第一話 異臭が鼻につく。目の前を蝿が横切った。 それからは僅かに煙が出ていた。黒く焼けただれていたが、焦げ臭くはない。おそらく、酸か何かだろう。 俺は大学生。卒業論文を書くために、実験に必要な硫酸を借りてきた。その帰り、俺はそれを見た。顔は酸の効果か、グロテスクに変形している。それを見た俺は、思わず硫酸の入ったバッグを落としてしまった。 運悪く、バッグから硫酸の瓶が出てしまった。 空中で開くバッグ。視界の端で、弾ける瓶。 じゅっ。 脚に激痛が走る。 見ると、すねに濃い雫が一滴がついていた。 その日の夜、取り調べを受けた。あるがままの事実を話したが、どうだっただろう。 あの死体は、顔面を強打した直後に強い酸性の液体をぶっかけられたらしい。死亡時間は俺のいた時間帯、5時前後らしい。警察の見解はこう。俺が見知らぬ通行人の顔面に向かって硫酸の瓶を投げた。全てがそれで説明がつく。 でも、違う。 俺はやってない。 そんな主張も受け入れられず、犯罪者としての人生が待っていた。 弁護士が奮闘してくれて、過失致死として予想していたよりかは懲役日数は少なかった。 今日が出所の日。 乾いた壁を朝日が差した。朝食中に見慣れない顔を見た。 「ううぅ・・・」 突然、そいつは苦しそうに体を曲げる。なんだ?「あああああ・・・!」べりりり。 囚人服の破れる音とともに、そいつは異質なものに変化した。 全身が透明な液体に覆われ、頭から突起が2つ、伸びだす。 ぐちゅり。 不快な音がして、大きな殻が現れた。 それはこの数秒で、人間とは思えない造形の生物となった。 「うわああ!」 至る所で悲鳴が聞こえる。人の波に押されながら、目の端でショッキングなものをみた。 びじゅり、と嫌な音を出して人に向かって、そいつは口から透明な液体を吹いた。 ぐあっ、っと叫び、かけられたヤツが倒れる。 「おい!」 反射的に俺は叫んでいた。それがまずかった。 「ブボオオォ・・・!」低い鳴き声を出しながら化け物はこっちをみた。化け物は頭をぐわ、と引いた。 びじゅり。 そいつはこっちに向かって液を飛ばした。 「うわっ!」 必死で液を避ける。 びじゅり。びじゅり。 化け物は連続的に液を飛ばしてくる。 しかし、避ける時にゴロゴロと転がったため、運良く全て外れた。 「くっそ・・・」 椅子を盾にしながら、逃げようとした。そのときだった。 ぴす、と音がした。背中に僅かな痛みが走る。 一気に意識が無くなりだした。 最後に見たのは、黒いパワードスーツを付けて銃のようなものを構えた兵隊の集団だった。 研究室に声が響く。 「やったぞ・・・これがマスクドライダー・ジャックス・・・!ドラグリオに対抗出来る希望の鎧だ・・・!」 私は目の前の自分の功績を目にして、心の奥底で歓喜した。