にぶつけた。
拳が蝙蝠男の腹にめりこみ、吹き飛んだ。
「キ…キキ…キィィッィイイイイイイイイ!!!」
蝙蝠男の大きな目にヒビが入ったかと思うと次の瞬間蝙蝠男は爆発していた。
「ぜぇ…ぜぇ…」
危険が去ったことを理解して緊張の糸が切れてその場にへたり込んだ。
「す、すげぇ…この力…あ…そ、そうださっきの!」
一休みして落ち着いたらあの異形の男が吹っ飛ばされていったのを思い出した。
慌てて猪の異形が開けて去っていった穴を見るとどうやらあのまま外まで突っ込んでいったようだ。
他にここから出れる道もわからないし、俺はとにかくこのあなを通って外に出ることにした。

「…態々外まで連れてってくれるとはありがたいこった
逃げられるとか考えなかったのか、お前」
結局俺はあの猪の怪人、アウトボアの体当たりを食らって幾重もの壁を抜けて基地の外まで吹き飛ばされたらしい。
「ブフォー!かんけいない!おまえどうせここでしぬ!ブフォー!」
「まぁいい、あんまり時間は掛けてられない訳があってな
とっとと来いよ豚野朗」
足元が少々ふらつくが立ち上がるのに問題は無かった。
そして即座に鼻息荒く突っ込んできたアウトボアの体当たりを受けて吹き飛んだ。
「ブフォー!だれがぶただ!ゆるさない!ゆるさないぞ!ころしてやる!ブフォー!」
今度は余裕を持って受身を取っていたのでほとんどダメージは無かったがわざと大げさに喰らった振りをしておいた。
「ブフォー!もうとどめだ!ブフォオォオオオオ!」
かかった。
距離良し、角度良し、勢い良し。
俺はアイスエッジの柄を強く握り力を集中させる。
そしてアイスエッジを構えて、向こうがこちらの間合いに入った瞬間に飛び出した。
「ブフ!?」
そして二人が擦れ違った瞬間には既にアウトボアは胴体の辺りで上半身と下半身が泣き分かれしていた。
「…マイナス…スラッシュ」
「ブ、ブブブ…」
振り返ってアウトボアの方に歩いていき切断面から氷付こうとしているところを軽く蹴ると奴の上半身は砕け散った。
「…さて、と」
俺は砕け散ったアウトボアは無視して出てきた穴の方に振り向いた。
「どうするかなさっきの奴は、放っておいて後から神玉だけ回収してもいいが…」
後味は悪いだろう。
しかし自分の目的のためにはこれからそういった思いをすることは避けられない。
ならばここで危険を冒して助けたところで…
そう思っていると穴の奥に何かの気配を感じた。
十中八九アウトバットだろう、もう少し中に居てくれるとありがたかったが
実際出てくるのが遅すぎるくらいだった。
出てくるのなら仕方ない、さっきは邪魔が入って仕留め損なったが今度は逃さない。
「おーい!生きてたんだなあんた!今度こそちゃんとどういうことか教えてもらうからな!」
だが中から出てきたのはオリジナルの神玉の適応者の方だった。
穴から出るとこちらへ駆け寄ってくる。
「お前、アウトバットはどうした」
「あ、アウトバット…?バットって…さっきの蝙蝠男か?
俺殺されそうになってわけわかんなくなってそれであんたの真似したらなんか体が変わって
えーとそれでなんか殴ったら爆発した!わけがわからねーよ!」
「そうか…変身出来たか」
「なぁなんなんだ変身って!さっきのバケモノはなんだよ!?」
「適合者付きのオリジナルの神玉一つか
上々だ、ツキが回って来たな」
「お前いい加減無視するのやめて俺の質問に答えろよ!」
俺は掴みかかろうとした適合者の男を避けて向こうに隠しておいたバイクの方に向かった。

俺は憤っていた。
何であの男はことごとくこちらの質問を無視するのか。
いい加減にして欲しい。
「おい、待てってば!いい加減こっちの質問に」
「教えてやるから早く乗れ、俺は早く此処から離れたいんだ」
「答えやが…え、マジ?うお、何そのバイクかっけぇどこで買ったの?いや改造バイクか?」
男は純白に青白いラインの入った流線型の美しいバイクに乗ってエンジンを掛けているところだった。
怒りの矛先が宙を滑ってその美しいフォルムに目が行く。
「…さっきから五月蝿いほど聞きたがってたのはそれか?」
「あ、いやそうじゃなくてお前なんで変身したのかとかそもそもあのバケモノは何なのかとか…」
とりあえずバイクの後ろに乗りながら必死に質問をまとめようとする。
「悪いがやっぱり質問は後だ、早く此処を離れるぞ」
男は俺が後ろに乗るとすぐにバイクを走らせた。
「や、やっぱここから早く離れないと追っ手とかが…!」
俺はやはり何かヤバイことに巻き込まれたんだと焦る。
「ああ、それもあるが」
「あるが?」
その時背後で耳を劈く爆音が鳴り響いた。
「進入した時真っ先に基地のジェネレーターを弄っておいたんでな
そろそろ逃げないと爆発に巻き込まれるところだった
思っていたより爆発が早かったし正直ギリギリだったな」
「て、てめぇ…そのカッコのままだったのはこのためか…」
爆音で耳がグワングワン響いて頭を痛ませながら辛うじて言った。
「確か質問は俺が何者かだったか?そろそろ答えてやる
俺は湖越銀、折角だからお前の名前も聞いておこう」
そういうと男は変身を解いて異形の姿から人の姿に戻った。
「お、俺はか、風野雅…質問は…後にしてくれぇ…」
当分は何を言われても耳が痛くてまともに話が出来そうに無かった。

後々になって思えば、この轟音が俺と銀の長いようで短い戦いの始まりの音だったのだ…。

2話「跳べ、奴よりも高く」

コポコポと真っ白なカップにコーヒーが注がれていく。
お盆に乗ったコーヒーはウェイトレスに運ばれて男の目の前にトンと置かれた。
男はゆったりとした余裕のある仕草でコーヒーカップを口元に運びしばし香りを楽しんでから口へと持っていった。

「旨い、まだまだ詰めが甘いところもあるが
高校生でこれだけのコーヒーを煎れられる奴は中々居ないさ、自信を持ってもっと腕を磨くといい」

「わぁ、そんなに褒められると頑張って煎れた甲斐があります!」
「さすが銀、お世辞もうまいな」
「黙れ」
「はい」

今俺の目の前でコーヒーを飲んでいる男の名は湖越銀。
蝙蝠男にさらわれて色々とピンチだった俺を助けてくれた男だ。
『ω』に帰ってきてからわかったのだが俺が連れ去られてから丸一日経っていたらしく
アカリは俺が事故ったに違いないと大騒ぎしおやっさんにも大分心配を掛けてしまったようだ。
とりあえず俺がバケモノに会ったり銀もバケモノだったり俺もバケモノに変身しちゃったりしたことは黙っておいて
アカリの話に乗っかって俺が事故で動けないところを銀が助けて病院まで連れて行ってくれたということにしておいた。
そういう訳で今俺の恩人として銀を『ω』総出(と言っても三人と一匹だけだが)でもてなしているところなのである。
銀に色々聞きたいことがあったがそれはこの騒ぎが終わってからということにしておいた。

「アカリちゃん、そこの味音痴の言う事には耳を傾けるな
ここのマスターの言う通りに練習していけば必ず上達していくから」
銀はこちらを振り向きもせずに俺を親指で指した。
「はい、あたし頑張ります!」
「しかしすまないね、雅が迷惑かけて」
「いえ、当然の事をしたまでです」
「わうっ!」

会った当初はぶっきらぼうな奴だと思ったので最初は不安だったのだが
銀は予想を遥かに上回る世渡りの上手さでこの場に馴染んでいた。
しかし何故俺とアカリへの対応がここまで違うのか。
意外と女好きなのだろうか、むっつりか、むっつりスケベなのか。

しようもないことばかり考えていると何か大事な事を忘れているような気がしてきた。
そう、何かすごい大事なことを忘れている気がする。
なんだか体に穴が開いているような、半身を失ったような、そんな喪失感を覚えていた。
「………………あぁ!そうだ!ちょっと銀バイク貸して!」
「ん、ああ構わ…何?」
俺は机の上に置いてあった銀のバイクのキーを取ると外へ飛び出して銀のバイクに跨るとキーを入れてエンジンを噴かした。

「ま、待て!お前人のバイクで一体何所へ行くつもりだ!?」
銀も何事かと後を追って外に飛び出した。
「すまん、相棒が暗いトンネルの中で放置されてるなんて俺には耐えられないんだ!」
「な、何だと?まさかお前攫われた時に他に人が…」
人ではないが大事な奴と二人きりだった。
「そういう訳で悪いけどバイク借りるぜ銀!すぐ戻るから!」
そう言って俺は蝙蝠男に襲われた場所に向かって走り出した。
そう、俺の相棒のバイクを救出しに行くために。

さらわれてからの初バイクで制限速度ギリギリで気分良く運転しているとすぐに例のトンネルまで辿りついた。
あの時のことが一瞬フラッシュバックしてちょっと怖気づきそうになるが相棒のために勇気を出してトンネルへと侵入する。
「俺の相棒は…あった!」
俺のバイクはトンネルの一番暗いところでこけていた。
曲がりくねっていたので速度を落としていたのが功を奏したのか塗装がはげてガワが少しへこんだだけで済んだ様だ。
「さて…こっからどうやって持って帰るかな…」
ついつい相棒の危機に飛び出してしまったが目の前にある二台のバイクを見て素直に業者を呼べばよかったと心底後悔した。
「とりあえずトンネルの外に出て道の脇に置いておくか…お、ちゃんと動くな」
動作確認をして相棒の無事を確認した後とりあえず俺のバイクをトンネルを出た道の脇まで持っていきその後銀のバイクで帰ることにした。
俺はバイクと共に外に出て道の脇に置いた。
そしてトンネルの中に戻って銀のバイクを返そうと思い後ろを振り返るとトンネルの上にそいつは居た。
長くて、赤く赤く血管の浮き上がった耳と血のように真っ赤な二つの目がこちらを捕らえていた。
全身白尽くめな中でその二つと明らかに異常発達している左足と
その腿に埋め込まれた蝙蝠男の目と同じようなものから伸びる赤い赤い血管が異彩を放っていた。
そして突き出た骨や異常に発達した爪や歯なども相まって全く原型をとどめないグロテスクな怪物だがそれは兎型の異形のように思えた。
「チィッ見られたか、まぁいい…ヒョウ!」
兎の異形はニヤリと口元を歪ませるとその場から消え、トンネルが奴の居た部分が砕けて崩れ落ちトンネルを半ば塞いだ。
「あいつこの前の奴と同じ…消えた?…逃げたのか?」
それは甘い考えだと風の動きが告げる。
風の乱れが如実に奴が今自分に向かって牙を剥こうとしていることを告げていた。
(何所だ…何所に消えて…何所から…)
風の動きに全神経を集中させる。
「……上かッ!」
言うよりも早く横っ飛びでその場を移動した次の瞬間兎の異形が今居た場所を砕いていた。
「チィッ!」
このままではそう長く持たない、そう思ったときあの時と同じように腰の辺りで風が巻いた。
「このままやられてたまるかよ!変身!」
風が体を包み、爆ぜる。
「っしゃあ!」
風が消えると前と同じように俺の体は異形の戦士へと変身していた。
「ほう!ただの哀れな目撃者かと思ったらまさか貴様が組織の支部を破壊した裏切り者か!
やはり人探しは『脚』で探すに限る!」
「言っとくが爆破したのはもう一方の奴だ!」
「どちらでもいい!貴様を倒せば俺の組織での株が上がる!ヒョウ!」
そういうと兎の異形が再び地面を砕いて跳ぶ。
こうなった以上自分一人でどこまで戦えるかわからないが前と同じようにやるしかない。
骨が軋むほどに拳を強く握りこむ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
こちらに向かって凶悪な爪の生えた左足を向けて落ちて来る兎の異形に向かって渾身の力で拳を天に振り上げ

見事に拳は空を斬り胸に凶悪な左足を叩き込まれた俺は背中でアスファルトを砕きながら地に伏した。
「エガァ!?ウギァッ…ゲホッ!」
蝙蝠男の時は見事に直撃したのに今度はかすりもしない。
今の一撃で仕留めようと思っていたので受身も防御も何もしていないところに恐ろしく強力な一撃を叩き込まれたため息さえ出来ない有様だ。
(なんで…前はうまくいったのに…?!)
思い起こせばあの時の蝙蝠男は既に銀に大分ダメージを与えられて明らかに弱っていた。
それに対して今相手にしている奴はおそらく万全のコンディションだろう、あんな風に簡単に倒せるはずがハナからなかったのだ。
(ま、まずい…逃げるか…せめて体制を整えなくちゃ…!)
俺はヒュッ、と一息吸って呼吸を整えると脱兎のごとくその場を逃げ出そうとした。
「ヒョウッ!」
しかし後ろで地面が砕ける音がすると次の瞬間には目の前に兎の異形がその赤い目でこちらを見下ろしていた。
「ムダだ!俺の『脚』からは逃げられない!」
「く、糞…!」
「ヒョウッ!」
兎の異形が再び姿を消し俺は辛うじてその場を跳んで避けた。
「ちょこまかと!ヒョウッ!ヒョウッ!ヒョウッ!」
何度も何度も俺を踏み殺そうと兎の異形が跳ぶ。
俺はただただその場を動いて避け続けるだけだった。
このまま避け続けていてもいつか避けきれずに捉えられて殺られる。
(何か…何か隙は…あ)
打開策を考えながら逃げている内にあることに気付いた。
ジャンプしている間は奴は一定の軌道を描いていてそれから外れて大きく動くことは出来ない。
よく考えれば当たり前なのだがそもそも普通の人間はそんなに空高くジャンプすることなど無いから気付かなかった。
さっきは良く見ずに勢いで振り上げて外したが軌道を読んでちゃんと狙えば当たる気がしてきた。
(心を落ち着ければ風が奴の軌道を教えてくれる…!)
狙うのはもっとも無防備な奴が上昇しきった瞬間だ。
「ヒョウッ!」
「だぁッ!」
兎の異形を追って俺も跳ぶ。
計算通りに奴の真下にぴったりと追いつく。
奴を完全に俺の拳の射程内に捉えた、後はただ全力で拳を振り抜くだけだ。
「うおおおおおおおおおお!」

俺の拳が届くより遥かに早く奴の左足が空中で俺を蹴り飛ばし
俺は斜め四十五度で頭から一直線に地面に激突し三回程大きくバウンドしてから
2メートルほどアスファルトの道路をガリガリ削りながら滑ってうつぶせに倒れこんだ。
「な、なんでだぁぁぁぁぁ…」
「馬鹿かお前!あんなとこに居るなんて俺の『脚』に蹴られたいと言っているようなもんだろうが!
それにしても俺に空中戦を挑むとは本当に馬鹿な奴だ!」
なるほど、相手の下に居たら蹴られるのは道理だ。
大体脚の方がリーチが長いのだから俺の拳の射程に奴が入るより遥かに前に俺は奴の左足の射程内に入ってしまっていた。
「そっか、空中戦で下に居たら不利だよな…」
また一つ賢くなったようだ。
そうとわかれば地に伏して寝ている場合ではない。
「もう馬鹿と付き合っているのも飽きたぜ!いい加減トドメを刺してやる!」
兎の異形が跳び立つ体制に入った。
「はぁぁあぁああああ…」
俺もジャンプするために体制を整え力を溜める。
自分の周りの風がざわめいた気がした。
「ヒョウッ!」
「だぁぁああああ!!」
俺と奴、二つの異形が同時に空へと跳び立つ。
「懲りずに俺と空中戦をしようなどと…何!居ない!?」
「こっちだぁぁあああああ!!!」
下を見ても居ないのは当然だ。
俺は奴よりも遥かに高く跳んだのだから。
「ひぃっ!?」
「らぁああああああああああああああああああああ!!!」
俺は風に後押しされるかのごとく奴を大きく上回る落下スピードで追いすがると
着地直前の奴の無防備な背中にそのまま右足を叩き込んだ。
周りの地盤を砕きながら地面に兎の異形が大きくめり込んだ。
「昔見たなんとかバニーってこんな感じだったかな…」
俺は奴の上をどいて少し離れた。
背中が盛大に拉げた兎の異形が最後に手を伸ばそうとした時
左足の玉にヒビが入ると大きく爆発した。
「…まずいな、銀のバイクが取りに戻れない…」
俺は兎の異形の最初のジャンプで盛大に崩れたトンネルを見て絶望的な気分で一人ごちた。

迂闊だった、普段の俺だったならばあんな風にバイクのキーをあっさり取られたりはしなかったはずだ。
今現場に戻るのは非常にまずい、組織の誰かが調査に来ている可能性が高い。
明らかに気を抜ききっていた。
「あの馬鹿…雅の奴、帰ってきたらこってり絞らにゃいかんようだな…」
「あ、あの馬鹿なんて事を…ごごごごごめんなさい銀さん!そ、そのなんていうか」
「いや、馬鹿を警戒していなかった俺も悪かった
それよりあいつが事故って俺に会う前に向かっていた場所わかるか?」
「ええっと確かバイクを乗り回せる穴場を見つけたとかで…場所は…」
この少女に会ってしまったせいだろうか
――と特別似ているというわけではなかったがこの少女は何故か俺に――を思い起こさせた。
「わかった、ちょっと追いかけてくる」
「え、でも距離が…」
「途中でタクシーでも拾うさ、代金は奴持ちでな」
そういうと俺は走り出した。

数分走り続けて人気がほとんどなくなっているのを確認すると俺は全力で走り始めた。
変身しなくても神玉の力で常人とは比べ物にならないスピードで走ることが出来る。
このスピードなら10分と経たずに目的の場所までたどり着けるだろう。

本当にどうかしていたと改めて自分を信じられない気分になった。
俺は組織への復讐を果たさなければならないのだ。
安らぎを感じている暇など無いはずなのだ。
この異形の仮面の力で復讐を果たす、それだけのために俺は存在していればいい。
そう、組織を突き殺す一本の刃であればいい。
ただの刃に安らぎなど無用の長物のはずだ。

走りながら思案していたその時、一瞬何かが煌くのが見えた。
「何…!?」
咄嗟に後ろに飛ぶと目の前に、透明な剣が突き刺さり道の横から異形の男がゆっくりと歩いてきてこちらを振り向いた。
「ほう、人間にしては速いと思ったが今の一撃をやはり貴公が湖越銀でいいようだな
さて、貴公は我が『好敵手』に相応しいか否か…見せてもらうぞ」
「本当に…今日の俺はどうかしているな…」
そう言って俺は自嘲気味に笑った。

3話「闇より来る好敵手」

よく目を凝らしてみると道路に刺さっていたのはただの大きく鋭いガラス片だった。
ただのガラス片をどう投げたら道路に突き刺さるのかと考えると眼前の異形の男が如何に恐ろしい相手かが推察できた。
「その姿…アウトドラゴンフライと言ったところか」
眼前の異形の男の顔と羽等の形状からそう推察して言葉をかける。
相手に埋め込まれている神玉の種類がわかればある程度戦闘スタイルや弱点が推察できる。
神玉を持った相手と戦う時にはまず考えなければならないことの一つだ。
「ふむ、確かにその名は私の持つ神玉から考えれば妥当なところだが長すぎてどうも気に入っていないのだ
周りには私のことはアウトリヴァーレと呼ばせている」
「そうか、なら俺のことも俺好みの名前で呼んでもらおうか」
「良いだろう、名乗るがいい」
そういうと蜻蛉の異形は相手の話を聞く体制に入った。
「俺の名は…」
意識を集中させると腰に氷のベルトが現れそれが砕けると中から真のベルトが出てくる。
「変!身!」
変身のプロセスを踏むと同時に眼前の異形の男に対して突っ走る。
その間にも俺の体を氷が包み続ける。
完全に俺の体を氷が包んだ時点でわざと氷を周りに向かって砕く。
「仮面ライダー、仮面ライダーウェイブだ」
「名乗ると見せかけての奇襲、私の美学に反するがその勝利への執着心は嫌いではない」
奴に向かって飛ばした変身時に発生した氷が全て捌かれたのを確認して舌打ちをすると
すぐに変身時に発生した氷柱の中からアイスエッジ取り出し構えて奴に斬りかかる。
「いい太刀筋だ、重みもある。
だが少々遅い」
蜻蛉の異形はこちらの剣戟を拳で捌くと俺の胸板に強烈な一撃を放った。
俺は後ろに跳んで威力を殺すとすぐに構えなおして勢い良く跳び出し全力の一撃を放つ。
しかしアイスエッジは虚しく空を斬りアスファルトの地面を切り裂くだけだった。
「なるほど、貴公は我が『好敵手』に相応しい相手のようだ」
奴は俺の頭上より遥か高くに跳びこちらを見下ろしていた。
そして急降下すると俺に向かって背中の羽を広げて斬り付けて来た。
「チィッ!」
辛うじてアイスエッジでその刃を防ぐが降下の際の凄まじい風圧が衝撃波となってこちらを襲い俺は
吹き飛ばされ地面を転がった。
「どうした、もっと私を楽しませろ!」
そういうと奴はまだ体制を立て直せず片膝を付いている俺に向かって跳び込み上から拳を振り下ろして来た。
俺はもう一度転がりながら避けるが間髪無く次の攻撃が来て体制を立て直すことが出来ない。

こちらから攻撃を行う隙が見出せず、攻撃を繰り出せても決定打となる一撃も放てる要素がこの相手に対してはなかった。
俺が組織に居た頃周りに居た怪人とは格が違う、幹部に限りなく近い実力を持つ相手だということは確かだった。
これだけの実力を持った相手だ、こいつを倒せば次は必ず幹部クラスが動く。
日本で今動ける幹部は『あの男』だけだ。
こいつを倒せば、『あの男』を引きずり出せる。
この機を逃せば『あの男』が手の届かない支部へまわるかもしれない。
時間が経てば経つほど裏切り者の俺を完全に潰す包囲網は狭められていくだろう。
完全に八方塞になったとき、俺という復讐の為の刃は折れる。
その前に一刻も早く『あの男』を引きずり出す。
だからこいつを逃がす訳にはいかない。

実力差や不利、俺の持つ物は『あの男』の喉元に喰らいつくための牙以外はあらゆる物を金繰り捨ててでもここでこいつを倒す。

その時、遠くからバイクのエンジンの音が聞こえた。

銀のバイクをトンネルが崩れて回収できずに中に放置という大ポカをやらかして
どう謝ろうかと陰鬱な気持ちで相棒と家路についていると風の乱れを感じた。
よーく耳を澄ますと向こうの方で何か人ならざるものが戦っている気配を感じた。
「まさか銀が…よし、変身!」
さっきのこともあり俺はまたあの異形の仲間が現れたのではないかと思い変身するとバイクを道の脇に寄せて
道路からそれて屈みながらこっそりと道の脇の茂みに身を隠しながら進んだ。

気のせいであることを願いながら幾らかこっそり歩き続けると案の定銀と異形の怪物が戦っている。
茂みに身を隠しながら覗くと驚くべきことにあの銀が完全に劣勢だった。
(嘘だろ…)
自分より遥かに強いと思っていた銀が敗北しようとしている事実に
自分とあそこの異形の間の圧倒的な差を説明されるまでも無く理解して絶望的な気分になる。
(でも俺がやらなきゃ…今なら後ろから…)
俺がここから奇襲で一撃食らわせれば形成逆転できるかもしれない。
いや、ここで俺が一発逆転させなくてはならない。
俺は最高の一撃を放つために意識を集中した。

あれから数分打ち合いを続けているが、やはり防戦一方から抜け出せない。
それどころか反撃の糸口も見出せない有様だった。
そうしていると道の横の茂みに雅が変身してたままで隠れているのが見えた。
(馬鹿が…)
やはりさっきのバイクの音はこいつだったか。
明らかに眼前の異形は気付いているだろうが気にもかけていない様子だった。

(…雑念が多すぎるな)
もうそんなことはどうでもいいのだ、今の俺はこいつを倒して『あの男』を引きずり出し
そしてその喉元に突き刺さる一振の刃、ただそれだけでいいのだ。
そう、全ては其処へ辿り付く為のみに存在しているのだ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
潜んでいた雅が蜻蛉の異形に一撃を与える為に空高くへと跳び出した。
そう、それでいい。
蜻蛉の異形は遥か高くから一撃を加えようとした雅に対して真っ向から必殺の一撃を与える。
(その瞬間が隙だッ!)
既に俺は技を放つ体制に入っていた。
蜻蛉の異形は雅の相手をした瞬間わずかながらこちらへの注意を逸らして隙を見せていた。
「マイナス――」
蜻蛉の異形がこちらに向き直ろうとするがもう遅い。
「――スラッシュ!」
回避不能のタイミングで全てを凍らせる氷刃にて奴の胴を両断する

筈だった。

「…悪くなかったのだがな」
「あ…ガッ…」
有り得ないはずのことだった。
あの距離、タイミングで俺が仕損じることも、奴の手刀が俺の剣戟より速く俺の左肩を切り裂いたことも。

「ひよっことはいえ少し見ていれば私との力量の差くらいはわかっただろうに
それでも私に一糸報いて友を助けようとしたそこの男も
…そしてそれを止めねば返り討ちにあって死ぬだろうということをわかりながらも
私を倒すことを優先した貴公の勝利への執念もな」
今の一撃で倒せなかったなら仕方が無い。
早く次の手を考えなければならない。
早く早く早く早く…
「そう、未だに勝負を捨てないその執念は尊敬に値する
貴公らに敬意を表してここは退くとしよう、私も痛手を負った。」
そう言うと奴は俺の一撃が掠ったのか凍りついた脇腹を撫でた。
「そうだ、言い忘れていたがそこの男はまだ生きているぞ
…あの時の蹴りはひよっことは思えないほど素晴らしかった
私の攻撃の威が完璧では無いながらも相殺されたよ」
雅の方を見ると僅かにだが確かに動いていた。
「傷を治して万全の力でいつか戦おうではないか
その時はもっと私を楽しませてくれ」
そうだ、もっと強くならなくてはならない。
強く鋭く冷徹な、『あの男』の喉元に突き刺すための刃を磨がなくてはならない。
去って行く蜻蛉の異形を見向きもせず俺はそのことだけを考え続けた。


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