リロード | 新規新規 編集編集 差分差分 添付添付 バックアップバックアップ | 一覧 検索 最終更新 改名 | ヘルプ | 最終更新のRSS |

喪にも奇妙な物語 の変更点


 &color(blue){&size(18){''もしよろしければ皆さんも更新にご協力ください!!''};};
 &color(blue){&size(18){''このページは2ちゃんねるの「もてない男性板」のスレッド''};};
 &color(blue){&size(18){''「喪にも奇妙な物語 第三夜 スレ」''};};
 http://etc4.2ch.net/test/read.cgi/motenai/1160205083/
 &color(blue){&size(18){''の仮まとめサイトです''};};
 
 #contents
 *イケメン受験 [#e6133153]
 
 イケメン検定に不合格し続ける喪男。 
 たまりかねた父親は、田畑を売った金で試験官の買収をする。 
 おかげで検定に合格した喪男だが、誰にも知られていないはず 
 の不正を周囲に何故か見破られてしまう。 
 
 
 *腐女缶 [#l2919acc]
 
 何気ない悪戯心で隣人の部屋に入った喪男。 
 部屋で見つけた怪しげな缶詰を盗み、自室に 
 戻って空けてみると、中から腐女が。 
 「男は全員死ねや!」と奇声を上げて喪男の 
 財布をひったくった腐女は、幕張メッセに走って 
 コミケでホモ同人を買いあさり、帰りの電車の中 
 でリスカ。後をつけていた喪男は自分を見ている 
 ようで泣きじゃくったが、彼もまた喪男缶から産ま 
 れた人造人間だった。手を取り合った二人の人造 
 人間は、自分達を迫害し続ける人間社会への戦い 
 を始める。 
 
 *喪ののけ姫 [#a2446b2d]
 
 ある日、帰宅途中に綺麗な和服に身を包んだ美少女と出会う喪。 
 目に怪我をしており、家に連れ帰り手当てをする。 
 強烈な閃光で目が見えなくなったという彼女と話をしている内に 
 どうやら彼女は戦国時代からタイムスリップしてきた乃気(のけ)家の姫君だとわかる。 
 隣国の侍に襲われて逃げるさなか、突如発生した時間流に巻き込まれてきたのだ。 
 苦心惨憺して彼女を過去に戻す方法を探す喪と姫の間に生まれる恋愛感情。 
 マッドサイエンティストの友人の力を借り、同じエネルギーを生む雷で戻れる方法があるとわかる。 
 やがて高校のダンスパーティーの日、雷鳴によって時間流が発生。 
 彼女の願いもあり、姫のサムライとして生きる決心をした喪は姫と一緒に過去の世界に戻る。 
 再度の衝撃により目が見えるようになった姫は、代わりに記憶を失う。 
 突然現れた姫と怪物(喪)に、冒頭に姫を殺そうとしていた侍は思わず喪を切り殺す。 
 その景色をみていた姫の家族は、姫を侍に嫁がせて隣国と和平をはかる事にする。 
 やがて侍は成長し日本を治める武将になる。
 * 最後の喪男 [#o29f4b25]
 
 201X年政府は、美醜選別法を成立。大量の喪と喪女を殺処分しはじめた・・・ 
 そして月日は流れ、世はイケメンと美女であふれかえる理想国家となっていたがある日、それは起きてしまった!!突然奇病が国民を襲いだしたのである。 
 政府は原因はイケメン・美女として生まれてくるよう遺伝子操作した第二世代以降が多いことに気付く。 
 そして俗にいうキモメンなどの遺伝子を保有してないとバランスが崩れてやがては絶滅してしまう危機を察した政府は某地方の山奥に生き延びた喪男達の噂を知り、彼らを召喚しようとするが・・・。 
 
 *赤松健 [#m727a6a2]
 
 東大をめざして三浪中の主人公、喪男。今日も模試の判定でD判定が出た。 
 同じ予備校に通う赤松君も喪男と同じ境遇なのに、何故か余裕の笑みを浮かべている。 
 勉強ばかりで痩せ衰えていたのに、最近妙に健康的になってきたのだ。 
 理由を尋ねると、「実は魔法を覚えてストレスを解消しているんだ」と打ち明けられる。 
 赤松君の招きで彼の部屋に行くとそこには小さな箱がある。 
 箱を開けると、自分で作った女子高の教室ジオラマと、さまざまな女子高生のフィギュアが並んでおり、 
 赤松君が先生の格好をしたフィギュアもあった。 
 彼の話では、箱の中は永久に時が止まった世界で、彼はモテモテな先生なのだそうだ。 
 妄想に執着しだした赤松は、喪男に「もう一人誰か一緒に協力してくれたら永遠にこの世界に居られる力が得られる」と語る。 
 赤松君の魔法とは単なる妄想への逃避だと感じた喪男は、彼に妄想世界への誘いを受けるが恐怖から部屋を逃げ出す。 
 しかし、帰り道に憧れの彼女が彼氏とキスをしている現場を見、自分も赤松君の妄想に逃避する決意をする。 
 赤松君と一緒に彼の妄想世界へ侵入した喪男は、教室の女子高生たちからモテまくる展開を期待するが 
 妄想世界の女性たちは、世界の創造主である赤松君へは好意を示すが喪男には何の興味も示さない。 
 時の止まった小さな教室で、逃げることも死ぬことも叶わない。 
 喪男は永遠という時間を一人ぼっちでモテモテな友人と取り巻きの女子高生たちを見つめながら生きることになってしまうのだった。 
 
 *人気者のマスク [#ze086cae]
 
 クラスでは目立たない存在だった守は人気者の同級生信二を少しだけ妬んでいた。 
  
 自分も人気者になりたい。 
  
 ある日、信二にそう相談を持ちかけた守は、信二に秘密の店を教えてもらう。彼もそこで人気を獲得するアイテムを手に入れたのだそうだ。 
 そこは人気者のマスクを売る店だった。 
 
 *イケメン狩り [#u53dbe83]
 
 喪がグループを成してイケメン狩りを始める。 
 しかし、次第にグループのメンバーに女ができはじめて・・・・ 
 
 *封印 [#y74e7ae0]
 
 ある日、喪男は道端で飾り気の無い鍵を一つ拾った。 
 それはいったい何の鍵なのか、誰の鍵なのか? 
 自らで可能な限り調べつくしたが銀行の鍵であるということ以外検討すらつかない。 
 まるで分からなかったが、世間に見放された孤独さに共感し、 
 いつしか手に入れたはずの鍵が彼の心を大きく占め始める。 
 日常が鍵を中心に回り、鍵を見ないと落ち着けない。 
 まるで鍵を我が子のように愛で、鍵を体の延長のように磨く。 
 彼はそんな状況に恐怖を感じ始め、鍵の封印を決意する。 
 そうだ、銀行の金庫がいい。あそこなら誰にも見つからないし絶対になくならない。 
 そして、金庫の鍵を捨ててしまえば自分の意志がたとえ負けたとしても、 
 二度と鍵をこの目で見ることは適わぬだろう。 
  
 ああ、そういうことか。 
 
 *ガラスのサイコロ [#jd85f0b6]
 
 初詣に出かける喪男。 
 神社の出店でみつけた小さなガラス製のサイコロ。 
 主人の話によると、それを転がして出た目の数だけ願いが叶うというらしい。 
 半信半疑ながらも購入する。家でじっと見つめるがどうしても普通のガラス細工にしか見えない。 
 片付けようとしてうっかり床に落としてしまう。サイコロは転がり、2の目でとまった。 
 するとサイコロが突然輝きだす。まさか・・・ 
 とりあえず腹が減ってたので「寿司が食いたい」と願うと、突然テーブルに寿司が出現する。 
 本物だ・・・震えながら「寿司にはビールだよな・・」というとそれも出現。 
 が、ビールが出た直後、2の目が刻まれた面は曇ってしまう。一度出た目は二度と出ない事になってるらしい。 
 まだそれ以外の目は残っている。1から6を足すと21。2を引いても19。19回、願いが叶うのだ。飛び上がる喪男。 
 玄関のチャイムがなり、親類が集まってくる。母親に無理やり挨拶をさせられている間に、 
 スゴロクで遊ぼうと従兄弟の子供がガラスのサイコロを持ち出してしまう。気づいた時には数回降られた後。 
 子供たちに「これは願いが叶うサイコロなんだ、勝手につかうな!」と怒鳴る。それを聞いた子供たちは口々に 
 「お年だまたくさん!」「お菓子たくさん!」「ネコが欲しい!」「新しいゲームが欲しい!」と連呼。 
 突然湧き出したゲームやネコやお菓子に狂喜する子供たち。無理やりサイコロを引ったくり部屋に戻ると、1以外の面はすでに曇っている。 
 まだひとつは大丈夫。金にするか、女にするか、就職にするか。悩む喪男に、先ほど出現したネコがとびかかる。 
 ネコの手にはらわれて転がるサイコロ。この糞ネコめ!と手近のバットを握り締めネコに殴りかかろうとする。 
 ネコが「にゃーん」と鳴いて逃げ出そうとする。突然床に落下するバット。喪男の部屋は空っぽになっている。 
 うずたかく詰まれたエロゲもPCも漫画もベッドも何もかもがなくなっている。 
 階下の部屋では家族や親類の楽しそうな談笑が聞こえてくる。 
 ネコを探しにきた子供と母親が現れる。 
 「あら・・・なんで空き部屋にすし桶があるのかしら・・・」と呟いてフェードアウト。 
 
 *喪・体験版 [#q551e538]
 
 中古ゲーム屋で「喪・体験版」を貰ったイケメン。 
 自宅のPS2に入れても画面が真っ黒のままなので不良品かと思われたが、 
 彼の日常はこの瞬間から変わってしまった。 
 街を歩くとすれ違う人々に笑われ、買い物のつり銭は掌に落とされ、 
 笑いながら同僚の女に話しかけても相手は常に真顔なまま片言の相槌を打つだけで、 
 上司・先輩からは「何だその顔は?ちゃんと反省してんのか?」と怒鳴られ、 
 後輩からは「ひょろいんですよ〜。そんなんじゃ舐められますよ」と舐められる。 
 彼は自身の口癖である「努力」「根性」で周囲の「友情」を得ようとするが、 
 努力に見合っただけの結果は出ず、のほほんとしている同僚は普通に周囲に 
 溶け込んでいる様子をみて、そのうち何をする気力もなくなった。 
 会社を無断欠勤した彼は、事の発端が「喪・体験版」にある事に気がついて、 
 ソフトを叩き折ったが、それがきっかけで「本編」が始まってしまう・・・。 
 
 *脳外彼女 [#v3ee2e46]
 
 都内某所に住む、ひきこもり喪男。 
 喪男は存在する筈の無い彼女があたかも居るように生活し、食事や衣服に至まで彼女の分まで用意しようとする。尚且つ、彼女の自慢や日々の他愛ないやり取りまでを細部に渡り他人に話したがる。 
  
 そんな喪男を心配してやまない母を始めとする家族の意向により、ある日精神科医のカウンセリングを受ける事になり、その世界では名のある医師の元へ向かう一家。 
  
 複雑な心理分析の結果、喪男の脳波は極めて正常であると診断される。 
 疑問を感じる一家。では何故息子は、と医師に問い詰める。 
 医師は一週間入院して頂き、精密な検査をしたいと家族に告げる。 
 承諾する家族。しかし激しく抵抗する喪男、押さえ付ける医療スタッフの手を必死に解き母に向かって幾度も罵倒混じりに叫び続けた。 
 俺がいなくなったら彼女が死んじゃう!そう喚く喪男に心を痛めながらも、母は医師に息子を助けて欲しいと哀願した。 
  
 病棟から帰宅、何処か拭えない不安を覚えながらもそれぞれが「喪男のためにめ、これで良かったんだよ」と自分に言い聞かせるように、お互いを慰めあった。 
  
 そうだ、息子の着替えをもっていかなくては。不意に思い出す母、部屋にひきこもって以来、半年近い月日喪男の部屋へ入室を禁じられている。 
 心の中で息子に謝りながらドアを開けると、凄まじい湿気と異臭が母を包んだ。 
 暗く乱雑した室内に光々と灯るPCのモニター。 
 その部屋は以前見知った息子の部屋とはあまりにもかけ離れている。 
 電気を点け、喪男の居ない部屋を力なく片付けだす母。 
  
 不意に押し入れの奥で物音がした。気のせいだ、そう思い込もうとしたが、続け様に不穏な音が聞こえる。 
 押し入れの扉を衝動的に開く母。その向こうで、知らない少女が眩しそうに母を見上げていた。 
  
 某日。新聞の紙面には喪男の写真と共に「ひきこもり少年監禁容疑で逮捕。行方不明女子高生、無事解放」、そう記されていた。 
 
 *屈辱 [#g30685ee]
 
 クラスメートの女子やイケメンに馬鹿にされる日々を送っている二次オタの高校生(喪) 
  
 ある日、喪は秋葉原の裏路地で異世界へ渡れるという列車の切符を手に入れ 
 その日の深夜に駅に向かい、大好きなエロゲーの世界へ渡る 
 これから始まるバラ色の生活に心をときめかせる喪 
  
 しかしエロゲーの舞台である学園に向かった喪を待っていたのは 
 ゲームでは良き恋人であったヒロイン達からは冷たくあしらわれ 
 顔も名前も無かったクラスメートからはイジメを受ける現実となんら変わらない日々だった 
  
 こんなはずが無い、俺は主人公だぞ!とゲームとは正反対の展開にパニックを 
 起こし始めた時、屋上で一人のイケメンとヒロインの会話を耳にする 
 その会話こそ、モニターの中で幾度も目にした主人公とヒロインのやり取りであった。 
 攻略ルートの選択通りに会話を進めるイケメンに、お前は誰だ!主人公は俺なんだ!と 
 泣き喚きながらイケメンに掴みかかるが逆にボコボコにされて屋上に一人残される喪 
  
 日の傾いた屋上で放心状態のまま倒れていた喪の前に一人の学生が現れる 
 「アンタさぁ何か勘違いしてんじゃねぇの?あいつらが惚れてんのは、〇〇で 
  この世界の外側にいるアンタらじゃないんだよ。 
  アンタらは〇〇が良い思いをするための手助けをしてやってるだけ 
  そこら辺取り違えてるから、こんな目に遇うんだよ」 
  
 それだけ言うと、その学生は去って行った。 
 結局自分はイケメンの手助けをしていただけ、学生から伝えられた言葉により 
 喪の心は更に深く沈んで行った 
  
 *いつもの書き込み [#qb21cb82]
 
 会社から帰るとすぐPCを起動して2chに書き込む喪男。 
 彼は毎日のように日々の鬱憤を書き込み、板の住人から慰められる事を生きがいとしていた。 
 (彼の書き込みに対する慰めのレスは毎日50ちかくもあった) 
 彼はある日オフを提案した。参加者10人ほどだそうだ。 
 しかし待ち合わせ時間から1時間誰も来ない。 
 そして家に帰るとすぐそのスレッドにて今日の事を問いただした。 
 レスはなかった。いつまでたっても。そして彼は気付いた。 
 彼に対するレスはすべて彼と同じIDだという事に。 
 
 *臨終 [#m6c659a8]
 
 「貴方の理想、叶えます」 
 人生に虚しさを覚え、自分の生きている価値を見失った喪男。会社からの帰り道、そう書かれたビラを改札口を抜けた直後手渡される。 
 ビラにはその一文がでかでかと書かれた以外は無説明で、隅に小さく電話番号らしき数字が記されただけだった。 
 何かの宗教だろうか。そのビラですら自分を馬鹿にしている気がし、喪男はビラを破り捨てると家に急いだ。 
  
 狭いアパートの部屋に戻り、布団に倒れこむ喪男。 
 果して自分が何の為にこんなに疲れなければならないのか、そんな考えで心が深く沈む。死にたい、そう切に思った。 
 不意にあのビラを思い出した。宗教でもなんでもいい、今は縋りたい気分だ。 
 今の現状を変えられるならば、どんな信仰でも出来るつもりだった。 
  
 理想・・・出来るならば、もう一度幼少の自分に帰りたい。あの頃の自分で、もう一度人生をやり直したい。喪男の枕は、その自身の涙で冷たく滲んでいった。 
  
 翌朝、一本の電話で目が覚める。 
 「貴・たの・・理想の・・叶えま・・た」 
 雑音がひどく、上手く聞き取れない。昔から何度も聞き返す事を臆する喪男は、曖昧な返事でとりあえず電話を終えた。 
 何故だか自分の声に違和感を感じる。何時もより自分の声が響かない気がした。 
 体が妙に軽い、覚めやらぬ目蓋をこすり鏡に向かう。 
 信じがだい光景だった。其処に映ったのは醜い今の自分ではなく、小学生くらいの少年だった。ようやく意識が繋がった時には、深い絶望で押し潰されそうになっていた。 
 粗悪で雑な、「理想」が叶ってしまったのだ。 
 これからどうすればいいと言うのだ。体までは少年に戻っていても時間までは戻らない。 
 閉ざされた未来の前で喪男は二度目の産声を上げた。 
 
 
 *喪リエモン [#dcbf46b7]
 
 醜くチビで根暗な喪男が暗い人生を歩んできたのは想像にたやすい。 
 だが、彼に転機が訪れた。学生時代にモテナイ仲間内で始めた事業が大成功を収めたのである。 
 彼を取り巻く環境は著しく変わり、彼自身にも少なからぬ影響を及ぼした。 
 いい車、いい時計、いいスーツは彼に自信と表情を与えた。 
  
 ある日、彼の仕事場に一本の電話があった。相手は若い女・・・明らかに得意先ではない。 
 だが、声の主は一瞬でわかった。彼女と声を交わしたのはそれまでにわずか一回。 
 高校一年の時に彼女の消しゴムを拾った。 
  
 「ありがとう」 
  
 彼は少女を好きになった。奇しくも三年間一緒のクラスだったが、影から見守ることしか出来なかった。 
 電話の内容はクラス会の勧誘。彼が行くことにしたのは電話の主に寄るところが大きい。 
  
 クラス会以降彼女との距離は急速に狭まった。 
 彼女にも過去が出来ただろう。化粧も上手くなり、酒もよく飲む。だが、声は変わっていなかった。 
 まさか、人生初のデートを彼女とすることになるとは・・・。 
  
 数ヵ月後、彼女は喪男に唐突に電話で告げられた。 
 「大事な話がある」 
 胸の高鳴りは納まらなかった。 
 しかし、彼の口は女の期待を裏切った。事業で失敗したこと、無一文になったこと、仲間が不正をしていたこと、 
 刑事責任を問われる可能性があること、それでも一緒に居てほしいこと。 
 女は返事が出来なかった。そして喪男の前から消えていった。 
  
 一年は経っただろうか、女は友人から不可解な話を聞いた。 
 喪男が盛大な結婚式をあげたというのだ。しかも相手は社長令嬢。 
 女は初めてあの時彼に試されていたことを知った。 
 
 *花嫁人形 [#ed48b421]
 定職も無い貯金も無い友人も無い恋人も無い親兄弟も居ない 
 なかば人生を諦めかけている喪男、肉親はがらくたばかりのリサイクルショップを営む祖父だけである 
 そんな祖父が急死しリサイクルショップを引き継ぐ事になった 
 どうにも売れそうにないがらくたの山、何と無く整理をしていると一体の汚れた裸の女の球体間接人形を発見する、一瞬死体かと戦慄する喪男 
 しかしよく見ると汚れてこそはいるが中々に美しい顔立ち、しかも本物の人間の様な生々しさ 
 取り敢えず汚れや埃をとり 
 
 
 *エイプリルフール [#yb02943d]
 
 ニートだが、素直で正直な心を持つ喪男。ある日、見知らぬ老人が彼に声を掛けてきた。 
 4月1日までに一度も嘘をつかなければ、4月1日についた嘘を一つだけ現実のものにしてくれるらしい。 
 どこかで聞いたような話だが、素直な喪男はとりあえず老人の言うことを信用することにした。 
 4月まであと数日の辛抱。用心さえすれば決して難しい話ではない。 
  
 問題は4月1日にどういった嘘をつくかだ。彼は日夜悩み続けた。 
 願望は腐るほどある。しかし、その中から一つとなるとどうしても答えが出てこない。 
 時間が無くなってきたことに焦りを感じ始めた喪男は数少ない友人(喪)の家へ相談に行くことにした。 
 話を聞いた友人は呆れ果てた様子だったが、それでも一応相談には乗ってくれた。 
 おかげで、日が暮れる頃には数多くあったアイデアもそれなりに絞られてきた。 
 友人が「まだ時間はあるから続きは明日考えよう」と言うので、今日はここで切り上げることにした。 
 家に戻り、食事を済ませ、自室のベッドで今後の妄想を繰り広げる喪男。しばらく横になったあと、PCの電源を入れて 
 喪板のスレに目を通す。喪男の日課だ。だが今日の喪板には妙な違和感がある。 
 少し考えた後、その違和感がレスの日付欄にあることに気づいた。 
 
 2006/3/32(土) 23:51:06 
 
 (32日?いや、あり得ないよな。故障か?)喪男はさらに考えた。 
 (・・・31日の次は1日・・・それから・・・ということは・・・・・・・) 
 「エイプリルフールか!」 
 彼はここでようやく友人が嘘を付いていたことに気が付いた。 
 長年のニート生活で日付感覚が麻痺していた喪男は友人の嘘を真に受けてしまったのだ。 
 喪男はとっさに時計に目をやった。4月1日23時59分。ギリギリセーフだ。だが考えている暇はない。 
 喪男は半ば反射的にこう叫んだ。 
 「この家に大金が降ってくる!!」 
 ・・・友人との会話で最初に没にしたネタだ。 
 叫んだ瞬間「しまった」と思ったが、もう遅い。 
 喪男は後悔しながらも大金が降ってくるのを待った。 
 だが、いくら待ってもそれらしきものが降ってくる気配はない。庭も探してみたが、結果は同じだった。 
 結局この日は何も見つからず、そのまま喪男は眠ること 
 ことにした。 
  
 数日後。やはりなんの進展もない。なぜ何も起こらないのか。喪男はその理由を考えながら外をぶらついていた。 
 すると、近くに見覚えのある顔があった。あのときの老人だ。 
 今度は喪男の方から声を掛け、願いが叶わない理由を問いただすことにした。 
 老人はしばらくの間沈黙し、やがて静かにこう言った。 
 「ごめん、あれ嘘w」
 
 
 
 *マラえ喪ん [#l350a8c8]
 
 ある日ヒキニート小卒の野琵汰のもとに、醜い顔をしたチビデブハゲ短小包茎のマラえ喪んがやって来た。 
  
 はじめまして野琵汰君。ボクは君の舎弟だよ。好きに使ってくれ。 
  
 もちろん、現実にはマラえ喪ンなど存在しない。引きこもりすぎて頭がイカれた野琵汰の幻想にすぎない。つまり他人にはマラえ喪んは見えない。 
 だが野琵汰はすでに15年以上も引きこもっており、常に孤独であったためマラえ喪んが実際にはいないことに気がつくはずもなかった。 
  
 マラえ喪んは時折頭頂部から白く無害な液体を出す。グエグエと気味悪い声で笑い、目付きは悪く、あらぬ方向を見ながら野琵汰と話す。そんなマラえ喪んを野琵汰はすぐに好きになった。 
 野琵汰はマラえ喪んに今の友達の現状を変えてくれと頼んだ。 
  
 かつてのジャイアンも今では元プロレスラーで異色の政治家、自民党衆議院議員・剛田剛として知られる。スネオは三井物産、共同通信を経てアメリカのCNNで働き、 
 出来杉は財務省キャリア官僚を経て日銀副総裁に抜擢され、しずかちゃんはすっかり昔の面影が消えお笑い芸人しずちゃんとして有名になり、出来杉の肉便器になっていた。 
  
 マラえ喪んはグエー!と奇声を発すると一瞥し、自分でやれば?と野琵汰に言った。マラえ喪んは気分屋であった。 
 その後マラえ喪んは大して何もせず、毎日エロ本を見ては、巨大なチンカスを野琵汰に投げ付け、野琵汰をあざ笑うばかりであった。それでも野琵汰は以前よりも幸せだと感じていた。 
  
  
  
 アッタマテカテーカ、乾いてビカビカ、そ〜れがどうした、マラえ喪ん〜♪ 
 大人の世界の〜、マラ型ロボット、そ〜れがどうした、マラえ喪ん〜♪ 
 
 
 *コップの水 [#df04f886]
 
 目の前にあるこのコップの水を流し込めば全てが終わる。 
 数分前に人生最後の一服をした。二口ほど吸って放り投げた。そして劇物入りの大き目のカプセルを口に含んだ。 
 コップを下唇に持っていく。もう終わりだ。 
  
 考えてみれば散々な人生だった。 
 男からは罵倒され、女からは迫害され、家族からは疎まされ、社会からは無視された。 
 その原因の全てを顔のせいにするわけではないが、やはり大部分は顔であるに違いない。 
 昔からこの顔を、「ハエ男の映画の最後の最後に出てくるやつ」のようだと皆口をそろえて言う。 
 好きな子には「蛭子さんを五六回ぶん殴った感じ」とも言われた。 
  
 死ぬ前に世の中のイケメン共、美人共に復讐してやろうかとも思ったが残念ながらそんな度胸はない。 
 俺には何もない。職もない、学もない、金も・・・いや、金なら多少ある。 
 昔から趣味も何もないのでバイトやお年玉はほぼ貯金してあり、中古車一台くらいは買える程になっていた。 
  
 そうだ株だ!どっかの誰かさんは八万から億単位にしたそうじゃないか。俺もそうなればいい。 
 毎日終日働き、鼻糞のようなはした金を有難がっている世の中のクズ共をあざ笑うのだ。 
 これが俺の復讐だ。死ぬのはそれからでいい。 
  
 その時なにやら焦げたような異臭がした。息をのんだ。先ほど放り投げたタバコの火がカーペットに燃え移っていたのだ。 
 とっさに持っていたコップの水をかけた。火は大事には至らず、安堵の表情を浮かべた。 
  
 ん・・・何かおかしいな・・・・・・!! 
  
 気づいた時には時既に遅し。 
 カプセルは胃の中だった。 
 
 
 *峠の喪屋 [#t38254aa]
 
 主人公は学生。 
 大学に合格し、下宿するため秋葉原の叔父をたずねて 
 バイクでツーリングする。 
 緑が豊かな道を走り回る内に癒される主人公。 
 途中にあった峠の茶屋で休憩することにする。 
 店にはいくつもの美少女フィギアとアニメのポスター。 
 主人公が内装の趣味を誉めるとなぜか怯える主人。 
 「こんな所でずっと暮らせたらいいなぁ」 
 主人公が何の気もなしに言った台詞に 
 諦めの表情を浮かべ、早急に下山するよう促す主。 
  
 走り続ける主人公。 
 だが、どうしても元の茶屋に戻ってきてしまう。 
 元々オタの素養があったためにこの店のフィギアやポスターをみて 
 二次元に魅入られたのだと主人に説明される。 
 主自身もエロ同人を読んで下半身がおっきしていた。 
 このループから抜け出す方法を教わる主人公。 
 茶屋の裏の林を必死に下っていくと、 
 二次元に魅入られ、完全にオタクと化した者達に遭遇し 
 ワンフェスとコミケに通うようになると二度と脱オタできなくなると忠告される。 
  
  
 幹線道路に抜け出ることに成功する。 
 偶然通りかかった秋葉原行きのトラックをヒッチハイクする。 
  
 秋葉原が見えてきたと言われ喜ぶ主人公。 
 アキバの遠景を見て愕然とする。 
 既に秋葉原もオタクの聖地と化していたのである。 
 
 *ズコバコ☆ぺろんちょ [#j9cf8f69]
 
 
 オタである主人公はここ暫く同人で多忙な日々を送っていた。 
 そんなある日オタ仲間より「ズコバコ☆ぺろんちょ」なるエロゲの存在を聞かされる。 
 まわりはその話で持ちきりだがそれを知らない自分はどんどん阻害されていく。 
 焦りを感じた彼はさっそくネットで調べるもサーバのトラブルで使えずじまい。肝心の本品はどこも完売。 
 本屋に行けばエロゲ雑誌は立ち読み禁止、なぜかネットカフェはどこに行っても休業中。 
 親に頼めば「スホン&パクさん」なる韓国ドラマを借りてくる始末。 
 鬼気迫る勢いの主人公はついに・・・ 
 
 
 *パラレル喪ールド [#t1b6034e]
 
 喪太郎は美大6年生。 
 今年こそ就職しなければ今度こそ親に勘当されてしまう。 
 しかし生来の人見知りもあってかちっとも就職が決まらずそれに焦り余裕が無くなるという悪循環に陥っていた。 
 そんなある日部屋に入るとなんと自分がいる。 
 夢かと思って話しかけるとどうやら彼はパラレルワールドとも言える場所からやってきたもう一人の自分だった。 
 しばらく話していると風呂場から声がする、それは彼の婚約者で喪太郎の幼馴染みのDQN子だったのだ。 
  
 次の日の朝、起きると彼らはいなくなっている、夢かと思ったが書き置きがあるのを見るとそうでもない。 
 パラレルワールドの自分に絶望と希望を覚え、喪太郎はそれまで以上に頑張っていこうと決意した。 
  
 それからしばらくして、ついに努力が実り、喪太郎は有名デザイン事務所に内定をもらう。 
 そして家に帰った喪太郎はまたしても彼に出会った。 
  
 彼は一週間自分と変わってくれという。 
 とある有名企業に就職した彼は大学時代を懐かしんでいたからだ。 
 しかも五日後には結婚式も控えているという。 
 喪太郎はそんな彼の提案に乗り、一週間の入れ替えを快諾してしまうのだった。 
  
  
 朝目覚める。 
 そこは某高級ホテルの一室だった。 
 どうせ彼の金だからと延長をする喪太郎、さらにDQN子を呼び、魔法使いから脱却しようとする。 
 しかし、DQN子の携帯は誰も出ない。 
 変に思っていると部屋がノックされる。 
 開けると男たちがなだれ込んできて喪太郎は逮捕されてしまった。 
  
 なんと、パラレルワールドの喪太郎は一週間前に会社をリストラされ、三日前にDQN子を口論の末殺してしまっていた。 
 何かの間違いだという喪太郎。 
 しかし信じてもらえるはずもなく、また、こっちの世界の本当の喪太郎にも連絡が取れず、自分自身にも騙された喪太郎はただ自分を責めることしかできなかった。 
  
  
 END 
 
 
 *バランス崩壊 [#hb85dcac]
 
 二十一世紀初頭、ある国が極端な法案を可決。 
 それは、いわゆる喪とかキモとか呼ばれる人物達を意図的に間引く法律だった。 
 「清潔な国民を増やそう!」そのスローガンのもと、運動は高まりだした。 
 手始めに全国の刑務所などに服役する囚人を死刑に変更。次に秋葉原の撤廃活動、全国の喪と呼ばれる人物を徹底的に駆除・遺伝子も残さないというまさに害虫駆除のごとき活動であった。 
  
 そして、ついに政府は次の宣言を発表した。 
 「駆除活動終了」 
 とうとう、喪がいなくなったのだ。そして清潔な国民だらけの国がスタートした。 
 まさに物語の世界かなにかのような美男美女だらけのすごい世界。あのオタクがひしめいていた秋葉原は昔の電器街としてよみがえり、オタク関連は消滅していた。・・・・とうとう美と優性のみの世界へ進化していった。 
  
 ・・・・だが、あれに手をだしたのがまさか、喪達からの呪いだとはまだだれもしらない。
  
 呪いはすぐさまやってきた。 
 時代変革である。 
  
 美が醜、醜が美にパラダイム・シフトし、人々のルックスの感性が逆転してしまったのだ。 
 はるか昔に消滅したキモメン・ブス・ブサイクが人々の美の象徴として憧れを抱く現象がおきたのだ。 
 見渡す限り顔立ちがよい醜い者ばかり。さらには遺伝子操作や整形し、かつてのキモメンの容姿を手に入れた者たちがイケメン・美女という醜い者たちを見下す現象も。 
  
 時代に囚われ、醜を亡き者にした人類。 
 それをみていたかつてのキモメン達の亡霊は、ただただ不敵な笑みを浮かべていた。 
 
 
 *タイ喪マシーン [#r0eea09c]
 
 ああ・・・俺の人生はなんだったんだ・・・あのときの選択、あのときの思考、数え上げれば 
 きりがない後悔の数々・・・その前に小学生のころからもっと勉強とか運動とかコミュニケーション 
 とか育てていれば今ごろ顔は悪くても彼女くらい、いや女友達くらい・・・ 
 ああ、タイムマシーンがあればなあ・・・ 
 そんな無駄な思考を重ねつつも今日も2ch。そこにひとつの書き込みが。 
 「俺裏の天才科学者なんだけどタイムマシーン作った。この口座に振り込んでくれれば 
 試作品を送るよ」・・・なんだこれ・・・?当然帰ってくるレスは「振り込め詐欺乙」「氏ね池沼」 
 などなど。・・・だが俺はなぜかこの書き込みに強く惹かれ、気が付けばサラ金を回ってその金額 
 を集め、振り込んでしまった。3日後、大きな荷物が着払いで届いた。開けてみると中には 
 まんまどらえもんで見たタイムマシン。「おいおい作ったってこれかよ・・・」がっくりとうなだれるも 
 取り説のとうりに起動するとなんとこれが本物。気が付いたら俺は小学生1年だった。しかも 
 記憶は持ったまま。すごい!これからは常にベストな選択をできる!いやそれどころか俺は未来を 
 知ってるんだ。株とか流行とか思いのまま。ばら色の人生が頭の中を駆け巡る。 
 その1分後。目の前に男が現れた。「$$$$$」何か言った。「#####!!」わけがわからない。 
 男はため息をつき、何か小型の機械を取り出し、起動した。「全くこの時代は言葉もろくに通じないとは」 
 日本語でしゃべった。機械が。「ああ、これは翻訳機です。あなたにタイムマシンを売った男は本当に天才 
 でしてね。ほかの人間がタイムマシンの基礎理論を作るのに200年。実用化に50年もかかったんですよ」 
 つまりこの男は未来人か。「私はあなたに融資した金融機関の人間です。250年分の利息と元本を督促しに 
 来ました。現在あなたの負債は&&&&&&&・・・おや、この時代ではこの数字と貨幣単位は翻訳も通じないようだ。 
 とにかく天文学的な数字です。今すぐ私たちの時代に来て働いて返済していただきます」 
 「は、働くって何を?」「それは同性売春とか人体実験とか色々ですよ。働き先はいくらでもあります。我々の 
 時代は医療が発達して平均寿命は120才です。とりあえず寿命まで、働いていただきます。」 
 「て、てことは俺はこれから110年くらいそんなやばい仕事をやらなきゃいけないのか!?」 
 「110年?%%%%%%%%%%!!!!!]身をよじってもんどりうっている。どうやら笑っているらしい。 
 「そんなジョークセンスがあるなら元の時代でコメディアンにでもなれば良かったのに。いいですか? 
 あなたの負債はそんなはした金ではありません。 
 @@@@@@@@@@年ほど働いて頂かなくてはとても間に合いませんよ 
 まあ、そのころには太陽系などなくなっているかも知れませんが、大丈夫。科学の進歩は著しい。 
 人類は外宇宙へ移住していますよ」「で、でも寿命が」「大丈夫。タイムマシンがあるのですから寿命直前で 
 また子供に戻って頂いて、また一から働いていただくまでです」「・・・はぁ・・・」 
 今から俺の無間地獄が始まる。 
 
 
 *ダーツ [#t155d6eb]
 
 大学でも友達など出来なかった。知人が居ない訳ではない。ゼミという物がある。 
 人付き合いが苦手なので狭い部屋に複数の人間と一緒に入って議論するなどと言うのは 
 耐えがたい苦痛だった。三年の終わり。最後のゼミの後打ち上げが行われることとなった。そのとき 
 リーダー格のイケメンが何を思ったか「おい、お前もこいよ。最後なんだからさ」などと言った。 
 俺もどうかしていたのだろうか。初めて大学で人間らしい言葉をかけられて動揺していたのか、承諾した。 
 飲み屋で小一時間ほどぐだぐだとやって(当然会話に割り込めない)女の子(イケメンの彼女)が言った。 
 「ねぇ、ダーツ行かない?」と提案した。盛り上る一同。「なじみのダーツバーがあるの。私がいれば安く 
 遊べるよ」「いいな、行こうぜ!」俺はダーツなどやった事は無かったが、酔い覚ましもかねてついていく事に。 
 「今晩は、マスター」「ああ、いらっしゃい。良いところに来たね。今夜は変わった物があるんだ」 
 「変わった物?」「願いのかなう魔弾だよ」「?なにそれ」「ドイツオペラの魔弾の射手って知ってるかい? 
 七発中六発は必ず命中するが、最後の弾は欺くって話なんだがこのダーツは六つの願いをかなえてくれるんだ」 
 「うさんくさーい」酔っ払ったイケメンが「よーし、やってやろうじゃないか。投げればいいのか?」 
 「そうとも」「よーし」しかし酔いのせいでダーツは明後日の方向に飛んでいく・・・はずが、ダーツは 
 物理法則を無視してありえない軌道で方向を変え、的の中心に突き刺さった。一気に酔いが覚め、静まり返れる一同。 
 「さあ、願いを言うといい」とマスター。「い、一億円欲しい・・・」イケメンは震えながら口走った。 
 目の前に札束の山が現れる。すかしも入っている。手触りも本物だ。喜ぶというより畏れを抱くイケメン。 
 「それは君の物だ。自由にするといい」「ま、マジで?」「ああ」湧き上がる歓声。 
 「次あたし!」「いや、俺だ!」「ま、まて俺がもう一回投げる!」にやつくマスター。 
 俺も当然欲望が膨れ上がる。金、女、地位、権力、不老不死。「お、俺も・・・」「どけ!お前はお情けで 
 誘ってやったんだから最後だ!」鬼気迫る学友に怖気づき、「わ、わかったよ・・・でも必ず投げさせてくれよな」 
 「ああ!最後だけどな!」十分後、ゼミのメンバーは思い思いの願いをかなえ、「あー、100億って言えばよかった」 
 などと言いながら帰っていった。俺は一人残され、床に転がったダーツを拾う。 
 「さ、投げたまえ」俺は投げた。まだ何を願うか決めていなかったがそんなのは的に刺さった後からでいい! 
 ひゅん。すと。刺さった。ダーツは軌道を曲げ、深深と突き刺さった。・・・俺の心臓に。 
 「・・・え?」くっくっくっと笑うマスター。「言っただろう?最後の弾は欺くって。君が投げたのは七回目だよ。 
 酔っ払って数をきちんと数えていなかったのかな?」「あ、あんた何者・・・」 
 「くくく、欲に駆られて自滅する人間を眺める事ほど愉快な物はないな。悪魔なんて退屈な仕事、 
 こんな余興でもなければとてもやってはいられないよ」・・・悪魔?何を言ってるんだ? 
 俺は死ぬのか?「君の魂は連中の望みの代償として地獄に持ち帰らせてもらうよ。サタン様にノルマを 
 捧げないといけないのでね。何、地獄だって、腹が減るのと寒いのさえ我慢すればそう悪くは無いよ。さ、ついて来たまえ」 
 
 
 *「喪男免許」 [#z4d95315]
 あー、やっぱり就職できなかったよ。あんなガッコで成績中の下、資格もなんもなしじゃなあ・・・。 
 仕方ない、今からでも取れそうな資格探すか。と、拾ってきた資格情報誌をぱらぱらとめくっていると・・・。 
 「なんだこりゃ?喪男免許?」なになに、「あなたの喪力を社会のために活かしませんか?資格所持者 
 就職率100%!」まじかよ?でも確かに国家資格って書いてあるし・・・試験要綱は面接だけ? 
 んー、他にとりえも無いし受けるだけ受けてみるかなー・・・。 
 面接会場に来て見るといかにも近代的な高層ビル。一瞬間違えてるかと思ったが、確かに 
 「喪男免許取得試験会場」と書いてある。入ってみるといるわいるわブサメンキモメン、 
 おいおい萌えキャラのプリントTシャツの奴までいるぞ。一張羅のスーツ着てきた俺が馬鹿みてーだぞ。 
 順番が来て面接室に入ると試験官も見た感じ喪男。早速質問が始まる。 
 「女性経験は?」「私的な会話を一度もしたこと有りません」 
 「体脂肪率は?」「34%] 
 「脳内彼女は?」「タマ姉」 
 などなど十数項目の質問を受け、「審査に2時間ほどかかります。適当に時間を潰してください。 
 ここの待合室で待ってるも良し。外をぶらつくも良しです。・・・まぁ私としては外へ行く事を薦めますがね」 
 俺はこの近所の遊び場など知らないから待合室で待っていることにした。2時間後、受験者が集められる。 
 「全員合格です。さっそく今から仕事の契約を受け付けますので、配られた雇用契約書に目を通してください」 
 ざっと見ると給料も労働時間もこの不況にしては悪くない。後下のほうに何か細かい字で書いてあるが、 
 たいした事は無いだろう。他の受験者達も不満はないのか俺を含む全員が雇用契約書にサインした。 
 「異存は無いようですね。それでは」言うか早いか係員がビルの鉄製の内扉を閉め、厳重に鍵をかけてしまった。 
 ざわつく喪男達。「な、何を」「契約書に書いて有りましたね?勤務地はこのビル、補足条件として 
 「このビルから一生出ない」、と」「な、何だって?」これは政府のプロジェクトの一環でしてね。 
 これから国際社会の中で自国を海外にアピールするには喪男達が街をうろついているのは美観をそこねる 
 として、一切人目につかないように隔離する事が決まったのです。このビルは衣食住完備ですから生活に支障は 
 有りません。何か必要な物があればネットで注文してください」「て、てことはまさかあんたも?」 
 「ええ、前回の試験の合格者です。私ももう2ヶ月外の世界を見ていません。だから審査の間外へ行く事を薦めたのに。 
 それでは、皆さんの能力に応じて部署の振り分けを行いたいと思います」 
 
 
 *僕には、透明人間になる力がある。 [#z215ad7d]
 子どもの頃、駄菓子屋で万引きをしてしまい、見つかって逃げ出した時の事だった。 
 「捕まっちゃう。」そう思った瞬間だった。僕は心の中で「消えてなくなれ。」そう願っていた。 
 そんな時だった。突然目の前がぱあっと白くなった。 
 走って逃げている僕の姿が店並のショーウインドウに映っているのだが、何かおかしい。 
 足が映ってないのである。あれ?と思った瞬間、僕の姿は消えた。 
 もちろん服を着ているので、服だけが映っている。 
 何がなんだか分からなくて近くの洋服屋に逃げ込んだ。 
 どうしたらこうなったのか分からない。もちろん、どうすれば元に戻るのかも。 
 取りあえず僕は、服を脱いであまり人気のない路地を選んで液へ向かった。 
 もちろん、いつ元に戻るか分からないので、脱いだ服を持って。 
 幸い人通りは少なく、誰にも出会わず駅付近に着いた。 
 駅のトイレに入り、気を落ち着かせた。胸がドキドキしている。 
 当たり前だ、初めての経験だから。 
 深呼吸してみる。 
 トイレのアンモニア臭が鼻につく。 
 その時だった。徐々に身体が元に戻り始めた。 
 数分で完全に僕の身体が浮かび上がった。 
 後から分かった事だが、どうやら二酸化炭素が関係しているらしい。 
 逃げて走った僕の口から大量に二酸化炭素が放出され、僕の身体を取り巻いた。 
 二酸化炭素に包まれた僕の身体は光の反射で、見えなくなるという訳だ。 
 どうして僕の身体だけがそうなるのかは分からないが、体質の問題なのかもしれない。 
 とにかく僕は、偶然にもすばらしい力を手に入れた。小学5年生の時である。 
 あれから20年。今もその力を時々利用する。 
 もちろん使うのは気になる女性に対してである。 
 昨晩も力を利用した。昨日の晩、11時頃最近お気に入りの職場の女の子しのぶからメールが入る。 
 「これから彼氏がくるんだよ。いいでしょ?明日の昼頃まで遊ぶんだよ。」という内容。 
 しのぶは20歳。時間は11時。 
 当然、こんな時間の遊び方・・・どういう遊びなのか気になって、僕は力を使う事にした。 
 彼女の家の近くまで車で移動。そこから全力で疾走。こころの中で「消えろ!」と念じる。 
 次第に目の前が白くなり、僕の身体は消えてなくなる。寒かったが服を脱いで隠す。 
  
 どうやら、あの部屋がしのぶの部屋らしい。僕は玄関を開けた。 
 もちろん、お客が来ているので鍵はかかっていない。そっと2階へ上がる。 
 部屋のドアは閉じられているので、隣の部屋から屋根づたいにしのぶの部屋を覗く。 
 2人でテレビを観ている。やがて彼氏」が部屋から出ていく。 
 トイレだろう。チャンスだと思い、部屋の入口で待って、彼氏が部屋に入ったのと同時に僕も侵入する。 
 それから30分。2人はテレビをつけたまま、キスをし始めた。 
 彼氏が待ちきれなかったように、少し強引に唇を重ねた。 
 「ダメだよ、今日は。親がいるから聞こえちゃう。」としのぶ。 
 しかし彼氏は止めることなく、しのぶの顔中にキスの嵐。 
 次第にしのぶもあきらめモードに。やがて彼の手がしのぶの胸を揉みだした。 
 さすがにしのぶも声を出してしまう。「ダメっ!」とは言うが抵抗はしていない。 
 意外にないBカップの胸が揉みしだかれている。 
 (依然、職場旅行の時、しのぶの下着を盗み確認済みなのだ) 
 僕は我慢できず、そっと反対側の胸を揉んだ。初めてしのぶの胸に触った。 
 しかもノーブラで、乳首の立っているのが分かる。彼が服をたくし上げ、しのぶの胸が露出された。 
 やわらかそうな膨らみにピンクの尖った乳首。 
 彼は迷うことなく、吸い上げた。僕もやりたかったが、もう一方の乳首も彼が指で摘んでいるので、 
 可愛い乳首を刺激できない。しかたなく、僕はしのぶの感じている表情を楽しむことにした。 
 声をだせずに我慢しつつ、感じているしのぶの表情は、もちろん今までに見たことのない表情だ。 
 それだけで僕はいってしまいそうになる。 
 次に彼は自分も服を脱ぎ、トランクス1枚に。しのぶもジーンズを脱がされて、下着1枚に。 
 その下着はまた僕の好きなグレー。ピチッとお尻に貼りついている。 
 彼は立ったまま、しのぶを抱いた。やがてしのぶの手を取り、自分の股間を触らせる。 
 くそっ!正直、お気に入りのしのぶのそんな事させるなんて腹が立ったが、つきあってるのだからしょうがない。 
 トランクスの上からしのぶが肉棒をさする音が聞こえる。僕はその間にしのぶの後ろに立って、 
 僕の肉棒をしのぶのお尻に押しつけた。そっと背後からしのぶを抱いて。 
 彼氏との行為に一生懸命で、気付かないらしい。さするたびに揺れるお尻の感触が堪らず、僕は果ててしまった。 
 一瞬、彼女が気付いた様子だったが、所詮姿は見えない。 
 すばやく離れて、彼女の下着を汚すこともなく、僕の精液はカーペットに染み込んだ。 しのぶと彼氏は、依然僕の存在に気付くことなく、抱き合っていた。彼がしのぶをベッドに倒す。 
 「ダメっ。」しのぶの声が小さく漏れたが、彼にはもはや聞こえていないらしい。 
 転がったしのぶの肢体、僕は脇からそっと乳首を摘む。声が漏れた。 
 明らかに僕が乳首を刺激したからだ。ピンクにそり立つ乳首を、僕は何度も愛撫する。 
 やがて彼は自分の肉棒を取りだし、しのぶの顔に近づけた。 
 僕は正直ムッとした。僕の彼女ではないにしろ、しのぶにしゃぶらせようなんて。 
 僕はためらっているしのぶの手を取り、彼の肉棒を握らせた。 
 しのぶは一瞬ビックリしたが、そのまま高速で肉棒をさすらせる。 
 「ダメだよ、もっとゆっくり。」 
 彼は少し痛そうにそう言ったが、僕としのぶは思いきり擦る。 
 「あ、い、いくっ!」彼は宙に放出した。 
 彼はベッドへしのぶを寝かすと、乳房に貪りつき、またしのぶのあそこを愛撫した。 
 しのぶはその気はないようだったが、仕方なく彼のされるがままだった。 
 僕は彼の行為に腹が立っていたので、つい本棚から本を数冊倒した。 
 その音は意外にも大きく、しかも落ちた所に置いてあった花瓶まで、割ってしまった。 
 その音にびっくりして両親が目を覚ましたらしい。 
 2階へ上がってくる物音がする。慌てて2人は服をまとった。 
 「どうしたの?」「ううん、花瓶が倒れただけ」 
 そう言うしのぶと、少し興ざめした彼。この騒動が幸いしてか、彼は帰って行った。 
 当然、僕は部屋に残っている。しのぶは音楽を聴きながら、先ほどの彼との行為を思い出しているのだろう。 
 やがてしのぶの手が、乳房に触れた。 
 そしてもう一方の手は、しのぶのあそこにあてがわれた。 
 僕は隣りに座り込んで、その全てを眺めていた。 
 じのぶがジーンズを脱ぎ、タンクトップと下着姿になる。 
 グレーの下着は先ほどの行為で濡れたのが分かるほど染みていた。 
 その上から容赦なくしのぶの指が蠢く。 
 また乳房を包む手にも力が込められる。 
 小さな吐息が漏れた。 
 僕は我慢できずに、そっと彼女の乳首を刺激した。堅くなっていた。 
 よつんばいになり、お尻を高く持ち上げて、自分のあそこをさすりはじめるしのぶ。 
 僕は後ろからお尻を掴み、そそり立つムスコをしのぶのあそこに押し当てた。 
 濡れた下着の部分に、僕のムスコが食い込む。とても気持ちがいい。 
 しのぶは「何?」と声を出した。 
 僕はかまわず、思い切り突き上げる。何度も何度も・・・。 
 「いや、何?あっ、あ・・・」 
 しのぶの、何が起こっているのか分からない声とあえぎ声の中、僕は思いきり果てた。 
 白い僕の分身が、彼女のグレーの下着を汚した。 
 最高の心地よさだった。 
 正直、その後の事はあまり覚えていない。 
 ただ、何となく罪悪感があり、すぐにその場を離れてしまった。 
 後日、彼女にメールで「彼氏と楽しかった?」とメールしてみた。 
 返事には「あまり楽しくなかったよ。何かいろいろあった。」と書かれていた。 
 
 *脳外彼女 [#i8079f55]
 
 喪男にも念願の彼女ができた。可愛い彼女で、喪男自身も不釣り合いだと思っていた。毎日のように遊びに行く約束をして毎日のように遊びに行っていた。 
 彼女の口癖は「私たち、付き合ってるんだよね?」だった。それは付き合ってることに自信のない彼女なりの愛情表現だった。 
  
 しかし彼女の唯一の弱点が影が薄いことだった。レストランでは彼女の席にだけ水が置かれないことがたびたびあった。だから喪男はいつもウェイターに文句を言っていた。 
  
 しかし、幸せだと思っていた日々も長くは続かなかった。喪男の両親が精神科に強制入院させてしまったのだ。 
  
 彼女と会えないことに怒り狂う喪男だが、母親はそんな人間いないの一点張り。彼女を馬鹿にされたと感じた喪男はさらにヒステリックになるばかりであった。 
 精神科に入院し一年。著名な精神科の先生や看護士の助けによって、彼女は脳内にしか存在していなかったことに気付く。誰も喪男以外の人間と話していなかったからだ。 
  
 退院して初めてそとを歩く許可が出た喪男は彼女と一緒に行っていたレストランへと迎う。 
 レストランで席に付き水を待っているとウェイターは2つ、水を持ってきた。ふざけているのか、と言う前にウェイターは喪男に今日は可愛い彼女と一緒なんですね。と言った。 
 すぐに逃げ出したが、そこから先、すべて、2人扱いされる喪男。 
 喪男の傍には脳外彼女がいる。 
  
 喪男の頭に鮮明に、彼女の声で響く。 
  
 私たち付き合ってるんだよね? 
 
 
 *喪脱出 [#j61f7104]
 
 「なんてもてない人生なんだ・・・」親を恨みたいくらいだと喪男は呟いた。 
 一夜にして何無量大数という精子が発射される12月24日、喪男には喪板のクリスマススレ 
 で傷の舐め合いをするか、オナニーに興じるか、ぐらいしか予定は無かった。 
 「喪前達毎年変わらねぇな・・ハハ。書き込みっと」 
 
 次の朝、目覚めた喪男の枕元に小さな箱が置かれていた。 
 中には「イケメン薬」と書かれた茶色い瓶が入っていた。 
 「クリスマスプレゼントのつもりか?誰のイタズラだよ・・ったく。」 
 「どうせタバスコとかでも入れてんだろ・・・」喪男は一口舐めてみた。 
 無味無臭。何も変化は無かった。 
 「何だよこれ。そんなことよりクリスマスのために借りておいたエロビデ10本 
 返しにいかないとな。」MOTAYAへと向かう喪男。 
 
 「何かが違う。なんなんだこの違和感?」 
 通り過ぎて行く人々の目が・・・好意的・・優しいのだ。 
 MOTAYAに着いた喪男は自分の目を疑った。 
 「こいつは誰だ?」ショーウィンドウに写った自分はとんでもないイケメンだった。 
 「あの薬・・まじかお・・テラカッコヨス・・」家に帰るまでに5人の女に声をかけられ、そのうちの一人と恋に落ちた。 
 「やった、やったぞ・・ついに喪脱出だーーーーーー!!!」 
 イケメンになったことで全ての物事がうまく動き始めた。一つのことを除いては。 
 
 「そういや最近、彼女や連れとのつきあいで2chやる暇無かったな。久々に開いてみるか。」 
 「まずは喪板・・喪板・・あれ・・・無い・・・・おかしい」 
 「毒男・・たい・・・孤独・・・やっぱり。閉鎖・・・?」 
 「違う・・俺に喪板に入る権利が無くなったからだ・・・・・・・・。」 
 「まぁいいや今の生活に満・・足・・・して・・るし。」 
 
 喪雑の177氏うまくいったのかな、84年スレのみんな元気かな、新年明けても喪板しかいるとこねぇよ 
 って愚痴りたいな、・・「あれ、目から汗が・・・。」 
 
 「頼む!サンタさん!!ブサメン薬を下さい!!!俺が間違ってたよ。」 
 「俺には喪板が必要なんだーーーーーーーーーーーー!!!!」 
 
 
 『喪から脱出することはできても戻ることはできません』 
 良い子のみんなはLRをちゃんと守ろうね(はぁと) 
 
 
 
 喪板広告機構です。 
 
 *カレーにスルー [#tef42a3e]
 
 デブでブサキモの喪男、黒顔 醜太は何をやってもダメなサラリーマン。 
 仕事もろくにできず、同僚の池山 面次に馬鹿にされていた。 
 そんなある日、カレーチェーン店の企画であるカレーの大食い大会があることをしる醜太。 
 早速参加を決意する。しかし当日、周りは大食いしそうには見えない面子、いかにもな巨漢の醜太に向けられる失笑。 
 早くも焦り出す醜太をよそに大会はスタートした。始まるや否やカレーを貪る醜太に容赦ない豚コール。 
 しかし醜太は挫けない、何かを成したい、自分にもできることはあるはずだ、その想いが彼を突き動かした。 
 次々と脱落者が出る中、7杯目に挑む醜太。豚コールはやがて嘲笑ではなく激励の意味を含み始めた。 
 残ったのは醜太と、遥か視界の端に一人。腹は悲鳴を上げているが負けはしない、スプーンを動かす手を止めてなるものか。 
 積み重ねられた皿が15枚に達したとき、醜太のスプーンが止まった。 
 「はぁ、はぁ、くっちゃくっちゃ・・・うっく、ぷぅ、はぁ、はぁ」 
 限界だ。もう一人のスプーンが食器に当たる音は止む様子はない。もうダメかと顔を上げた時・・・ 
 会社の同僚達が目に入った。朦朧とする意識の中、皆が自分に声をかけていてくれる事がわかった。 
 「うおおおおおおおおお!」醜太は吼えた。観衆が歓声で答える。豚は獅子になった。 
 無我夢中で猛然とスプーンを口に運び続ける醜太の腕を誰かが掴み、そのまま上に挙げた。 
 「勝者、エントリーNo25!黒顔 醜太さん!!」彼を讃える声に醜太はポカンとした後、再び吼えた。 
 醜太は会社の仲間に視線を向けた。彼らは舞台に走りより、醜太には目もくれずにステージに残ったもう一人に声をかけた。 
 「惜しかったね、池山君。」 
 醜太は全てを理解し、最後まで自分と争った相手を恨めしそうに見た後、口から黄色い涙を流した。 
 
 
 *妄想交響曲 [#fac0b051]
 
 中世フランスのとある小村に4人の喪男、グロン、キッモス、ブタッチェ、ザーメンという男がいた。 
 彼らは同じ一人の村娘に恋をした。その娘は大変美人で優しく、キモい4人にも平等に接してくれた。 
 彼らはその娘を脳内彼女にし、夜な夜な脳内で辱める日々を送っていた。 
 さて、そんな村にもイギリスとの戦争の影が忍び寄り4人も東西南北それぞれの戦地へと赴くこととなった。 
 4人に待ち受けていた敵はイギリス軍だけではない、同じ部隊のイケ面達だった。 
 大変奇遇なことに4人は別々の戦地で全く同じあだ名で呼ばれた。『童貞』である。 
 そんな状況に4人が耐えかねたのもほぼ同時だった。「童貞だけど彼女くらいいるわ!」 
 この発言は彼らの首を絞める結果となった。イケ面達は面白がって彼らを質問攻めにした。 
 その度に4人は村の娘を脳内彼女として設定された童貞の言い訳、あるいは娘の妄想を語る事となった。 
 「彼女はちょっと男勝りなお姉さんタイプ」「彼女はすごく美人で、例えるなら女神、実際神に逢ってるらしい」 
 「彼女とは付き合ってんだけど処女」「めちゃ信仰深いから結婚するまでヤラせてくれないんだよね!」 
 童貞達の語る嘘彼女の話は瞬く間に部隊内に広がり、やがてそれを聞いた宿の主人から関係ない一般人にも広まった。 
 最初は面白がっていたイケ面達もどんどん加速する童貞のうそ臭い話に次第に腹が腹が立ち始めた。 
 「今時そんな女いるかよ?」「それなんてエロゲ?」「そいつ今度つれて来いよ!」「できねえだと?殺すぞ童貞野郎!」 
 所詮4人のあまりに現実離れした妄想は彼らのあだ名を『嘘吐き童貞』に変える効果しかなかった。 
 その一方で、4人の娘に対する妄想はついに国中を駆け巡り、ついに本人の耳に入ってしまう。しかし心底心の優しい女は実在した。 
 もとより純粋なその娘は、4人の男を嘘吐きにしたくないと思う一心で自分が動くことを決意したのだった。 
 「お前の彼女の名前なんていうんだよ?えw」 
 「ジャ、ジャンヌダルク・・・」 
 4人の妄想は、静かに歴史を動かし始めた。 
 
 *ネット喪カマ [#s06f2d4e]
 
 不細工で童貞な喪一郎は大学三年生。 
 喪らしく無駄な努力を続け、一年の受験勉強の末に不釣合いな大学に進学した。 
 自分と違う華やかな学生たち(いいやつばかり)に囲まれ、皆に合わせようと喪なりに頑張るうちにいつしか躁欝病になり、今はすっかり引き篭もっていた。 
 家でPCをだらだらと使い続け、死ぬことばかり考えていた。 
 自分の名前で何故か女性になりきり、口の悪い女性を演じて時間を過ごしていた。(どうでもよかったが) 
 いわゆるネカマというものだ。HNはモイチ。変な名前のその女性はモテタ。 
 それなりに知識や個性も(多分)あった喪一郎が、女性として言葉を操る。 
 結果自分はミステリアスな女性へとなっていた。 
 彼は、自分が到底知り合えない素敵な男性たちを、不思議な魅力で虜にして時間を過ごしていた。 
 それなりに楽しくもあったが、何も楽しくなかった。 
 
 彼はある日、何気ないチャットサイトで素敵な女性を見つけた。 
 自分とは全く縁のない美しい女性だった。 
 名前は麗美(仮名)とでもしよう。 
 正直一目惚れをした。 
 だが彼もそこでは女性。誰もつかわないような言葉でその人を煽ってみた。 
 それが奇妙な縁を作り、二人は仲良しになった。 
 一ヶ月、二ヶ月と経つうちに、二人は毎日ネットで話をするようになった。 
 麗美とモイチは奇妙な親友になっていた。 
 仮想の自分モイチ(女性)の相談をしたり、彼女の相談を真摯に聞いてあげる日々が続いた。 
 喪一郎は、彼女を唯一の友達と思えるようになった。 
 彼は引き篭もることから脱出した。麗美のおかげだろう。 
 もはや恋愛感情など無く、けれど麗美を恩人・友人として大切に思っていた。 
 
 そんなある日、麗美がモイチに言ったのだった。 
 「私、モイチが好きなの。女の子同士だけど、どうしても好き。」 
 喪一郎は、友人として麗美にすまないと思い、自分が不細工な男性であることをついに告げた。 
 しかし麗美は奇特な女性だった。 
 「人間としてモイチが好きなんだよ!むしろ男の子で嬉しい!!私がモイチ好きになっても良いんだもんね!!」 
 
 麗美は執拗に喪一郎に会いたがった。はっきり交際して欲しいと言っている。 
 以前の喪一郎が妄想しそうな状況ですらあった。 
 喪一郎は麗美のために会うことにした。二人は会った。 
 不細工で陰気な喪一郎に、麗美は夢中だった。 
 居酒屋で露骨に好意を見せる麗美に、何故か喪一郎は自分の顔以上に気持ちが悪くなった。 
 しかし時は経ち、酔った麗美を自宅に送ることになってしまった。 
 彼女の自宅に着いた喪一郎に、麗美が抱きついてきて求めた。 
 喪一郎は麗美に平手打ちした。そしてトイレで吐いた。 
 彼は泣く麗美に謝った。 
 「私は女性を恋愛対象として見ることはできないんです。」 
 
 扉を閉め、夜道を歩く。 
 そこにいるのは不細工で童貞のゲイだった。 
 これから待つさらに奇妙で悲惨な生活に、彼は死にたいとはもう思わなかった。 
 単に今、彼は躁なだけだった。 
 童貞の道程は続く。 
 
 
 
 *喪にも(´;゚;ё;゚;)キモーな物語 [#i1e5a8c5]
 
 
 
 
 肝男は、非常に醜い男であった。 
 四肢は奇妙にねじれ、顔はこの世のどんなものよりもおぞましく、 
 皮膚は全体を奇妙な湿疹に覆われ、いつも異臭を放っていた。 
 彼がどんなに努力をして、表情を工夫し、服装を工夫し、肌を治そうとしても、 
 全く効果は無かった。 
 街を歩けば、通行人は皆大きく彼を迂回しつつも背後から彼を指差し陰口を言い、 
 彼が地の底を這いずるような声を上げるたび、女性は悲鳴を上げた。 
 彼は滅多に外に出なかったし、用があっても外出するのは陽が没しきってからであったが、 
 彼を見かけた人間は必ず顔を歪め、足早に……ほとんど走って逃げていく。 
 
 こんな捨て台詞を残して……。 
 
 「キモイ」「何あれ?」「目の毒だから死ね」「何で生きてるの?」「特殊メイク…だよ…な?」 
 「あれで人間かよ」「こんなのが近くに住んでたんだ…」「動物園に帰れよ」「こっちに来ないで!」 
 
 
 「化け物」 
 
 
 そんな侮蔑の言葉はいつものことだった。 
 だが、そんな言葉をいくら吐きかけられても、心がそれに慣れることはなく、 
 肝男の精神の闇を深くするばかりだった。 
 そして、精神的な醜さはさらに肝男の顔つきを醜悪にしていく。 
 
 何もしていないのに警官に取り押さえられたことも何度と無くあった。 
 信じられないことに、彼を見かけただけで通報する者が何人もいたのだ。 
 警官たちに正義は無かった。 
 警官は彼を見るとまず一般人と同じような反応を示し、 
 しかし逃げることなく、「正義感」に燃えて彼に詰め寄った。 
 重大な犯罪者、極悪人、あるいはモンスターを相手にするように彼を扱い、 
 必要も無いのに脅し、理由も無いのに痛めつけた。 
 そして、肝男はいくつもの冤罪を背負った。 
 
 ある時、肝男はまたしても見に覚えの無い罪で尋問を受けていた。 
 警官がにやつきながら肝男に話しかけてくる。 
 「すごい数の前科持ちらしいね、君。これ以上生きてても意味ないんじゃない?」 
 いつもなら軽く受け流す台詞……だが、そのとき肝男の中で全てが限界に達した。 
 「ぶるおおおおおおおおおお!!!!」 
 警官の首を思い切り締め上げる肝男。 
 ……肝男が初めて本当に犯した罪は殺人になった。 
 
 マスコミは、彼の顔と罪を大々的に報道し、断罪した。 
 彼のもとには、一日に数百もの嫌がらせの手紙や電話が舞い込んだ。 
 ほとんどは彼の死刑を要求するものだった。 
 彼に味方するものはもちろん居なかった。 
 彼の家族や弁護士でさえ、彼を避けた。 
 いつしか、彼は自分の存在そのものが罪だったことを悟った。 
 
 
 
 短くない実刑が言い渡された。 
 意外なことに、刑務所には肝男の居場所があった。 
 ほとんどの囚人がストレス解消のために肝男のもとを訪れたのだ。 
 彼らは直接殴るような真似はしなかった。肝男に触れるものはいない。 
 例えば、便器掃除はいつも彼の役割だった。彼の手がブラシ、舌が雑巾がわりだ。 
 命令に従わなければ、彼は寝ることを許されなかった。 
 食事のときは食器を投げられ、休み時間に庭に出ればボールをぶつけられた。 
 刑務官は見て見ぬ振りか、面白がって参加した。 
 
 ただ一人、肝男に時折話しかけてくる者がいた。 
 初老のその男は、人間を殺して調理し、食べたという噂だった。 
 皆がその男を恐れていたが、肝男にとって、 
 自分を全く恐れず蔑まない人間というのは初めてだった。 
 嬉しかった。肝男は、初めて人に対して信頼を覚えた。 
 ある日、肝男は彼にこう問いかけた。 
 
 「何故、私に話しかけてくれるんです?」 
 
 「君は興味深い。君は、自分が誰よりも重い罪を背負っていると感じている。 
  だが実際には、君のやったことは誰もが起こしうることだった。 
  君はむしろ、これまでずっと被害者だった。そうだろう」 
 
 何故この男がそれを知っているのか、肝男には検討もつかなかった。 
 しかし、自分にも理解者がいたことを知り……肝男は生まれて初めて涙を流した。 
 
 「君はいくら蔑まれて虐げられても、これまで涙を流そうとはしなかったね。 
  最後まで、人を傷付けようとも、自殺をしようとさえしなかった。 
  君は非常に強い意志を持っている。その意思もだいぶ傷だらけだが……。 
  ……君になら、あれを託せる……」 
 
 それからは、初老の男が他の囚人ににらみを利かせることで、 
 いじめは段々無くなっていった。 
 
 長い月日が流れて、ついに肝男が出所する日がやってきた。 
 彼の唯一の友達、初老の男は病死していた。 
 刑務所の門をくぐりながら、肝男は、 
 いつの日か初老の男から託された言葉を思い出していた。 
 ……にわかには信じがたい話だが、友人が嘘つきだったとは考えたくない。 
 
 2日かけて、初老の男が生まれた集落に辿りついた。 
 彼が教えてくれた場所。何度も教えられて、しかし紙に記すことは許されなかった場所。覚えていた。 
 そこは、異様な雰囲気の村であった。 
 まず、日本とは思えないほど全てが荒廃していた。 
 村人は全員、彼のことを見ようともせず、常に半開きの目を虚空に向けている。 
 廃屋の陰からたくさんの何かに見られているような気がする。 
 肝男は生まれて初めて自分以外のものに恐怖を覚えていた。 
 初老の男の生家と思しき場所に着いたのは日暮れであった。そこは特に荒廃がひどかった。 
 この集落に満ちている異様な感覚が全てその廃屋から発せられていることに気付き、肝男はぞっとした。 
 それでも、勇気を振り絞って中に入る……本棚の奥の隠し金庫。錠の番号も覚えている。 
 肝男は急いで金庫を開け、中に入っていた小箱を取るなり、一目散に集落から逃げ出した。 
 
 帰りのバスの中で、その極めて美しい装飾の黒い小箱を眺めて肝男は考えていた。 
 小箱には、ごく軽い留め具がついているだけで、簡単に開けられそうだ。 
 本当に……こんな物が……? 
 友人の言葉が思い出される。 
 
 
 「……… 
  ……… 
  そこに入っている小箱が、パンドラの匣だ。それを開けるかどうかはお前しだい。 
  ……もし開ければ、それを開けた者が真に望む未来が必ずやってくるだろう。 
  開けるかどうか……注意して決めろ」 
 
 自分が望む未来……自分は何を望んでいるのだろう? 
 いつも、逃げ回ったり取り繕うことばかりで、自分の希望なんて考えたことも無かった。 
 自分が美男……いや、そこまでいかずとも普通の容貌の男になることだろうか? 
 ともに笑いあえる友達? 
 恋人?結婚? 
 ……もしかしたら、いやむしろ、当然の願いとして、人類の滅亡……? 
 小箱を持つ手がどうしようもなく震えてきた。 
 バスから降りて、深夜の駅に入る。 
 目の前を通り過ぎたカップルの男の方が振り向いて、呟いた。 
 
 「今のヤツ見たかよ?あの警官ごろしのクズだぜ?」 
 
 
 一つため息をついて、肝男は運命を決めた。 
 ……開けよう。 
 今より悪くなることは無いんだ。 
 決意を込めた足取りで列車に乗り込む。 
 座席に着いて、肝男は深呼吸を何回も繰り返した。 
 
 「もう、何がどうなったって知らないからな」 
 
 窓枠の上に置いた小箱の留め具をそっと手で外す。 
 カチリ、と小気味良い音をたてて蓋が自由になった。 
 震える手で蓋を押し上げ、隙間から中をのぞく。 
 そして、中が見えると思った次の瞬間、肝男の目の前で箱は消え失せた。 
 
 「……あ、あはははは……!!」 
 
 自分の体を見たが、何も変わってはいない。 
 やはり、あの友人の悪い冗談だったのだ。 
 今のは、手品か何かあらかじめ仕組まれていたのだろう。 
 だが、本当にたちの悪い冗談だ。段々腹が立ってきた。 
 
 
 
 ……その時だった。 
 
 
 
 「ぎょおおおおおおおおおお!!!!!」 
 「うばああああああああああ!!!!!」 
 
 車内のあちこちから、人間のものとは思えないすさまじい悲鳴が発せられた。 
 肝男は、はっとしてあたりを見回す。 
 そこには、肝男でさえ目を背けたくなるような光景が広がっていた。 
 
 ……今まで人間だった者たちが、「ほとんど本物の」化け物になっていた。 
 肝男など比ではない。 
 心臓が体外にはみ出している者。足が増えて腕が減っている者。関節が全く無い者。 
 五体満足なのは、肝男だけだった。 
 いずれも、肌が溶け崩れ、急速に人間の形を失って別の物体になってゆく。 
 だが、思考はまだ人間のものであるらしい。 
 発音は不明瞭だが、声を発するものもいた。 
 
 「助けてくれ…」「何で…何で…何で…」「地獄が…俺が何をしたって…」 
 
 「き、君達…何なんだ一体…!?」 
 そう言う元紳士は、姿かたちはまだ人間だが、皮膚が透明になって内臓が見えていた。 
 
 唐突に急ブレーキがかかり、列車が止まった。 
 肝男はたたらを踏んで、壁に激突した。 
 ……少し目が回ったが、頭を振り、車内を見渡す。 
 おそらく、運転手が最後の職務を果たしてブレーキをかけたのだろう。 
 非常レバーで車外に出る……もう、一刻もここに居たくなかった。 
 とりあえず、近くの街に向かう。 
 
 街に入る頃には朝だった。 
 やはり、箱の効果は街にも波及していた。 
 街に入る前から、いくつもの車が事故を起こして炎上しているのが見えていた。 
 車の中は確認するまでも無かった。 
 近くのラーメン屋に入る。 
 ……満席だった。冷めたラーメンが席と同じ数だけ置かれている。 
 だが、席の上に座っていた者たちは、皆床を這いずっている。 
 テレビが点いていた。 
 肝男が刑務所に入る前から放送していた人気生放送番組がやっている。 
 クイズコーナーの途中だったのか、タレントたちの名前を書いた札が、 
 一人ずつあてがわれた席に立っていた。 
 8.5頭身が売りだった人気俳優の席には、2頭身ぐらいの物が鎮座していた。 
 ……チャンネルを変えたが、すべての番組がまともに機能していなかった。 
 
 世界全体…か…。 
 
 
 外に出て、肝男は朝の清清しい空気を味わった。 
 ……さて、どうしようか? 
 時間はたっぷりあるのだった。彼だけの時間だ。彼だけの世界。 
 どこにでも堂々と歩いてゆける。 
 急に笑いがこみ上げてきた。 
 
 「く、くくく……くははははは……あーっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」 
 
 激しく笑いながらも、肝男の背筋には滝のような冷たい汗が滴っていた。 
 友よ。私は、被害者などでは無かったよ。 
 そして、私は醜い人間だった。 
 
 いつの間にか、化け物たちが音も無く肝男を取り囲んでいた。 
 そして、何かを叫び始めた。 
 皆が肝男を糾弾しているようにも、慈悲を請うているようにも聞こえた。 
 先ほどから、肝男は強い眠気を感じていた。 
 アルファルトの道路に倒れこみ、死ぬように眠りについた。 
 
 
 
 
 
 目を覚ますと、辺りは夜で、彼は列車の中に居た。 
 乗客は、全員普通の人間に見える。 
 窓ガラスに映る自分を見ても、相変わらずのひどい顔だ。 
 ……わけが分からない。 
 肝男の掌の上で、例の箱が真っ黒な内側を見せていた。 
 
 ……夢、か? 
 ……この箱は夢を見せるものだったのか……。 
 
 がっくりすると同時に、肝男は心底ほっとしてもいた。 
 本当に安心した。自分がほっとしたことに安心したのだ。 
 私は、まだちゃんと人間の心を持っていた。 
 何故か、心が軽くなったような気もする。 
 今の酩酊感が覚めれば、どっと絶望がやってくるのかもしれない。 
 でも、本当に絶望したときにはこの箱を開こう。 
 今ある世界が多少は良く感じられるだろう。 
 そう思って、肝男は箱を閉じた。 
 すると、軋む音とともに、蓋が外れて床に落ちてしまった。 
 肝男は青ざめて蓋を拾おうとした。 
 
 しかし、次の瞬間、いつの間にか隣に座っていた若い綺麗な女性が蓋を拾い上げていた。 
 そして、にこりと微笑みながら肝男に蓋を手渡し、聞いた。 
 
 「きれいな箱ですね。どこで買ったんですか?」 
 
 
 
 終わり 
 
 *選択肢 [#gf6f022b]
 
 喪は今日も部屋に帰ってくるとエロゲーに没頭していた。 
 そしてエロゲーの主人公達を病的にうらやましがり続けていた。 
 それにはきちんと理由があり、喪自身の環境も非常に恵まれているからなのだ。 
 幼馴染はいるし委員長はいるし剣道娘はいるし義理の妹までいる。 
 だけど喪は行動力が無いため彼女達に話しかける事すらままならない。 
 そんなある日、喪はエロゲをやってる途中PCが爆発したかと思うような閃光を目に受けてしまう。 
 すぐさま病院に連れて行かれる喪。原因は不明だがすぐ見えるようになると診断を受けて帰宅をする。 
 次の日、病院で付けられた包帯を取ってみると彼の目の前に選択肢が現れた。 
 
 「起き上がる」 
 「起き上がらない」 
 
 目線を動かすとカーソルが動く。喪は起き上がるを選んだ。 
 部屋を出ると義妹がいた。 
 
 「挨拶をする」 
 「抱きしめる」 
 
 当然上を選ぶと、なにやら綺麗な効果音が鳴った。 
 すると、義妹が久しぶりに喪に笑顔を見せてくれたではないか! 
 そうか。もしかしたらこれは自分を幸せにしてくれる選択肢なのかもしれない。 
 喪は一人で盛り上がり、元気に学校へ向かった。 
 
 
 そうすると選択肢がたくさん出てくる。 
 意中の娘との間ではまるでゲームかと思うように会話が発生し、 
 その度に喪は彼女達の喪に対する好感度を上げていった。 
 だじきに選択肢を選ぶのが難しくなっていった。これもエロゲーと同じだ。 
 間違った選択肢を選んでしまって、彼女を逃す喪。 
 だが、喪はまだまだ女なんて星の数ほどいると思い直して次の人の尻を追う。 
 
 それでもクラスの女性はほとんど失敗してしまう。 
 しょうがないので喪は相手を義妹にする事にした。義妹も十二分にかわいいじゃないか。 
 選択肢をどんどん選んでいき、義妹の好感度を上げる喪。 
 逃すわけにはいかないとどんどん行動はエスカレートし、家庭内ストーカーと化していた。 
 しかし義妹の喪に対する好感度は右肩上がりで上昇していく。 
 
 ある日、いつものように下校途中に義妹をストーキングしていると男子生徒が目についた。 
 木陰から義妹を見つめており、時折話しかけようとしているがどうにも出来ていないようだ。 
 自分の義妹を奪おうとしている奴がいる。喪は全力でそいつを排除しにかかった。 
 姿を見る度脅迫めいた行為におよび、義妹にもそいつに近づかないように仕向ける。 
 もうほとんど自分に靡きつつあった義妹は素直に従い、そいつには近づかなかった。 
 傾向が読め始めた選択肢を間違える事ももうなかった。 
 
 そいつに関する情報集めををしていると、喪は少しずつ回りがどんな噂をしているのかが聞こえてきた。 
 そいつは周りから好評価しか受けておらず、反面自分はエロゲーに嵌っていた以前より評価が落ちていた。 
 自分のストーカー地味た行動にようやく気付く喪。気遣う義妹を振り切って部屋に入る。 
 夕食のために部屋から出て戻る所で義妹が話しかけてきた。 
 
 「お兄ちゃん。今度の日曜日に○○君に遊園地に行こうって言われたんだけど…… どうしよう」 
 
 「行った方がいいだろう」 
 「行かない方がいいだろう」 
 
 選択肢が現れた。正解は分かっている。たぶん下なのだろう。 
 だけど喪はすぐに答える事が出来なかった。 
 
 義妹はいつからこんなに自分に依存するようになってしまったんだろうか? 
 自分はこの力を手に入れてからの数ヶ月一体何をしていたんだろうか? 
 義妹の事が好きなあいつが一体自分に何をしたっていうんだろうか? 
 
 様々な気持ちが自分の中で混ぜこぜになりはじめ、目頭が熱くなってなぜか涙が出てきた。 
 心配そうに自分を見上げる義妹の目を見つめながら、喪ははっきりと答えた。 
 
 「行った方がいいと思うよ」 
 
 
 次の日に目が覚めると、もう選択肢は出てこなかった。 
 一ヶ月も立つと、義妹はあいつと付き合いを始め嬉々としてあれをしたこれをしたと報告してくる。 
 あの力を手に入れて得た物は仲のいい妹が出来た事と自分を振り返る事が出来るようになった事だろうか。 
 そして、この世には無数の「選択肢」がある事も今の喪は気付いていた。 
 
 力を手に入れてからの生活を振り返ってみて、喪はとりあえず普通の高校生活を取り戻すことにした。 
 今までの自分だったら今のように寝坊したら確実にずる休みをしていただろう。 
 だが、今の喪は学校に遅れないようにと走る足をより速めるのだ。 
 直角に交わった交差点の向こう、自分と同じように初日の学校へ遅れないよう急ぐ転校生にも気付かずに。 
 彼らが偶然ぶつかるまで後、十数秒。 
 
 終わり。 
 
 *ミッシングリンク [#j8b916d2]
 ん、何だ? 
 真っ暗だな、・・・今何時だろう 
 まず、意識的に目を開く 
 んん?目が開かない、どころか身体が動かない 
 こんなにも意識がはっきりしているのに 
 夢・・・か?わからない、動いてるのは思考だけだった 
 ああ、ひどく眠い・・・ 
 
 
 気づいたら、昼になっていて、俺は家の近くの喫茶店にいた 
 「え?夢?」 
 呟く、しかし 
 俺はいつの間に喫茶店なんかに入ったんだ? 
 昨日の深夜に寝たときと、今この瞬間の記憶が一致しない 
 目の前には、空になったコーヒーカップだけがあり、俺はその味を覚えていなかった 
 
 *乗車券 [#tcb93f85]
 
 喪男は電車が嫌いだった。いつでも電車に乗れば非難と嘲笑の嵐。 
 そんな電車が喪男は嫌いだった。 
 痴漢に間違われたことなど幾度もある。しかし、喪男は電車に乗るようになってから一度たりとも痴漢などしていない。 
 若い女の肌に触れたことなど一度もない。 
 喪男は電車が嫌いだった。 
 しかし、喪男も社会人、電車を利用しなければ会社にだって行けない。会社でも嘲笑を受けてはいたが、生きていくためには仕方がなかった。 
 いつでもこの場所から逃げたいと思っていた。死にたいと考えていたわけではない。 
 変わりたかった。今の自分から。いつも非難と嘲笑しか浴びない自分を。賛美をしてもらいたかった。 
 ある日、会社での業務を終えいつも通り電車に乗るために切符を買った。 
 定期券を持ってはいたが、期限が切れてしまっていた。明日に更新しなければならないと思いつつ、切符を買った。 
 しかし、喪男が買った切符はどこかおかしい。切符には買った駅名と金額が書かれている普通の切符だが、切符は赤い色をしていた。 すこし奇妙な感じを受けたが喪男はそれを改札に入れてホームに向かった。 
 すぐに異変に気が付いた。誰もいない、のだ。 
 先程までの喧騒が嘘のように構内は静まり返っている。 
 生唾を飲みいつものホームに足を進める。無人の構内を。 
 誰もいないが、電車は動いているようだった。時間を空けて電車の動く音がする。喪男は腕時計に目を向けた。時計の針は23時を示していた。 
 どうやら人がいなくなったのは時間が遅いからだと喪男は理解した。 
 さっきまで9時を指していたはずだが、疲れ切った喪男にはその事実を無視していた。 
 ホームで電車に乗り込む。 
 
 *28歳独身 [#u3a34070]
 
 会社が終わるとちょうど8時。スーパーの食品が安くなる時間帯。 
 喪男は会社の帰りにスーパーへと向かう。 
 住んでいるアパートには冷蔵庫がない。買った食品はその日に食べる。 
 会社のない休みの日はカップラーメンで過ごす。 
 こんな喪男の物語。 
 
 ある日の会社の帰り、喪男はいつも通りスーパーへと向かった。 
 最初にカゴに入れたのは1/4サイズの白菜。 
 次は一番安い肉。そして豆腐。 
 突然すき焼きが食べたくなったのだ。 
 
 レジにくると、いつも以上に人がいる。 
 この時間帯ならほとんど人はいないはずなのに。 
 仕方なく、並んでいる人が少ないレジに並ぶ。 
 レジの横には、ガムや電池などが陳列されている。 
 いつもなら気にもとめない喪男だったが、 
 前のおばちゃんの会計に時間がかかるようなので、 
 何があるのだろうと眺めていた。 
 ふと怪しい名前の商品が目に入った。 
 
 「ドクオもイチコロ!殺チュウ妻団子」 
 
 ネズミ退治の商品でもゴキブリ退治の商品でもない、見るからに怪しい名前だ。 
 パッケージを手に取り、裏面を読んでみる。 
 
 「※本製品は独身男性特有の孤独を解消することを目的としたものです。 
 本目的以外で使用された場合、いかなる損害に対しても弊社は責任を負いません。 
 
 通常版 \400 
 着衣版 \500 
 」 
 
 大人のおもちゃ?しかし、電池やらお菓子と一緒の棚に置いてあるのはあきらかにおかしい。 
 一度気になると嫌でも目が行ってしまう。孤独を解消とは何だろう?気になってしょうがない。 
 仕方なく安い方をカゴに入れると、ちょうど前のおばちゃんの会計が終わっていた。 
 会計は終わり、喪男が家路についた。 
 
 家に帰ると、いつもより買い物に時間がかかったせいか異様に腹が減っていた。 
 すぐさま料理にとりかかろうと、買ったものをキッチンに持っていった。 
 ガサガサと音がしたかと思うと 
 「ご主人様、私がお作りしましょうか?」 
 いきなり声をかけられおどろいて振り向くと、そこには裸の女が立っていた。 
 体はまさに理想の体形だった。不覚にも一瞬で勃起してしまった。 
 が、長年の独身生活で培った意味不明な理性が先走り、バスタオルで体を隠させてしまった。 
 「私通常版の製品ですので、お洋服はありませんのよ。ごめんなさい」 
 突然現れた裸の女のせいでわけがわからなくなったが、女の説明で全てを把握した。 
 
 つまり、「ドクオもイチコロ!殺チュウ妻団子」は、やたら性能のいいダッチワイフみたいな物だった。 
 本物の人間と見分けがつかないくらい精巧で、そのくせ値段は千円しない。 
 なにかがおかしいと思って説明書を読むと、 
 「本製品の最大の特徴は、お客様のライフスタイルに合わせた妻を再現する事です。 
 場違いなメイドや強引すぎる女上司などとはわけがちがいます!」 
 よくわからんが迷惑をかけないらしい。確かにおとなしくて言うことは聞きそうだ。 
 しかしこれは安いことの説明にはなっていない。 
 「あの、ごはんはいかがなされますか?私がお作りしましょうか?」 
 せっかくだから頼んでみることにした。 
 
 確かに誰かがいると孤独は感じない。 
 しかも綺麗な女、孤独を解消するなんていったらあんなこともこんなことも・・・ 
 などと妄想していると 
 「ご主人様、私、性欲の解消はできませんのよ」 
 いきなり聞こえてきた声に自分の妄想を根本から否定された。 
 心が読まれていることにも驚いたが、一番の楽しみが叶わないことに非常に落胆した。 
 『寂しさを解消します!!』が売り文句って設定で続きを書いてみた 
 
 だが、それでもいい。それほどに男は人との関わりに餓えていた。 
 女は手早くすき焼きを作る。一人ではない食事は最高の食事だった。 
 それから、男は女と共に新居へと引っ越し、幸せの日々を過ごす。 
 ――――10年後。 
 男と女の仲はすっかりと冷え切っていた。 
 全てにおいて気に食わない。何かするたび、何か言うたび憎しみが積もる。 
 そして、ついに今までにないほどの大喧嘩がおこってしまう。 
 「あんたなんか私にしか相手にされない癖に!!」 
 その言葉で頭が真っ白になる。 
 気がつくと、首を締められ息絶えた女が転がっていた。後悔の念が押し寄せる。 
 ああ、くそ…この女のせいで人生台なしだ。こんなことなら独りがよかった 
 死体の処理に困っていると、突然周りの景色が変化していく。 
 あっという間に周りは最初のアパートになっていた。 
 身体も若返っている。 
 ああ、なるほど……独りを望むのなら寂しは感じない。そんな解消もありか…… 
 机をみる。 
 そこには、すき焼きの材料の入ったビニール袋が置かれていた。 
 
 
 
 *蹴られた背中 [#w902ebe5]
 
 僕たち三人はいつも一緒だった。 
 怒られるときも、褒められるときも 
 まあ、怒られる原因は大体広美ちゃんのいたずらだったけど、それでも楽しかった 
 僕と、和也と、広美ちゃん 
 いつも一緒だった、・・・一緒だったんだ 
 
 3年前、広美ちゃんは事故にあった。 
 線路に投げ出されて、電車にはねられたらしい 
 身体もバラバラになったそうだ 
 広美ちゃんが死んで以来、僕と和也はつるまなくなった 
 僕たちはいつも一緒だった、誰かがいなくなるなんて考えもしなかったから耐えられなかった 
 それから、僕と和也は別々の高校に進学した 
 高校生になった僕は3年間使うのを拒否していた、広美ちゃんが死んだ駅を使わなければいけなくなった 
 
 今日は入学式だ 
 僕はチャリを飛ばして、駅に向かった 
 久しぶりにみた駅は随分と綺麗になっていた 
 僕にはそれが、広美ちゃんを隠してるかのように見えて腹が立った 
 いらつきながらも駅に入る僕 
 あと5分で到着らしい 
 「えっと、一番乗り場、ね」 
 ゆっくり歩いて一番ホームに向かう 
 「あれ?ここって・・・」 
 ここは広美ちゃんが死んだ場所だ 
 「一番乗り場〜、一番乗り場に列車が到着しま〜す」 
 吐き気がして背中を丸めたその瞬間 
 僕 は 誰 か に 背 中 を 蹴 ら れ た 
 
 僕はすぐに理解した 
 相変わらず広美ちゃんはいたずらっ子だなあ・・・ 
 もう、目の前には、列車が 
 三日後、朝、8:16分 
 男子高校生の高遠和也さんが〇〇駅の一番ホームに飛び込んだ 
 三日前にも事故が起きており・・・(略 
 親御さんに話を聞いてみたところ、前日からおかしな事を呟いてたという 
 内容は、 
 「ちぇっ、俺だけ仲間外れかよ。ずりーなあ」 
 
 *緊急徴兵 [#gad8c77b]
 
 朝、喪男はいつものように新聞を取りに行く 
 いつもは新聞だけのはずのポストに小さな封筒が入っている 
 封筒は装飾も絵もなく 
 唯あて先と差出人がプリントされたシールが貼ってあるだけだった 
 差出人は「防衛庁 長官 ××××」 
 「流石に防衛庁は無いだろう、たちの悪い悪戯だ」 
 そう思いながらも封を切る 
 中から出てきた赤い紙には、 
 「緊急召集礼状」と記入され 
 喪男の名前から部隊名、配属日 
 裏面には病気等により出頭できない場合の連絡先など、 
 異常に詳しく記述されていた。 
 「手の込んだ悪戯か?そうじゃなければ・・・・」考えが頭をよぎる 
 しかし、新聞の一面を見た時、 
 喪男の背筋は凍りついた 
 
 「緊 急 招 集」 
 
 
 「日本政府は××日、憲法第9条の改正に伴い 
  不特定多数の男性を徴兵することが決定した〜」 
 馬鹿な、そんな話があるか、この日本で。 
 喪男はすぐに家に戻り、テレビをつける 
 どのチャンネルも臨時のニュースで、 
 突然の徴兵についてを報道していた。 
 喪男は事実確認に躍起になる 
 2ちゃんねる中のどの板でもこの話題のスレッドが立ち、 
 異常な速さで伸びている。 
 しばらく参加していた喪男だったが、 
 ふっと妙な違和感を感じ、再び新聞を見る 
 次にニュースをもう一度見て、それは確信になった。 
 
 これだけ異常な事態なのに、新聞とニュースには 
 反対意見、疑問の声など何一つ紹介されていないのだ 
 もはや分けが分からない 
 あまりに突然の徴兵、 
 戦争?相手は?何故? 
 ニュースや新聞の記事の淡々とした語りと 
 2ちゃんねるの人々の混乱の声のギャップが 
 喪男の恐怖を駆り立てた。 
 「これは事実だ、そうとしか思えない」 
 それを思い知らされた喪男は、今一度赤い紙を確認する。 
 「招集日は・・・・・今日の夜!?」 
 さらに、詳しい条項を読む 
 
 ・これは徴兵令であり、徴兵されたには 
  出向する義務が生じるものとする。 
  伝染病等、明確な理由がない場合の出向拒否は 
  憲法に反するものとして 
  懲役、もしくは500万以下の罰金が発生するものとす。 
 
 徴兵、懲役、罰金 
 自分とはまったく無関係だった言葉が 
 喪男に圧し掛かってくる。 
 「(スっぽかすか・・・・?俺一人位行かなくてもどうとでも・・・)」 
 「(でも懲役・・・、そうでなくても500万なんて払えるか・・・?)」 
 悶々と自問自答しながら、 
 回答を求め、メディアを睨み続ける。 
 ニュースの言っていることは変わらない、 
 相変わらず「徴兵が決定しました」と事実のみを述べ、 
 具体的な事には一切触れていない。 
 それどころか他の一部のチャンネルでは 
 臨時ニュースを止め、通常の番組を放送している。 
 しかし2ちゃんねるは益々混沌としている、 
 赤紙は来たか?来たなら行くのか? 
 「お前等行って鍛えなおして貰って来い」などの客観的な煽りから 
 「行く訳ねーよw行かなくても関係ねーだろww」と開き直った者まで。 
 
 何時間見つめても、喪男は意思を固められない、 
 食事もしないまま、仕事にも行かず 
 時間だけが無駄に消費されていく・・・・ 
 喪男は元々優柔不断な性格だった 
 当たり障りなく、平凡にモテない日々を送ってきた 
 暴力や重大な決断、あるいは反抗 
 そんなものから無縁の生活を送ってきた喪男、 
 生きている実感のなかった彼には 
 今の状況は酷く非現実的に思えた 
 そんな中で、2ちゃんねるにて彼にレスが付く 
 
 ××× 名前:('A`)[] 投稿日:2006/05/07(日) 17:39:49 0 
 >>××× 
 どうせ行っても大したことはしないよ 
 今の日本が戦争なんてするわけ無いだろw 
 
 喪男の心は傾く、元々徴兵拒否など 
 大それたことの出来る器ではないのだが、 
 一度傾いた心を整理している時間も無かった 
 指定された場所はそこそこ遠い 
 今から車で急がねば間に合わないだろう 
 
 喪男は出発した、指定された軍事基地に 
 
 車で急ぎ、喪男は到着した 
 すでにかなりの人数が到着しているらしく 
 特設された駐車場には普通車が何台も止まっている。 
 車を降り、駆け足で看板の案内通りに進むと 
 他の到着していた人たちが見えてくる 
 どうやら倉庫のようなところに集められているようだ。 
 
 到着後、用意されたいすに座り、 
 しばらく押し黙っていた喪男だが 
 一息ついて周りの人々を見回すと、妙な違和感が 
 年齢層はかなり近いようだが、 
 集まった人々が何処かおかしいのだ 
 人種、とでも言うのか 
 それが妙に偏った者ばかりがそこに居た。 
 如何にも「ギャングです」と言いたげな格好をした、所謂DQNな者。 
 色白で痩せこけ、仕事していないだろうなぁと思える顔をした者。 
 
 徴兵と銘打って集めたにもかかわらず、 
 普通に考える軍隊とは似ても似つかない人々が集まっている。 
 喪男はこの異常な空気に、嫌な予感を感じていた。 
 嫌な空気をひしひしと感じながらも、 
 喪男は黙って待ち続けた。 
 集合時間が近づいているにも関わらず 
 倉庫の中の人には呼ばれてきたであろう人々しか居ない。 
 集まった人数も、喪男の予想より遥かに少ない。 
 「(スっぽかした人が何人もいるのか? 
  でもDQNが来ているのに、普通の人が・・・)」 
 
 集合時間になると同時に、 
 倉庫内にアナウンスが鳴り響く 
 「これより空路による移動となります、 
  倉庫入り口に、一列に並んでお待ちください」 
 
 静かだった部屋がざわざわ・・・・とざわめき始める。 
 移動の指示が出されたにも関わらず、 
 未だに関係者らしき人物は一人も現れない。 
 集まった人達も、最初はどよめいては居たが 
 入り口に近かったもの順にどんどん並んでいく、 
 喪男もそれに習い、最後尾に並ぶ。 
 全員が並んだ頃、外から轟音が響く。 
 
 どうやらヘリコプターが来たようだった。 
 大型の軍用輸送ヘリが滑走路に着陸すると、 
 集まった人間たちは早々に詰め込まれることとなった。 
 だが指示する物は軍用ヘリとは不釣合いな白衣の男たち。それもごく数名だ。 
 
 周囲からは事情の説明を求める声が上がったが、 
 白衣の男たちは彼らを二本足の家畜程度にしか考えていないのだろうか。 
 剣呑な雰囲気を撒き散らし、スタンガンをちらつかせる。 
 
 まだ20そこそこの血気盛んな男が力に任せて白衣の一人につかみかかったが、 
 手早く「処理」され、ヘリへと運び込まれていった。 
 大多数の人間はその光景を目にすると声を潜め、従順に白衣に従った。 
 
 「あーあ、馬鹿だねぇ」 
 
 無機質なヘリの床に腰を下ろした喪男の後ろで甲高い声がつぶやいた。 
 色白の蚊トンボのような男だった。 
 喪男は蚊トンボに目を合わせるわけでもなく、つと振り返った。 
 こんな無茶な召集では憤る者がでても仕方が無いとは思ったが、 
 その甲高い嘲笑は少なからず勘に触るものがあったのだ。 
 
 「文句吐く前にこんなイベントに来なきゃいぃいのに」 
 
 クチックチッ 
 
 爪を噛む音が聞こえる。 
 
 「そうだよ、こんなイベントこなきゃいいいぃぃぃいいんだ。 
 大体なんで俺まで招集されなきゃならないいいいいいぃぃぃんだ。 
 抗体を持っているたってこんな鬼ごっこ、役に立たないニートや自殺希望者がやればいぃぃぃいんだ。 
 俺みたいな高位血統の人間が呼ばれるなんて。 
 大野のヤツ早く俺を助けろよ。お父さんに言ぃぃぃぃって防衛庁から叩き出してやる。」 
 
 抗体?鬼ごっこ?大野?防衛庁? 
 喪男の頭の中でキーワードが生まれ、そして何一つ連結することなく飛び跳ねる。 
 だがそれより不思議だったのは単純にこの蚊トンボの様な男が 何か を知っているということだった。 
 
 明らかに話しかけたくは無い人種であることは明白だったが、 
 それでも拭えぬ不安が喪男を動かした。 
 
 「あの…」 
 
 ヘリのエンジンがけたたましく叫び期待が震え始めた。 
 急速に回転数をあげるプロペラの爆音に喪男の声はかき消されていた。 
 
 
 ------------------- 何をしている? 
 
 
 「歩け!」 
 豚鼻将校が我々をせかす。 
 そう、今日は建設現場でイワン共のための道路を作りに行く日だ。 
 戦争で捕虜となって以来、2年間ここで働いている。友人のソーカも一緒だから辛くはない。 
 飯にも満足にありつけないのだから、女など尚更だ。 
 しかしソーカだけは違った。 
 
 ヘリから数人の男が降りてくる、皆如何にも軍人といった風貌で、 
 多少弛緩していた空気は一気に緊張に包まれた。 
 「これよりヘリによる移動を開始する!色々と疑問はあるだろうが、 
  そういったことは現地についてから説明する!分かったか」 
 突然の咆哮、さらに此方に威圧感が掛かる。 
 「問題は無いようなので、まず点呼を取る!×田×児!」 
 「え・・?あ、はい・・・!」 
 さらに突然の点呼、皆大きな声で返事をしなければいけないと察しているのか 
 動揺しながらもサクサク進んだ。 
 「来なかったのは5人か・・上出来だ!では半分ずつに別れ、乗り込むように!」 
 三機来ていたにも関らず、喪男達を乗せるのに使うのは二機だった、 
 他の者に習い、喪男も乗り込む。 
 
 全員が乗り込むのに五分と経たなかった、間髪居れずにヘリは飛び立つ。 
 しかし、このヘリも異常だった 
 まず窓が無い、内部には電灯があり、外の明かりは一切入れていない。 
 そして操縦席と客席との間に完全に仕切りがあり、 
 こちらからでは操縦者を確認することも出来なかった。 
 何処に連れて行かされているのか完全に分からなかった。 
 
 かなりの距離を飛んだはずだ、時間はすでに1時間は経っている。 
 外は見えないが、ヘリが着陸しようとしているのが分かった。 
 
 着いた先は樹海の中の基地のようなところだった。 
 だが基地というには明らかに簡素な造りで、プレハブのような建物が数個あり。 
 その周りに大きなトラックが数台あるだけだった。 
 他の基地からもヘリが来ているようで、すでにかなりの人数が集合していた。 
 喪男たちのヘリで最後だったようで、全員が整列した直後、指示が始まった。 
 
 「これより健康診断を行います、名前を呼ばれた順にあの小屋に入ってください。 
  疑問はあることと思いますが、健康診断が終了次第、全体での説明を行いますのでご了承を。」 
 
 また全く説明も無いままに次の行動に移される、 
 抵抗しようにも周りを完全に軍人らしき人々に固められているので、率先して抵抗しようなどと言う者は居なかった。 
 一人一人の”診断”はすぐに終わった、診断が終わったものは、 
 小屋から出て、指定されたトラックに乗り込でいる様だった。 
 
 診断は滞りなく進み、喪男の順番にも直ぐになった。 
 小屋に入ると、さっさと注射器で血を抜かれ、血を何かの装置に入れ、 
 その結果を見た軍人が、「お前は三番のトラックに入れ」と指示をした。 
 この間5分も無い、小屋を出ようとした所で、 
 軍人から水の入ったコップと薬らしき物を渡され、「今すぐここで飲むように」と指示された。 
 
 完全に嫌な予感はしていた、だがもうどうすることも出来ない。 
 薬を飲み干し、トラックに向かって歩く・・・ 
 
 トラックの荷台に入ったとたん、目が回り、喪男はその場に倒れた 
 倒れる刹那、 
 折り重なって倒れている人達と、彼等を端に揃えている軍人達が見えた。 
 
 鯛男はパチンコに興じていた、鯛男の家にも喪男と同じように赤い紙が届いていた。 
 だが、鯛男は非常に楽天的、それでいて目先の事しか見えない人間だった。 
 「こんな徴兵などに素直に応じる必要など無いだろう、 
  封を閉じて、ポストに戻し、見なかったことにすれば言い訳が付く、 
  家に戻らず、数日遊びまわっていれば説得力もあるってもんだ」 
 小学生か中学生の理論だが、鯛男はこれで大丈夫だと思い込んでいた。 
 
 紙が来た次の日の事だ、 
 今まで事実のみを述べていた新聞、ニュース、週刊誌などのメディアが 
 一斉に徴兵制に対する非反論を展開し始めた。 
 テレビ局はどこも特番を組み、徹底して徴兵制非難をし続けた 
 それから数日に掛けて、世論は政府を非難し続け。 
 未曾有の大混乱が起きた、内閣は総辞職し、徴兵制を撤回。 
 あっという間に徴兵制は消え失せ、元の憲法に完全に戻った。 
 明らかにに異常な撤回、だが混乱もあっという間に収まった。 
 非難し続けていたメディアが今度は一斉にこの事に関する報道を止めたのだ。 
 さらに追い討ちを掛けるかのように、今度は官僚の汚職が大量に発覚、 
 メディアはその報道に躍起になり、人々の興味も逸れて行った 
 
 「なんだ、やっぱり行かなくて正解だったなw」 
 ニュースを見て喜び勇んで家に帰る鯛男、数日分の疲れを癒そうとさっさと床に付いた。 
 鯛男は確認しなかった、ポストの中から赤い紙が無くなっているのを。 
 
 その日、火事が起きた、火元は鯛男の家、ガスの消し忘れによるガス爆発だった。 
 鯛男の家は全焼、隣家に燃え移ったが、幸い救助活動と消火活動はスムーズに行われたため 
 火事の規模の割に犠牲者は一人で済んだ。 
 
 
 徴兵制に撤回に関して、政府の発表は 
 「撤回以前に徴兵は行われず、結局誰も徴兵されてはいない」というものだった。 
 
 この騒動の後、全国で行方不明、事故死などが多発したが 
 汚職報道で忙しいメディアが、取り立てて報道することは無かった。 
 
 半年後、重大な出来事が幾つも起こる。 
 まずは国立の研究機関から、人体に関する発表が相次ぐ。 
 エイズの特効薬、年老いてからの脳細胞活性化用の新薬などの大発見が次々と出る。 
 さらに日本と外交的に問題のあったとある国に、謎の伝染病が発生する、 
 死亡率も非常に高い伝染病であったが、発生後あっという間に日本の研究者により 
 特効薬が作られる、これにより世界的な評価も得て、その国との外交問題は解決する。 
 
 完全に計画通りに事は進んだ、 
 知人友人の少なく、行方不明になっても処理の楽なものを集め。 
 生きた人間を使った人体実験により、日本の人体研究は飛躍的に進んだ。 
 マスコミを使い事実を隠蔽、証拠も完全に消し去り、その報道も行わない。 
 後は適当にスケープゴートを出し、人々の目をそらせば追求もされない。 
 国家主導の計画を、完全に暴ける者などいない筈だった。 
 
 
 だが、喪男が2chで相談した際、残していたものがあった。 
 喪男は自分の下に届いた赤い紙を最低限の黒塗りをしてうpしていた。 
 うpろだからは消えても、保存した者達のHDDに残り、 
 それを掲載した「徴兵についてのまとめサイト」が潰されていく度に、ねらー達は事実を確信していく。 
 そして行方不明者多発した時期と徴兵の日の近さを示唆した突拍子も無いサイトが潰されると 
 彼らは本格的な活動を開始する。そして・・・・・ 
 
 
 *かき集められた勇気 [#cfd0317b]
 
 幼い頃から内向的で、友達が居なかった喪男。人から虐げられるうちに性格がさらに暗くなり、 
 喪板で心の傷を癒す毎日を送っていた。 
 
 仕事の帰り道、道に迷っている女性に出会う。道を教えると、女性はお礼に小さな箱をくれた。 
 家に着いた後に、箱を開けると、中には怪しい機械が入っていた。 
 一緒に手紙が入っていたので読むと 
 「これはあなたを変える機械です。善行を積み、人と話し 
  あなたの脳内に散らばる僅かな勇気をこの機械にかき集めてください。 
  勇気の値が100になったとき、この赤いボタンを押せばあなたは何ものも恐れない人間になるでしょう」 
 
 「にわかには信じられないことだが、こんな自分を変えられるのなら…ためしてみよう」 
 それから喪男は善行を積んだ。公園のゴミ拾いをしていたら職務質問をされた、 
 転んだ老婆に手を差し伸べたら傘で叩かれた、 
 病院内で携帯電話を使用している女子高生を注意したらその彼氏に殴られた、 
 とにかく外見の醜い喪男は善行すらうっとうしがられるのだが、 
 どんどん溜まっていく勇気の値を見れば、どうってことはなかった。 
 
 そして、ついに勇気の値が100になった。 
 喪男がボタンを押すと、周囲は激しい光に包まれ… 
 喪男は何ものも恐れない人間になっていた。 
 
 何ものも恐れない喪男は、対人恐怖などすっかり治り、仕事の同僚にも積極的に話しかけるようになった。 
 数週間後には仲間も出来、楽しい生活を送っていた…が 
 喪男は昔の自分を忘れ、喪板でかつての仲間たちを煽ったり、説得しようとするようになってしまった。 
 「おまえたちは努力がたりないからキモイんだよw」 
 「暗いやつが近くにいるとくせーーんだよw」 
 「まずファッションとか髪型とか変えてみろよ、そしたらモテるからさあw」 
 もちろん、喪男は喪板住民に叩かれて喪板を追い出されることになる。 
 
 そして、ある日仕事の同僚に陰口を言われていることを知ってしまった。 
 「あいつ最近明るくなっちゃったよな」 
 「明るくてもブサイクじゃなあw」 
 「明るいブサイクってマジウザイんだよね」 
 同僚は喪男を仲間として認識していたわけではなかったのだ。 
 突然明るくなった喪男を面白がって構っただけ… 
 
 それに気付いた喪男はかつてないほどのダメージを受けた。 
 何ものをも恐れないといっても、根っこから明るくなったわけではない。 
 浮かれて調子に乗っていただけにすぎなかったのだ。それゆえにダメージがでかかった。 
 
 それからも、喪男は激しいいじめをうけた。 
 そんな喪男がとった、最後の選択は「自殺」 
 以前なら怖くて出来なかっただろうが、勇気を手に入れた今の自分ならできる… 
 喪男は会社の屋上から飛び降りた。 
 
 
 それを遠くから眺めていた女が呟いた 
 「やっぱり、ブサイクはなにをやってもダメなのね」
 
 *喪ラゴンクエスト [#peb63c37]
 
 いくつの町を追われてゆくのだろう?明日に怯える、この道は。 
 行くあてもない。迷い子の方が幾分ましさ。 
 人ごみを避けてく、君は今。 
 目をあわすことさえ、恐れてた昨日に。枯れ果てた涙を探してる。 
 何を信じて生きてゆけばいいかと、君は悩んだだろう。 
 明日を捨てろ、破れたエロ本を胸に、だ、き、しめて。 
 
 喪板に導かれし者達、架空の花嫁、幻の彼女、喪板の戦士達、 
 ネ喪とコテと女と呪われた喪男、喪板の神コテ、そして伝説へ・・・ 
 
 *対岸の彼女 [#o81d71d2]
 
 彼女は、川を挟んであちら側に立っていた。 
 彼女は、気がついた時にはすでに立っていた。 
 微笑みながら、ずっと、ずっと・・・ 
 最初のころは風景の一部だったはずなのに、いつの間にか気になる存在になっていた。 
 いつだって通る道。いつだって立っている彼女。 
 彼女の姿を見ることができれば嬉しくなり、逆に見れないとさびしくなるときもあった。 
 そのうち彼女を見るために、この道を通るようになっていた。 
 今日はあちら側を通ってみようか…… 
 そう考える日もあった。 
 だが、通ったところで何も変わらない。彼女はまた次の日も待ち続ける。 
 声をかけてみったって何も始まらない。彼女は黙って立ち続ける。 
 微笑みながら、ずっと、ずっと…… 
 だから俺は、川のこちらから、この場所から 
 川のあちらの、あの場所の、彼女を見る。 
 それだけで、十分だった。 
 なのに、 
 『彼女はもうすぐいなくなる』 
 そんな噂を聞いたとき、いてもたってもいられなくなった。 
 俺は走った。 
 あちら側へ 
 あの場所へ 
 彼女のために 
 「大丈夫ですか?」 
 苦しそうな顔で肩で息をする俺に心配そうにそういった。 
 俺は答えずに、呼吸を整え彼に向かって言い放つ。 
 「店先の等身大POP、いくらでうってくれますか!?いくら払ったら彼女を俺にくれますか!?」 
 ゲーム屋の店長の驚いた顔が見えた。 
 
 *人体模型の島 [#k3d2efa8]
 
 俺はもう嫌だった 
 何処に行っても視線を感じる、 
 他人の話し声が聞こえるたびにイライラする 
 俯いて歩けばオタク扱いされそうで、 
 前を向いて歩けば自分の顔を晒すことになる。 
 いっそのこと仕事を辞めて、引き篭もってしまうか? 
 そんなことを本気で考えていた。 
 
 ある日の事、仕事帰り 
 いつも通り人込みを避け、裏路地を通り、家路を急いでいた。 
 人も何もない、暗い道、この雰囲気が俺は好きだった 
 しかし、その日は一つだけいつもと違っていたことがあった 
 
 「ん・・?この店・・・今日は開いてるのか・・・」 
 
 数年間この道を通り続けていたが、 
 一度もこの店が開いているのを見たことがなかった。 
 古びれ、建物全体が黒ずんでいる、小さな店。 
 看板こそあるが、木製のその看板は最早腐りかけ、 
 とても文字の読み取れる代物ではなかった。 
 
 家に帰っても、することなど全くない、 
 普通の店になら寄り道しようとは決して思わない俺だが 
 この暗い雰囲気にマッチした、店の概観、 
 俺の苦手な所謂「オシャレな雰囲気」「若者の集まる店」などとは 
 程遠い無骨で異様な雰囲気に何故か逆に安心感と強い好奇心を覚えた。 
 
 何の店かも分からなかったが、 
 俺の足は自然と店に引き込まれていった。 
 
 店内は微妙な明るさに包まれていた。 
 商品などは一切陳列されておらず、パンフレットなども一切ない。 
 ただカウンターとレジがあり、カウンターの後ろには階段があった 
 おそらくその先に店主の家があるのだろう。 
 カウンターに人は居なかったが、小さなベルのようなものが置かれていたので 
 それを鳴らし、店員が来るのを待つ。 
 
 階段を下りてきたのは意外にも若い女の人だった、 
 予想外の事態に焦る俺、ここ数年、若い女性とマトモな会話を交わしていない。 
 「いらっしゃいませ、あの・・どうかなさいました?」 
 突然話しかけられ、さらに焦る、いや店なのだから突然ということもないのだが。 
 「あ、あぁ、ええっと・・その・・・」噛み噛みだ、冷や汗すら出ている気がする。 
 「あ〜その・・こ、ここは、なんの店なんでしょうか・・・・?」なんとか声は絞り出た、 
 「なんでもありません、失礼しました」と言わなかっただけ俺としては上出来だ 
 女の人は顔を顰める、しまったキモかったか・・・、 
 「この店はですね、貴方の望んでいる”事”を売る店です」 
 「事?物でなくて?」 
 女性の変な答えに俺はつい素で質問してしまう、しまった・・さらにキモかったか・・・ 
 俺の苦悩とは裏腹に女性はにこやかに答えた「えぇ、望んでいる事ですよ」 
 「えっと・・・それはどういう事で・・・あ!いや『望んでいる事』ってのは分かったんですが・・」 
 混乱する俺、なんとも逃げ出したい気分だ 
 
 「そうですねぇ・・・・・・・口で説明すると長いので 
  試しに一個望んでいる事を言ってみてくれませんか? 
  あ、お代はいいですよ、開店して初めてのお客さんですし」 
 
 
 *受難のカウントダウン [#qee3a365]
 
 俺はどこからどう見ても普通の会社員なんだが、実は特殊な力を持っている。 
 だが、それは空を飛んだり人を操ったりみたいにすごいものじゃない。 
 人の未来に起こる不幸が判るんだ。 
 分類的には予知能力なんだろう。だけど、これが全く役に立たないんだ。 
 なんせ判るのは5秒前。しかも何が起こるかは判らないときている。 
 あるとき、バス停に立つ人達全員に5秒前のカウントが見えたときがあった。 
 5秒後、見事にトラックが突っ込んだ。 
 死傷者多数。 
 あのとき、俺がなにかしていれば誰か助かっていたのだろうか? 
 考えすぎだ。自分は何も悪くない。 
 わかっているはずなのに、心のなかで罪悪感が膨らんでいく。 
 いつだって周りを見れば5秒前のカウント。 
 俺の心休まる場所は、姿の見えないインターネットの中だけになっていた。 
 今日も2chで心を癒す。 
 
 『水鉄砲でスナイプしてくる』 
 
 『もしローゼンメイデンが大工だったら』 
 
 『あるあ……ねーよWWWな職場』 
 
 たくさんのスレッドが並び、その全てで他愛のない会話が続いている。 
 どこを見ようと5秒前のカウントは見えない。 
 楽しい…いつもこんなならいいのに… 
 
 『おまいらの人生哲学を語れ』 
 
 何気なく開いたスレッドだった。だけど、そこに書かれた一文を見たとき衝撃が走った。 
 「後悔は失敗の免罪符ではない」 
 ああ、そうか 
 だからこの 
 罪悪感は 
 消えないのか。 
 その文はまだ続いていた。 
 「失敗後の勇気こそが失敗の免罪符だ」 
 この文からなにか力をもらったのかもしれない。それとも、自分の中の何かが揺さぶられたのかもしれない。 
 でも、どっちだっていい。俺は決意する。 
 いくら無関係でも関係ない。 
 どんな不幸だろうとどうだっていい。 
 俺は、5秒前のカウントなんかに負けない。 
 俺は、絶対に 
 「助け出してみせる!!」 
 
 
 次の日の朝、世界が違って見えた。 
 言葉一つで、こうも変わってしまうのかと驚いたぐらいだ。 
 周囲にカウントがないか注意深く見回してみる。そしてついに、駅のホームで5秒前のカウントを刻む女性を見つけた。 
 彼女は電車がやってきていることに気付き、白線ギリギリのところに移動した。 
 5 
 いた!!急げ、間に合わないぞ!! 
 人を掻き分け、彼女に近づく。駅でこのタイミングにカウントなら、おそらく人身事故のたぐいか? 
 4 
 あとすこし!! 
 あと1メートルほどまできたとき、彼女の後ろにいた男が突然銃を取り出した。 
 男の指は今にも引金を引こうとしている。 
 3 
 銃!?電車じゃないのかよ!? 
 「危ない!!」 
 彼女を押し飛ばし、彼女の位置に俺が立つ。「キャッ」という声と共に男は引金を引いた。 
 ぴゅーーー 
 銃口から飛び出した水は俺の顔をぬらす。は?水? 
 良く見ると男のそれはちゃちな作りで玩具だとすぐにわかる。 
 「なんじゃそりゃ……」 
 だが、言葉とは裏腹に胸の中は喜びでいっぱいだった。 
 彼女に不幸はやってこなかった。俺は無力じゃない。カウントに勝ったんだ。 
 男が逃げていく姿を見てそう思った。 
 1 
 「え?」 
 なぜ、カウントがつづく? 
 彼女のほうに振り向いてみた。すると、彼女は線路にへたりこみ俺を見上げている。 
 『あなた……だれ?私…何かした?』 
 そんな不思議そうな目をしていた。ああ、なんだろう、周りがやけにうるさい。 
 0 
 俺の目の前を電車が通過した。 
 
 
 *神様の鍵 [#f1c1b9b8]
 
 あれ?家の鍵がないぞ? 
 ズボンのポケットを探り、鞄の中を探る、が、ない 
 「あれ〜?どっか落としたかな?あー、たりい」 
 家に入れてねえじゃねえかよっ! 
 
 半年前から俺はアパート暮らしだ 
 先住人の方々とも仲は良好だし、バイト先のラーメン屋でもやっと認められてきた 
 彼女はまだいないが、好きな娘はいる 
 姉貴の夫の妹だけどw 
 
 「さぁて、どーしようかねー」 
 と、呟いてみるがどうしようもない 
 あとになって気づいたが、このとき俺は大家さんが持ってるであろうマスターキィを借りればよかったんだ・・・ 
 
 
 まあ、適当にぶらつくかあ 
 家の近くの商店街を練り歩く 
 まだ5時だが、すでに何軒かは店を閉めていた 
 
 と、ふと路地裏を覗いてみると初めて見る店が建っていた 
 「あ?こんな店あったっけ?・・・合鍵作ります?へえ」 
 ちょっとした好奇心で俺はその合鍵屋に入ってみた 
 
 店内は薄暗く、しかし不思議と心地よかった 
 「いらっしゃい、あら?初めて見るお客さんね」 
 若い女性の声だ、しかも聞いただけで美人とわかる感じの 
 俺は少し緊張して、声が上擦ってしまった 
 「あ、ああ!ドーモはじめまして」 
 「うふふ、ええはじめまして、今日は何かご用?」 
 「え、はい、実は・・・」 
 俺は鍵をなくしたことを説明した 
 「んー、と言ってもねえ、本物の鍵がないんじゃあどうしようもないわ」 
 いわれてみれば当然だった 
 「あっ、そりゃそうですよね、失礼しました」 
 まあいいや、こんな美人と知り合いになれたんだー、などと思いながら店を後にしようとする 
 「待って、方法がないことも無いんだけどねえ」 
 呼び止められた 
 「え?」 
 「ちょっと待っててね」 
 そう言うと女は店の奥に引っ込んだ 
 手持ちぶさな俺 
 美人さんが戻ってきた 
 「はいこれ」 
 奇妙な形をした鍵を渡された 
 「なんです?これ?」 
 「三回までならどんなものでも開いてしまう魔法の鍵〜♪」 
 「はい?」 
 なんだそりゃあ、と露骨に顔に出してみるが、 
 「はいはい、ごめんね〜、そろそろ閉店だから〜」 
 閉め出された・・・ 
 「・・・はぁ」 
 まあいいや、帰りますかね 
 俺は商店街をあとにした 
 
 途中コンビニでカルピスとおにぎりを買って、アパートに帰り着いた 
 「さて、と。じゃあ使ってみますかね」 
 正直半信半疑だったがするりと鍵穴に入り込んでしまった 
 ひねる。 
 ガチャ、と音がした 
 「う、うおおおぉぉぉ?!マジで?」 
 ホントに開いてしまった 
 ドアを開く、開いた 
 マジかよ・・・すげえ 
 10分ほど興奮していたが、すぐに寒気がした 
 ちょっと待てよなんで開いたんだ?おかしいだろ?つうかこんなの犯罪じゃあ 
 深く考えると怖いので考えないことにした 
 そんなことより有効な活用法を寝っ転がって考える 
 んー、何でも開くって言ってたよなあ 
 あ、ならコレはどうだろう! 
 俺は早速準備を開始した 
 
 翌日、土曜日 俺は実家に帰省した 
 
 「こんちはー」 
 実家にする挨拶ではないが、仕方あるまい 
 今ここは姉貴とその夫、祐一さんとその妹の理奈ちゃんが住んでるのだから 
 「は〜い、あれ?孝志くん?」 
 祐一さんだ 
 「あ、こんにちは祐一さん、おひさっす」 
 「いやいやw先週来たばっかじゃいwそれで今日はどうしたの?」 
 「あ、はい。理奈ちゃんの様子を見に・・・」 
 「ああ、うん。ありがとうね。理奈なら部屋にいると思うから」 
 「はい、じゃあちょっといってきます」 
 
 理奈ちゃんはかなりの美少女だ 
 だけど、理奈ちゃんはある日を境に誰にも心を開かなくなった 
 なんというか、全てに対して無関心なんだ 
 俺は彼女が好きだから放って置けない 
 まあ、理奈ちゃん自体まだ12歳の少女なのだがw 
 もしかしたら、この鍵で彼女の心を開けるかもしれない 
 そんな期待をして、実家に戻ってきたのだった 
 
 コンコン 
 
 理奈ちゃんの部屋のドアをノックする 
 ・・・無反応、いつものことだ 
 「入るよー」 
 相変わらず可愛らしい部屋だな 
 この部屋の主はベッドに腰掛けて、本を読んでいた 
 理奈ちゃんの前に立つ 
 理奈ちゃんはちらっとこちらを見て、すぐに視線を本に向けた 
 俺は深呼吸をして、ポケットから鍵を取り出す 
 そして、理奈ちゃんの心の鍵を(このとき、俺は不覚にも独占欲を抱いた)俺にだけ開ける 
 差し込んだ瞬間、理奈ちゃんは少し硬直した 
 鍵をひねる 
 カチャ、と音がした 
 俺は静かに鍵を引き抜く 
 
 理奈ちゃんは顔を上げて、柔らかく笑った 
 微笑んでくれた・・・! 
 俺にだけ微笑んでくれた…! 
 「あ、た、孝志・・・さん?」 
 「うぇっ?う、うん。なに?」 
 ぎゃああああぁどもっっちまったぁああああ、とか内心焦っていると、理奈ちゃんは頬を染めてこう言った 
 「あの、…顔じろじろ見ないで…?恥ずかしいよ」 
 「あ、うん、ごめんね?」 
 「ん、孝志さんになら別にいいけど、ちょっと恥ずかしいから」 
 なんてすごく可愛らしいことを言ってくれる 
 「ね、理奈ちゃん、どうして外に出ないの?みんな心配してるよ?」 
 僕は理奈ちゃんに引きこもった理由を聞いてみた 
 「ん、えと、その、」 
 言いにくそうだ。何か理由があるんだ 
 無理に聞くものではない 
 そう思った俺はそう言おうとしたが 
 「あ、孝志さん…、ベッドに座って?」 
 俺はしたがってベッドに座る 
 そしたら理奈ちゃんが俺も股の間にチョコンと座って、俺を見上げてきた 
 驚いて声も出ない 
 「えへへ、髪、撫でて?そしたら話すから」 
 俺は理奈ちゃんの長く美しい髪をさらさらと撫でる 
 
 そして、理奈ちゃんは理由を話し始めた 
 
 学校でいつも陰湿なイジメにあっていたこと、他にもいろいろ 
 そして極めつけは担任教師にレイプされそうになったことだった(必ずその糞教師を殺すことを誓った) 
 話し終えた理奈ちゃんはすでに泣いていた 
 はいつのまにか理奈ちゃんを後ろから強く抱き締めていた 
 
 そして、身体ごとこちらに向かせて、前から強く抱き締めた 
 俺の胸で泣きじゃくる理奈ちゃんは全てに無関心な人形ではなく、歳相応の女の子だった・・・ 
 
 それからの理奈ちゃんは変わった 
 でもそれは俺に対してだけ、俺に関することだけだった 
 あとは前と変わらない 
 
 理奈ちゃんは今日、突然家に来て、料理を作ってくれた 
 「ど、どうかな?」 
 「美味い!美味いよ理奈ちゃん」 
 正直味は普通だったが、俺は大絶賛した。 
 しょうがないだろ?せっかく好きな娘が作ってくれた料理だ、まずいわけがない 
 
 食事が終わって、二人してダラダラテレビを見ていると 
 「あっ、そろそろ帰らなきゃ」 
 「んっ、送っていくよ」 
 「ううん、いいよ、大丈夫だから」 
 「そんなこと言わずにエスコートさせて下さいお嬢様」 
 「あははっ、うん、じゃあお願いします」 
 
 二人して家を出る 
 家から駅まで歩いて30分だ 
 「もうすぐ春ですねー」 
 外の空気は寒くもなく、暑くもなく、しっくりくる気温だった 
 「うん、理奈ちゃんももうすぐ中学生だね?」 
 「孝志さんは私のセーラー服見たいですか?」 
 「・・・超見たい」 
 「あはっ、孝志さんのえっちー、でも、いいですよ?孝志さんのためにいつでも着てあげます」 
 俺のため・・・か 
 理奈ちゃんはすでに全てを俺を基準にして物事を考えるようになった 
 孝志さんはどんな服が好きですか?孝志さんはどんな料理が好きですか?孝志さんは孝志さんは 
 なあ、俺。俺はこんな理奈ちゃんを望んだのか? 
 「・・・さん、・・志さん、孝志さん!」 
 心配そうな声に、思考が中断される 
 「ん?あ、何?」 
 「もうすぐ駅なのに、孝志さんぼー、っとしてたから」 
 「あ、ごめんね」 
 俺は素直に謝った 
 理奈ちゃんは立ち止まって、少し小さな声で、言った 
 「あの、私、孝志さんが好きです。いつから好きになったかはわかりませんけど、私、孝志さんが好きなんです!」 
 ああ、コレは告白、だな 
 俺はぼんやりと考える 
 理奈ちゃんは顔を真っ赤にして、いまにも泣きそうだった 
 この娘の泣き顔なんて見たくない 
 ぼんやりした頭でそう思った、そしたら口が勝手に動きだした 
 「俺もね、理奈ちゃんのこと大好きだよ」 
 言った、言ってしまった 
 7つも年下の少女に告白してしまった 
 理奈ちゃんは驚いた顔をして、すぐに俺に抱きついてきた 
 思いっきり抱き締めかえす 
 
 そして俺たちは、最初で最後のキスをした 
 
 
 
 
 あー、マジスマン 
 なんか変な展開になってきた 
 次で終わらせます 
 
 
 理奈ちゃんを送ってから、俺は密かに決意した 
 
 ・・・この鍵で俺との想い出を閉めよう 
 でも、それだけじゃあ足りない 
 あともう一回だけ使わなければならない 
 俺の足は自然と、この前の合鍵屋に向かっていた 
 
 「あら?この前の、いらっしゃい、鍵は役に立ったかしら?」 
 「はい、あの時はホントに有難うございました。お陰様で」 
 「いいからいいから、今日の用件は?」 
 遮られた、まあいい。本題はここからだ 
 「この、鍵なんですけど」 
 「ふんふん」 
 「もう一回だけ、使える回数を増やせませんかね?」 
 「ああ、それは無理ね」 
 即答だった 
 「っ!何か・・方法はないんですか!!」 
 「んー、何やらわけありのようね。お姉さんに話して見なさい?」 
 何故か俺は、この人に全てを話していた 
 この店の雰囲気のせいかもしれない、この人独特の雰囲気のせいかもしれない 
 とにかく、俺は自分が思っていることを全て話した 
 
 「あー、なるほどねぇ、それなら方法がないこともないよ」 
 「やって下さい!お願いします!」 
 「キミ、死ぬよ?」 
 瞬間、思考が凍った 
 「やれる?」 
 お姉さんは俺を冷たい目で見る 
 俺は即答した 
 「やれます」 
 好きな娘のためなら命ぐらい余裕で張ってやる! 
 「おっけ〜、じゃあ、始めるよ」 
 
 ('A`)改行が多すぎてエラー 
 次がラストです 
 
 俺は全力で駆け出していた 
 お姉さんの声が脳裏をよぎる 
 
 「これはね?神様の目を盗んでやる、違法なの。制限時間は一時間しかないわ」 
 「あの、何でここまでしてくれるんですか?」 
 「私はね?頑張る男の子が大好きなの。頑張れ!男の子!」 
 
 すぐに電車にのって、実家についた。 
 あと15分しかない 
 迷わず家に入る 
 理奈ちゃんの部屋に直行した 
 「え?孝志さん?どうしたんですか?」 
 時間がない 
 「ねぇ、理奈ちゃん・・・忘れてもいいから、憶えておいて。俺はね?理奈ちゃんのことが本当に好きだったんだよ?」 
 「え?」 
 
 俺は理奈ちゃんに鍵を差し込む 
 まずは、俺との想い出、そして、彼女の嫌な記憶に、鍵を掛ける 
 ガチャ、と音がした 
 あと一回、彼女がずっと作っていた自分を護るための殻を、この鍵の力で、開く 
 カチャ、と音がした 
 
 これで理奈ちゃん、幸せになってくれるといいなぁ・・・ 
 俺の意識は、溶けるように消失した 
 
 
 
 三週間後 
 俺は相変わらず変わらない毎日を過ごしていた 
 ん?セーラー服を着た少女たちがこちらに歩いてくる 
 ん?立ち止まった? 
 少女の一人がこちらに駆けてくる 
 他の二人は待ってるようだ 
 あれ?あの娘は・・・ 
 「こんにちは!孝志さん!」 
 「お、やっぱり理奈ちゃんか!久しぶりだね?」 
 「はい!お久しぶりですね!」 
 目の前の少女は元気に、快活そうに笑っている 
 「向こうの二人は友達?」 
 「ええ、中学生になってから友達になったんです」 
 「いいの?放っておいて?」 
 「えへへ、孝志さんを見つけたから思わず」 
 少しだけ、沈黙 
 「一つだけ聞かせて?キミは今、幸せかな?」 
 「はいっ!すっごく幸せです。それじゃ、また」 
 「うん、またね」 
 元気に駆け出していく、とこちらを向いて 
 「約束のー、セーラー服ー、確かに見せましたからねー!」 
 「え?」 
 
 
 そう、俺は確かに死んだ 
 彼女との想い出と、彼女が好きだった自分は、間違いなく死んだのだ 
 だけど・・・ 
 
 
 *スーパー喪大戦 [#d82381f5]
 
 「今の爆発は!?何が起こった!!」 
 「巡洋艦クリトリス、撃沈!!駆逐艦千春とも交信が途絶えました!!」 
 「イージスは!?何をやってる!!」 
 「一番艦飯島、二番艦及川ともにエロマンガ島が影になって察知できなかった模様!!現在敵の規模を」 
 「艦長!!敵、攻撃機をレーダー上に捉えました!先程の攻撃は長距離ミサイル!!」 
 「空母アドミラル・ロリータから迎撃機を発進させろ!!」 
 「バイターリーダーより入電、バイター隊はすでに緊急発進したそうです!!」 
 「艦長!!戦艦スカトロが敵艦を一隻撃沈した模様!!及川、飯島より入電・・・敵艦隊はアブノーマル級が残り4!!」 
 「空母もいるな。至急航空戦力を割り出せ。その上で決断する」 
 「敵の狙いは恐らく本艦です!少数による奇襲攻撃と思われ―レーダーに感!!九時方向から巡行ミサイル多数!!」 
 「回避は・・・間にあわんか!?主砲で何発か叩き落とせっ!!被害を押さえろ!」 
 「射線上に巡洋艦イマラチオが割り込んでいます!!―そんな、別れを告げています!!」 
 「よ、止せーっ!!!」 
 「・・・イマラチオ、傾斜して行きます。潜水艦イ―19より敵空母を撃沈の報告!!」 
 「バイター隊が敵航空戦力の三割を撃墜しました。敵は撤退を開始した模様!!」 
 「逃しはしないよ。この旗艦メコスジパイパン率いる第六船団は、決して敵の存在を認めはしない!!」 
 「駆逐艦シックスナイン、オーガズム、シュクジョ・リョウジョクも繊滅を提案しています!!」 
 「よし!全艦我に続け!!」 
 
 
 *名古屋市北区の引きこもり更生支援施設「アイ・メンタルスクール」の逮捕監禁致死容疑事件で、 [#p19858b4]
 死亡した東京都世田谷区の男性(26)は、施設内で暴力的な行為をしていないにもかかわらず 
 鎖でしばりつけられていた可能性の高いことが、愛知県警の調べで分かった。 
 施設側は当初「暴れるためやむをえなかった」などと説明していた。 
 
 調べでは、男性は4月14日から死亡する18日までの5日間、医師の診察を受けた時以外は 
 施設1階の柱に鎖でつながれて監禁されていた。食事や睡眠時も拘束が解かれることはなかった。 
 
 拘束について、NPO法人代表理事の杉浦昌子容疑者(49)は逮捕前 
 「暴れる男性の自傷行為や他の生徒たちへの暴力等を制止する目的で戒具(拘束の道具)等をやむなく使用した」 
 などと弁明していた。 
 
 男性が拘束されていた1階では約30人が生活していたが、県警が入寮者や職員から事情を聴いたところ、 
 男性が自傷行為をしたり暴力をふるったりすることはなかった。 
 
 県警では、こうした拘束が必要な暴力行為などがなかったのに、 
 正当な理由がないまま5日間にわたって不法な監禁が続けられ、最終的に死に至ったとみている。 
 
 男性は、就寝中に何も知らされないままいきなり手錠などをつけられて暴力的に拘束され、施設へ連行されていた。 
 
 
 
 
 *20XX年、都内のとあるアパートの3階の部屋 [#ea56c6f9]
 マッドサイエンティストの喪男は喜びに震えていた 
 「できた!ついにできたあああああああああああああああああ!完成だ!」 
 そこには奇妙な造形の複雑な機械があった 
 「コイツで時間を設定して・・・・・・フヒヒ!うまくいくぞ!」 
 その機械はいわゆるタイムマシンだった 
 この時代にタイムマシンはまだ発明されていなかった 
 世紀の発明であるが世間に発表しようなどと言う気持ちは喪男には少しもなかった 
 「これであの時に戻って、未来を変えてやる!」 
 喪男は、小学校低学年の頃からいじめにあっていた 
 
 
 田舎の出身だったので、中学校にあがっても周りの面々は全く変わらず、いじめは続いた 
 高校は進学校に入学できたが、今度は誰一人知り合いがおらず周りに溶け込めることもなく孤立した 
 思春期がそんなわけなので人間的にも真っ暗、大学に行っても友達ができるわけもなく 
 社会に出てもはぶられ続け就職もできず、親の残したそこそこの遺産で暮らしていた 
 だがこの喪男、他の人間がやれ遊びだ、セックスだと言ってるときに 
 何もすることが無いので一人ガツガツと勉強をしていた 
 そのかいあって今はドクターワイリー的な存在である 
 詳しい状況をモニタリングしながら喪男は言った 
 「ここだ!おれはこの日の朝、冷たい牛乳をやたら飲んでいったせいで学校でビチグソを漏らしてしまったんだ 
 これをネタにおれへのいじめが始まった。おれの暗黒の人生はこの日始まったんだ、間違いない!」 
 
 喪男がタイムマシンに乗り込み、スイッチを操作してレバーを引いた瞬間 
 「ズガガガビュキィーーーン!」 
 周りの景色は一変した 
 暗闇、周りでは虫の鳴き声がしている 
 喪男は感動を覚えつつも周りを見渡し、動き出した 
 ここは20数年前の実家の庭、ビチグソお漏らし事件の前夜である 
 慣れた手つきで一ヶ所の窓をスーッと開ける 
 「ここはいつも鍵が開いてたんだよな、ヒヒヒ」 
 中に侵入、まっすぐに台所へ行き、冷蔵庫の扉を開け、軽やかに牛乳パック2本を回収 
 すばやくタイムマシンのところまで戻る 
 「よし、OK ミッション完了、帰還する」 
 ノリノリでまた同じように操作した 
 「ズガガガビュキィーーーン!」 
 「ヒュウウウ・・・・・・・・ドシャッ」 
 「ぐへあ!いってぇ〜〜〜〜・・・・・・」 
 どうも高いところから落ちたらしい。幸いシートに座っていたおかげ怪我はなかった 
 ただ、周りの景色はどうも見覚えのないものだった 
 「どこだ?ここ」 
 
 戻ってきた場所はアパートの一室のはずなのに・・・ 
 喪男のいる場所は、建物は崩壊し、緑はなく、砂漠の廃墟のような場所だった 
 人の気配はなく、強い風がただ吹き荒れるばかり 
 「どうゆうことだよ?場所が違う!くそっ」 
 しかしこのマシンに移動する機能はない 
 喪男は強い不安に襲われ、タイムマシンのモニターを見た 
 とりあえず過去の状況をトレースするためである 
 モニターを操作していくうちに喪男の表情は恐ろしく歪んでいった 
 「なんだよ・・・・これ、核戦争!?」 
 喪男は震えながらさっき戻った時代からの歴史をたどっていった 
 テロリストが日本へのテロ活動を宣言、各地で爆破テロが多発 
 日本の経済は崩壊し、治安に当たっていた自衛隊が増長。クーデターが勃発 
 民主主義からかけ離れた軍政国家の誕生 
 その十年後、非核三原則の撤廃。核開発に乗り出す 
 まさに旧時代と同じく帝国主義の下にアジアを侵略 
 第三次世界大戦開戦から核大戦へ。 
 そして人類滅亡・・・・ 
 「なんでこんなことに!?意味わかんねえよ!」
 胸の奥にむかむかするものがこみ上げ、吐きそうになる喪男 
 さらに詳しく調べると、驚くべきことが分かった 
 事の発端であるテロリストは、実は小学校時代同じクラスだった弧男だったのだ 
 喪男がうんこ漏らし事件を起こさずにすんだせいで 
 クラスでいじめられるやつはいなかった 
 しかし、喪男がいじめられなかったせいで 
 いつも一人でいた弧男がやがていじめのターゲットにされる 
 その後の弧男の人生は喪男が歩んできたものと同じものになった 
 しかし喪男と弧男の違いはその心にあった 
 弧男は成長するにつれて着々と社会への憎しみを育てていたのだ 
 そして彼はテロリズムに傾倒していったようだった 
 
 「やばいやばいやばいやばいやばいやばい・・・もう一回過去に戻らなくちゃあ!!」 
 喪男は気がおかしくなりそうになりながらもマシンを操作し始めた・・・・ 
 「ガビ・・・・・ガガガビガビガガガg・・・・・ボボンッ!」 
 「え?」 
 「ブヅン」 
 「ん?え?ちょ、反応しない?え?」 
 さっきの衝撃でどこか壊れたようだ 
 「おい?ちょ、ま、ウププププ、うそ?うそだオププヒヒヒろ?」 
 「動けプッククククク!フヒッフヒヒヒヒなぁ、おい!ヒアハハハハハ!」 
 もう過去には戻れない。気の狂った喪男の笑い声がいつまでも廃墟に響いていた 
 
 *残酷な喪のテーゼ [#p81536c3]
 
 僕は醜悪だ。目はカッと見開き、耳はやたら大きい。唇は薄くのっぺりしていて、まるでガイコツだ。 
 でも僕には幼馴染みがいた。幼稚園の頃から一緒にいた女の子。 
 僕と彼女には秘密の場所があった。森の奥にある木の下だ。切り立った崖の上にあるから村の人も近付かない。二人だけの場所。 
 
 そこで彼女は僕の醜悪な顔を見て言った。 
 「貴方の大きな目は遠くの方を見るために大きいの。貴方のはより音を聞くため。あなたの口は私を悪い人から守り噛みつくために大きいの。」 
 うれしかった。 
 
 
 数年たち僕らは町の小学校に通っていた。僕は顔が醜悪だから虐められていた。 
 でも彼女は優しかった。いつも一緒に下校した。 
 でもいつからか彼女はあまり一緒に帰らなくなった。クラスで一緒のやつとよく帰っているみたいだった。 
 僕はそれをみると胸が苦しくなった。何故かな?そんなときは二人だけの木の下へ行った。心が落ち着くし、ここは二人だけの場所なんだ。 
 ある日、僕はいつものように木の下にいたんだ。すると奥の方から葉が擦れあう音がした。僕はとっさに隠れた。彼女だった。 
 
 
 僕は嬉しくなった。彼女はまだここに来てくれる。それだけで胸が高鳴った。 
 でも彼女は一人じゃなかった。彼女の後ろにはあの彼がいた。 
 彼女は僕と彼女の二人だけの場所に知らない男を連れて来ていた。 
 彼女はとても嬉しそうに笑い、彼も笑っていた。 
 そして二人はキスをしていた。 
 君はこの僕から彼女を取り上げるだけにも飽き足らず、この場所まで取り上げるつもりなのか? 
 僕の中にドス黒い感情がわいた。許せない。 
 彼女は顔を赤らめカメラをもってくるといって村へ走って行った。許せない。 
 彼はよいアングルを探して崖の淵を歩いていた。殺してやる。 
 僕のドス黒い感情と行動が一致した。僕は軽く彼の背中を押した。 
 
 
 僕と彼女の場所は渡さない。 
 
 
 彼は死んでしまった。 
 同時に彼女も死んでしまった。 
 あれから誰かが彼女に話しかけても彼女は反応しない。まるで抜け殻だ。なんてかわいそうなんだ。 
 程なくして彼女は引っ越して行った。何でも精神を癒すためらしい。 
 僕は寂しいけど彼女のこんな姿を見るのはもっと悲しい。早く元気になって帰って来てね。 
 
 
 あれから数年たった今も彼女は帰ってこない。 
 彼女は海の見える町に越したらしい。 
 僕はもうまてない。彼女に会いにいこう。 
 今まで貯めた少しのお金と父の書斎から護身用の拳銃を拝借した。 
 バスと電車に数時間揺られて僕は彼女の住む街に着いた。 
 ここでも僕は醜悪な顔のせいで道を歩く人に避けられる。 
 でも彼女の通う学校は知っていた。そこで待とう。 
 
 そこには僕の知らない、でも確かに彼女がいた。キレイになった。 
 彼女の周りにはやはり知らない男がいた。あの日僕は二人だけの場所を守った。それなのに彼女は僕をみてくれない。 
 
 
 知らない男の車に乗り走り去る彼女。僕は彼女をタクシーで追った。 
 
 何故僕は醜悪なんだろう。これさえなければまだ希望はあるのに。そんな事を考えていると車は止まりホテルへ入っていってしまった。 
 僕は泣くのを堪えてタクシーに金を払い、降りた。 
 僕は彼女が出てくるのを待ったんだ。 
 
 雨が降りだし僕を打ち付けた。僕の心はもう決まっていた。 
 
 あれから何時間たっただろう。彼女と男は寄り添いながら出てきた。許せない。 
 彼女は僕には笑いかけてはくれない。許せない。 
 僕は一歩ずつ二人に迫っていく。右手にある拳銃を掴む手にも自然と力が入る。殺してやる。 
 僕は男の肩を叩いた。ゆっくりと振り向く男。右手に鈍く光る黒い塊を彼の頭に押し当て、引き金を引いた。 
 ゆっくりと空が白んで来るなかで銃声がこだまし道路を赤く染めた。 
 彼女は何が起こったのかも分からず立ち尽くしている。 
 朝の挨拶をしよう。「おはよう」 
 彼女は僕の顔をまじまじとみている。「あなた…何をして…いるの?」 
 「君を守ったんだ。」そういうやいなや彼女は絶叫した。人殺しとか彼の名前を叫んでいた。 
 どうしよう、また彼女が壊れてしまう。「大丈夫かい?」彼女は差し出した手を払い叫んでいる。 
 僕は急に怖くなった。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。 
 そうだ、森へ帰ろう。あそこなら僕を包んでくれる。僕はその事を彼女に告げて走り出した。 
 あれから何日たったのだろう。彼女はきてくれた。 
 彼女は憔悴しきっていた。「あなたが…やったのね?」静かに彼女は言った。 
 「やった?何をだい?」 
 「あなたが彼をこ…殺したんでしょ!?」 
 僕はわからなかった。何故彼女は怒っているの?何故彼女はまた泣いているの? 
 ここにくれば彼女もきっと喜んで昔みたいに一緒にいられる。 
 「なんでだい?ここは僕と君だけの場所だろ?なのになんで泣いてしまうんだい?僕は昔からこの場所と君を守ってきたのにちっとも喜んでくれない。何故なんだい?」 
 「昔から…?彼も、、、あなたが!?」 
 「なんで泣いてしまうんだい?!僕にはわからないよ!」 
 
 「近寄らないで!!」 
 
 僕は僕はどうすればいいんだ。わからない。 
 
 
 それから彼女はゆっくりと確かに言った。 
 「あなたは謝らなければならないわ…。あなたが命を奪った人に謝ってきて。」 
 「…うん、君がそういうならそうするよ。」 
 僕は腰に挿しておいた黒くて鈍く光る塊を取り出し額に近付ける。 
 
 
 
 「ここは僕らだけの場所だ。僕は君の為ならなんでもするよ。だから僕を愛して。」 
 
 
 
 *未来世紀アキバ [#z4fa02a6]
 
 喪男の青春?多少はあった、人並みに。 
 ただ相手はいつもアキバで出会い、平べったく、バックライトで照らされていた。 
 
 ある日、一人の喪はドアの激しいノックに目を覚ました。 
 なんだなんだと出てみるとそこにはスーツにグラサンの男。 
 男は勝手に話はじめた。 
 
 「こんにちは。勝手ながらあなたの経歴を調べさせて頂きました」 
 
 おいおい、何だ何だ? 
 
 「失礼ながらあまりいい人生とは言えないようですね」 
 
 …否定は出来ない。 
 
 「ですが私ならそんなあなたの人生を変えることが出来ます」 
 
 怪しい。怪しすぎる。一体こいつは何者な 
 その時、男のもっていたリモコンのような機械から 
 発せられた光を見た瞬間、喪は気を失った。 
 
 
 朝起きるといつもの朝だった。 
 毎日がエブリデイ。アキバに向かうべく家を出ると 
 一人の少女に声をかけられた。 
 
 「ちょっと待ちなさいよ喪男!」 
 
 …誰だ?とキョトンとしてるとさらに 
 
 「ちょっとアンタ寝呆けてるの?幼なじみの顔忘れたってワケ!?」 
 
 幼なじみ…?俺の唯一の知り合いの女は激しく負けた後の曙そっくりのはずでは…? 
 
 「ま、いいわ。どーせアンタ、アキバに行くんでしょ? 
 アタシも津田沼に用事あるから総武線一緒に乗るわよ」 
 その日から喪男の人生は劇的にかわった。 
 出会う美少女がことごとく喪男に引かれていくのだ。 
 幼なじみ、帰宅部の後輩、先輩、見たこと無い新任の担任…その他。 
 
 そんなある日、喪は後輩と幼なじみ両方に会いたいと言われた。 
 
 彼は悩んだ挙げ句、幼なじみに会うことにした。 
 なぜなら彼はMだから。 
 
 待ち合わせ場所に行くと幼なじみがいた。 
 
 「こ、後輩にも誘われてたんでしょ? 
 ア、アタシは別に嬉しくないし、アンタが勝手に来たんだからねっ!」 
 
 顔が真っ赤である。 
 
 「ホ、ホントは言いたいことあったけど 
 面と向かっては言いづらいから後で電話に出なさいよ!またね!」 
 
 喪はワクワクしながら部屋で電話を待った。 
 プリキュアプリキュア〜 
 着信音がなる。 
 
 「もしもし」 
 
 あれ、男の声? 
 
 「いかがでしたか?超リアル3D幻想! 
 今なら本体とソフトのセットで税込248000円! 
 続きは我が社の脳幹直結型ゲーム機、PLAYBOX DSで!」 
 今日もまたいやがる... 
 毎朝決まった車両、連結部分より3つ目のつり革。 
 あの女はいつも決まったところに立っている。 
 今時どこの美容院に行けばそんなヘアスタイルにするのかという、厚切りのおかっぱ。 
 いや、ショートカットが伸びただけなのかもしれない。 
 プクプクのほっぺた、プツプツと肌の表面を飾るニキビ、見事なまでの団子鼻、えくぼの出来るムチムチの手の甲。 
 
 ウェストと胸部の境目がはっきりしない、ドラム缶を彷彿とさせる体。 
 これまたどこで買うのか薄黄色のシャツに何故か赤いスカート。 
 足元は白いソックスに、汚れが目立つコンバースの赤のローカットだ。 
 そして、あれは最近の流行りなのかなんなのか、ピンクと赤の中間くらいの色のベレーを被っている。 
 ああ、あんな女...生まれてからおそらく一度もモテたことなんてないんだろうなあ... 
 女に生まれてあんな容貌で、人生面白いことなんてないんだろうよ。 
 俺は今日も意地悪な思いをめぐらせながら、その女を横目で眺めている。 
 
 
 そうはいうものの、実は俺だって似たようなものだった。 
 他人のことをとやかく言う資格なんてこれっぽちもない。 
 小学生の頃は給食のパンを隠され、上履きの中には画鋲を入れられた。 
 ド近眼がたたって俗に言う瓶底メガネをかけ、ひ弱な身体に何故か母親の趣味だった坊ちゃん刈り。 
 気がつけば「のび太」とあだ名がついていた。 
 地元の中学に進んだために、中学卒業まで俺のあだ名は「のび太」だった。 
 
 しかし俺は、高校入学を機会に変わる努力をした。 
 バイトで溜めた金でコンタクトも買った。 
 実は中学時代、漫画誌の広告から筋トレ器具も購入していた。 
 毎晩俺は、寝る前にその筋トレ器具を使いながら呪文のように「俺は変わるんだ...」ととなえ続けていたのだ。 
 中学3年間の密かな自宅筋トレのおかげか、身体つきだけは自分でいうのもなんだが、結構見られるようになっていた。  
 
 電車で1時間かけて通う高校には、俺の過去を知るものはいない。 
 通学時間中、窓ガラスに映った自分の姿を見て、俺は満足だった。 
 ひ弱で軟弱そうだった俺は消え、生まれ変わったのだ。 
 俺はついにイケメンと呼ばれる部類に入ることを許可されたのだ。 
 ...と、自分では思っていた。 
 校内でモテそうな奴を常に観察し、その表情の作り方や、仕草の研究に事欠かなかった。 
 俺の努力はゆっくりだが、確実に実を結んでいたとを自分では思う。 
 バレンタインには一つ、二つとチョコレートが届くようになり、過去のダサダサな俺はもういない。 
 のび太には戻りたくない... 
 頭の中にはその言葉が常に渦巻いていた。 
 
 
 自分の過去を殺した今、俺はいかにもモテない奴を見ると鼻で笑ってしまう。 
 お前らと違って俺は努力をしたのだ。  
 ざまあみろ、俺はもう喪でも苛められっ子でもない。 
 「のび太」ではないのだ。 
 いつもの車両、いつものつり革。  
 あのいかにも喪な女は今日もいつもと似たようなカッコで立っている。 
 俺は、もし自分があの女だったら...と想像していた。 
 毎朝起きると、鏡の中には「ブス」の刻印を押したような顔がある。 
 豚のようなケツをこれまた巨大なグンゼのパンツに押し込み、シーツのようなスカートを腹のまわりに巻きつける。 
 もし俺が女で、そんな人生送ってたとしたら、とっくに自殺もんだぜ... 
 可哀相にな、ジャイ子よ... 
 俺はその女に実はこっそりとジャイ子とあだ名をつけていたのだ。 
 ふと、俺の視線に気がついたのか、ジャイ子が振り向いた。 
 視線が合ってしまった俺は、何故か焦って顔を背けた。 
 
 
 つり革につかまったまま、いつの間にかウトウトしたようだった。 
 電車の音が突然にして大きく聞こえる。 
 降りる予定の駅は通過してないはずだ。 
 座席に座った状態でもあるまいし、立ったままそんなに長い時間居眠りしていたとは思えない。 
 と、電車がガクっと揺れ、俺はつり革にしがみついた。 
 揺れに対して足を踏ん張るために下を向くと、自分の服が目に入った。 
 ...なんじゃこりゃ? 
 そこには先週買ったばかりのヒップホップ系ブランドのTシャツも、古着屋で見つけたビンテージのジーンズもなかった。 
 俺の身体を包んでいるのは、ユニクロでも売ってないような真っ黄色いシャツに、何故か黒い半ズボン。 
 ...なんじゃこりゃ? 
 驚いて顔を上げる。 
 正面のガラスに映っているのは見慣れた俺の顔ではない。 
 ひと月に一度は原宿の美容院でカットしてもらっている髪は、母親に髪を切ってもらうのが習慣になっている小学生のそれのようになっている。 
 「のび太だ...」 
 
 
 一生懸命イケメンを演じているはずの俺の顔は、どういうわけか「成長したのび太」になっていたのだ。 
 ...なんじゃこりゃ? 
 頭の中が真っ白になり、夢であって欲しいと願うことが俺の出来る唯一のことだった。 
 だが、夢は覚めそうにない。 
 
 ジャイ子、いや、デブ女はいつの間にかいなくなっていた。 
 
 
 *持ち主不明の携帯 [#fd6c3ec3]
 
 ある日、しがないサラリーマン手癖悪 肝蔵は外まわりのついでに公園で昼食をとっていた。 
 それは毎日毎日延々と繰り返す退屈極まりない永遠の一環であり、苦痛を越えた無感覚のひと時なのだ。 
 おにぎり二つとお茶を飲んで一息つくと座っていたベンチに携帯電話が落ちていた。 
 肝蔵は現代のブサイク迫害の風潮によって作られた性悪である。早速ポケットに放り込むとそそくさと商用車に乗り込んだ。 
 さて、仕事も終わり定時に帰宅した肝蔵は携帯の持ち主を調べようと携帯を取り出した。 
 案の定何件かの着信履歴があったが特に気にせず登録してある人間を調べる。 
 男性女性共に半々、女には後でTELセックスまがいの電話をかけてやろう。 
 続いて写真を調べる。かわいい女子の写真があれば速攻でセンズリボッキッキスタンバイだ。 
 しかしどうでもいい風景や小物、生き物の写真が出るばかりでチンポも頭も沸騰しそうだ。 
 結局くだらない写真のみでかわいい女子は一枚も無く、ちょっと興味深いのはUFOの写真くらいだった。 
 「ヘルファック!!」怒号と共に携帯を叩きつけようとした肝蔵だがギリギリで踏みとどまった。 
 メールもチェキらなきゃなんねぇ・・・。彼氏、あるいは彼女とのエロメールのやり取りでズリセン可能と判断したのだ。 
 わくわくしながらメールを見るが仕事上の事務的なやり取りしか目に入らない。 
 結局途中でどうでもよくなりメールを見るのもあきらめた。 
 「んだよぉーチクそー!」仰向けに寝転ぶ肝蔵。するめを噛み噛みしたところであることに気づいた。 
 SDカードにエロ写真があるかも!!愚息に灯った炎は消えない、すぐさまエロSDを詮索する肝蔵。 
 エロSDの一枚目の写真がキタコレやべえエロスーツのキューティーガール!!しかも透けチクしてね?してるね 
 爆速でシコる右手は本当に炎を上げそうだった。 
 「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」アーーアーー(天使の歌声) 
 さて、戦も終わり一息つく肝蔵。そのとき件の携帯が突然鳴った。 
 「うをっ?」びっくりして落とした携帯が顔面を直撃した。鼻血を拭きつつ携帯を覗き込むとそこには 
 【事務所】からの発信。 
 さては携帯を無くした本人が事務所の電話でかけて来ているのだろう、そう思いシカトを決め込んだ。 
 
 
 しかし、呼び出しが止むことは無い。怒りのあまり肝蔵は携帯の電源を切ってしまった。 
 それから二時間ほどしただろうか。肝蔵の愚息は再び右手を所望しだした。さすがにもういいだろうと携帯の電源を入れる。 
 相手方もあきらめたのだろう着信はすでに、というかやはり無く肝蔵はエロSD様を呼び出した。 
 一枚目、先ほどのキューティーガールの写真もよいが他の物もないかとサムネイルを見る。 
 エロスーツのキューティーガールが写った写真、そのガールが拳銃を持つ写真などがある。 
 まわりのオッサンやらも同じ格好をしていることから恐らくコスプレイヤー集団がこの携帯の持ち主では無いかと思われた。 
 他の女はいないかとチャカチャカ携帯をいじっていると・・・ 
 「うおっ!?」思わず驚きの声をあげた肝蔵が見つめる携帯には、血塗れの肉塊をバックに微笑むキューティガールだった。 
 「なんで?え?何?」写真にはどう見ても人間の死体の様な物やもはや原型を留めてないモノが写っている物もあった。 
 「えぇぇ・・・はぁ〜?何だよぉ」言葉も無い。それ以上に何で彼女は異常なモノを前に笑っていられるのか!? 
 ティムポもまさかの事態に萎え萎えの肝臓。そんな時ダークSDにムービーも入っているのを見つけた。 
 この後肝蔵は止せばいいのに好奇心が先行してしまう己を呪うことになる。 
 「ハァ、ハァ、どっち行った?」タッタッタッ 
 「あっち!・・た!いたいたそこ!!」 
 「ハァ、殺せ!こっ・・・殺・・・殺せ!!ッグ!はぁ、はぁ」タッタッタッ 
 パン!パン!パンパンパン!! 
 「ああああああああああああああああああああっ!!うーっ!ぶぅ〜〜〜っ!!うぅぅぅぅー!!」ズチャッ 
 「やったやったやった!!こっああ、殺した!!ははぁ!」 
 「はぁ、はぁ、おっけぇ?はぁ、うん、はぁ、よし死んでる、はぁ」 
 「はははあぁ!!はあ、やったぁ〜!撮れてる?ははは」 
 「はぁ、はぁ、うん、撮れてる。はぁ、へへ、はぁ」ブチッ! 
 
 「・・・何だこれ」明らかに森?の様な場所で公然と人殺しが行われていた。映像は乱れていたが最後に写ったのはどう見ても・・・ 
 人を殺して笑ってる?平然と殺害、逃げる人を後ろから銃で容赦無く。異常なのはその場面を携帯に録画していることだ。 
 これは厄介な物を拾ってしまった・・・EDになりかねないトラウマを肝蔵が負ったその時、再び携帯が鳴った。 
 【事務所】 
 肝蔵は全てを悟った。公然と人殺し、拳銃、そして事務所・・・ヤクザ。 
 恐怖に駆られ携帯の電源を切る肝蔵。この携帯は明日もとの場所に捨てよう、綺麗に指紋を拭いて! 
 いや、置く所を誰かに見られるかもしれない。そうだ、近くの川に捨てるか?そんなことを考えたその時。 
 マァーックゥースハァーッ!プリッキュアップリッキュァッ!肝蔵の携帯が鳴った。かけてきたのは・・・ 
 見知らぬ番号・・・いや見覚えがある。そう、ついさっき・・・事務所!! 
 「うわあああああなぁ〜んで!?」思わず電源を切る。何故!?尋常じゃない情報網・・・プロヤクザ!? 
 何故かとっさに部屋の電気を消す。それと同時に外で車のドアが閉まる音が聞こえた。 
 バン!バンッ!バム! 
 三人?包囲済みかよ!?さすがプロヤクザ?「ふhぇう、どうするよ?どうするか?」独り言も増える。 
 ポリス!いやダメだ、プロヤクザとポリスは上が繋がってそうだ。助けを求めて署内で変死は洒落にならん! 
 ならば・・・戦うしかないか? 
 実はこの肝蔵、かつて自衛隊に所属していた。モテナイキモイブサイク三重苦を必要としてくれるのは国のみと信じたからだ。 
 陸軍でも一番と言える能力を持つ肝蔵だったが、国が自衛隊のポスターに自分を使わずあまり能力が高くないイケメンを 
 使った事と禁欲生活に耐えられずに後輩を襲い、ケツに重症を負わせたために除隊処分になった過去を持つのだ。 
 そう、彼は素手で人を殺せるほどのパワー・エリートなのだ!!三人四人、かかって来い!! 
 ドアの前に人の気配、呼び鈴が鳴る。ドアを開けると同時に手刀で首を跳ねてやる!! 
 ガチャッ!!目の前には数時間で評価がMAXからどん底に下がったキューティーガールが。「ちぇすとお!?」 
 手刀は彼女の首を跳ねる前に、ドアの横に構えていた男に突きつけられた銃によって止まった。 
 「手癖悪 肝蔵さん?確認する必要も無いか。この様子じゃ。何で来たかわかるよね?」 
 「しら、知りません。何でこんなことしますか?僕コロスですか?やれよおおおおおっ!!」錯乱する肝蔵。 
 「お前は知りすぎた。私達もお前を調べた。同じね、おあいこ。ね?」 
 「もおおおおおおおおお!!殺すんでしょぉ?早くぅ!やだぁぁぁぁ!ヤクザってもおおおおおおお!!」錯乱する肝臓。 
 「はは、殺すには惜しいけど死ぬか消えるかしてもらおうかな?まあ消えるしかないんだけど。さあ行こうか、はは。」 
 「何でクソッ!もおおおおおおおお!!はぁ〜うぇ〜ん」自分の死を悟った肝蔵。 
 その後、彼の消息を知る者はいなかった。 
 
 3ヵ月後。 
 「たかしさん、起きて下さい。朝ですよ」 
 そこには例のキューティーガールと共に暮らす肝蔵の姿があった。しかし、彼の名は隆史である。 
 パラレルワールドがあればこれもいくつかある無限の可能性のひとつだったかもしれない。 
 「ふぁぁ、今日は日曜だろ?会社も休みなんだからまだ寝かせてよ。」 
 いや、これは紛れも無い現実なのだ。では一体何が起こったのか? 
 「もう、日曜だからってそんなグータラしないで・・・」その時、彼女の携帯が鳴った。発信は【事務所】 
 「はい、はい。了解!あなた!いえ、ホメロス2!仕事よ!」あわてて飛び起きる肝蔵。 
 「ターゲットはっ!?」コスチュ−ムに着替える肝蔵。 
 「コツヌキ星人、地球名は姉歯、特徴はズラを被ってるメガネよ!!今ブラヴォーチームが富士樹海に追い詰めたわ!!」 
 「狩場にね。すぐに出動する!流星号を出してくれ!!」 
 そう、小笠原隆史は世を忍ぶ仮の姿。今、この地球には人の皮を被った宇宙人が大量に潜伏している。 
 彼はその中の犯罪宇宙人をやっつける国際機関、黒い男達日本支部の一員となったのだ!! 
 「よーし行くぜ!!悪魔宇宙人どもを根絶やしにしてやる!!」 
 「うふ、私が見込んだだけあるわ!素敵よ!愛しちゃう!!」 
 「そうだ、ミホ、いやピョォッコム、この仕事が終わったら・・・結婚しよう!」 
 「あ・・・うれしぃ。でも・・・私の星、水がドクターペッパーだよ?」 
 「ン〜その辺は、根性カヴァー?」 
 「イエーッ!」 
 「行くぜ!!悪徳宇宙人、ぶっ殺してやる!」バフ〜〜〜ッ!! 
 手癖悪 肝蔵、いや、小笠原 隆史は緑の地球、そして愛する者のため、今日も戦うのであった。 
 
 完 
 
 *ギ音 [#j188e000]
 全ての擬音がギギギギギと聞こえる奇病に罹った。
 朝だ。ギギギギギ。雀の鳴き声が聞こえる。 
 ギイとドアを開けギギギと響く階段を降りて、 
 母さんが茶を淹れてくれた。ギギギギギ。 
 うるせえよ、と呟いたら母さんはギギと青ざめた。 
 ギギギ。玄関に出ると車がギギギギギ。 
 ホームにギギギギギと音を立てて電車が入る。 
 ギギギギギ。ギギギギギギ。ギギギギギギギギ。 
 絶えなく起こるギギギギギはさすがに堪えられない。 
 ギギギと青筋を立てる俺を遠巻きに見る乗客。 
 ギギギギギと到着する音の判別が付かない。 
 学生の雑踏がギギギギギ。 
 ギギギ、昨日さあ。ギギギ、あいつは馬鹿だ。 
 ギギギ、腹減った。ギギギ、処女じゃねえよ。 
 ギギギ、気持ち悪い。ギギギ。ギギギ。 
 奴らの笑い声はギギギと聞こえるのだが、 
 向けられてるのは俺だ。 
 ギギギギギ。とうとう俺は笑い出した。 
 ギギギギギ。ギギギギギギギ。ギギギギギギギギ。 
 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ。 
 
 ギギギ。「お前さあ」(寄るな) 
 ギギギギ。「言いたかねえけどさ」(その不快な―) 
 ギギギギギ。「さっきからキモい顔してさ」 (その不快な雑音をギギギ) 
 ギギギギギギ。「ギイギイギイ笑ってんじゃ…」「(止めろ。)」 
 
 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ。 
 
 そして全ての雑音が止んだとき、 
 俺は初めて自分の笑い声に気付いた。 
 
 
 *安定 [#j519e700]
 今まで、自分は安定した人生を歩んできた。学校では先生から「おとなしい子」といわれていた。進学高に入り、それなりにいい大学に入った。恋愛もしなかった。とにかく地味な奴だった。 
 運動でも勉強でも決して1番をとらず、そこそこだった。目立ちたくなかった。青春なんて考えた事もなく、気付いたら10代をすぎていた。 そんな時、自分の部屋からノートをみつけた。高校時代のだ。赤丸と数式がぎっしり書きこんである。「懐かしいな..」 そういえば文化祭も体育祭も皆でダンスや看板塗りをやっていたのに、自分は手伝いもなにもやってない.....。ページの最後に「俺は何もやっていない!!」と書いてあった。せめて何かやりたかった。という気持ちだろう。大きな字で書いてあった。 そうだ。高校生に戻ろう。1日だけでもいい。仕事を休んで、学生時代に戻りたい。やりのこした事がたくさんある。 正直、今の職場には不満だった。やりがいもなく、人間関係も悪い。元々すきで入った職場ではない。それなりに給与が良かったから面接を受けてみたらうかってしまったのである。 明日会社に行ったら、休む事を伝えなくてはいけない。 
 プルルル..上司から電話だ。ちょうど良かった。 
 
 ガチャ 
 「お疲れ様です」 
 「よう。お疲れ」 
 「どうしました?」 
 「明日の事なんだが..」「あ、明日休みます!私用があるので!すみません!」 
 「そうか..休まなくていいぞ。」 
 「はい?」 
 「明日からお前は解雇だ。」 
 「・・・」 
 「前から言ってただろ?この会社は実力主義で、結果ださなきゃきられるって」 
 「そうですか..」 
 「今までよく頑張ってくれたな、お疲れさん」 
 プツ ツーツーツー 解雇、ときいて逆に嬉しさがこみあげてきた。ようやくあの職場から解放される。自由なのだ。苦しんで起きた朝も、今ならのんびり寝れるし、通勤で急いた道も、空をみながら散歩できる。 さて、何をしようか.... 
 そうだ!!まずは.. 
 次の日、俺は、なつかしの高校へ向かっていた。 
 青春を、とりもどすために。 
 
 服装は制服、時間は夜。場所は..なつかしのわが母校。「やっと来た..」空気を胸一杯に吸い込む。 だが社会人が制服を来て真夜中の高校にいる、この状況はあやしすぎる。そう長くはいられない。だから、教室と家庭科室と体育館だけに行く事にした。 〜教室〜 
 机がきれいにならんである。自分の机をみた。「彫ったらくがき..変わってないな」机をなでる。真っ黒の俺の机。傷が多くなったようだ。椅子に座ってみる。ふと先生の声がきこえてくる.. はっ!と気付く。いつのまにか昔に戻り、授業を受けていた錯覚におちいっていた。
 夜の学校は暗くて気味が悪い。ようやく家庭科室に着いた。
 家庭科の先生には本当にお世話になった。暗い俺をうまく班に入れてくれたし、調理実習も手伝ってくれた。あまった料理をこっそり俺にくれた事もある。お礼の意味もあってきたのだ。 
 
 〜家庭科室〜 
 棚をのぞいてみる銀の食器、白い皿。なんとなくフォークを手にする。ナイフも皿もそろえてテーブル上に並べたかったがやはりやめた。ナイフが不気味に見えたからだ。 
 
 〜体育館〜 
 最後に体育館にきた。最後にやはり大きい所にきたかったのである。クラスメイトとバスケをした風景が浮かんでくる。 
 
 体育館は暗い。明かりといえば月の光だけだ。だが、真っ暗な体育館の中で、しばらくまた昔に浸っていた。 
 さて帰るか、という所で気付いた。暗いが、窓から差す月の光でぼんやりとみえる。扉が少しあいている。体育倉庫だ。さっきはきがつかなかったのだろうか?扉はしまっていたような気がする。扉に近付いてみる。わずかにあいている。確か学生時代な鍵でしまっていた。南京錠ははずれたままぶらさがっている。 せっかくだから入ってみた。といっても何もない。 バレーボールの入ったかご、バスケの試合用タイマー、体操用マット、ユニフォーム、上からぶらさがっている太い綱。そういえばこの綱だけは得意だった。登り降りするぐらいだったが。 せっかくだからのぼってみるか。綱を掴み、少しずつあがっていく。しんどい。息「誰だ!?」一瞬目がみえなくなる。まぶしさに目をこらすと.. 
 管理人だった。「すいません、ついなつかしくて母校に..」といいかけるが、管理人はいぶかしげだ。「学生さん?それとも勤めてるの?」 
 がきれる。てっぺんまであがって、マットの上に体をなげだす。その時だった 。
 
 隠したら不審者に疑われると思い。正直に話した。「会社は先日クビになりまして..」「クビ?どこの会社?」「株式会社××です」 
 「××!?」 
 管理人の顔が固まった。管理人が息を飲む。 
 「..上司の名前は..?」 
 なぜそこまで聞くのだろう、と思いつつ答えた。 
 管理人が俺に震えた指をさす。「人殺し..人殺しだ!!」耳をつんざく声。俺は近付いてみる。「あの..」 
 悲鳴が響く。「近寄るな!人殺しぃぃ〜!!」管理人は壁の緊急用ブザーを押し、脱兎のごとく逃げていった。 
 俺は走っていた。こんなに走ったのは生まれてはじめてだ。 
 人殺し! 
 先ほどの管理人の声がまだ耳に残っている。パトカーの音が聞こえる。 
 ジリリリリ!! 
 サイレンがなる。赤いランプが照らす。なんで俺が人殺しになるんだ!?慌てて逃げる。 
 玄関にむかったが、廊下にシャッターが降りている。必然的に上へ上へと逃げる。 
 教室にたどり着く。パトカーの音が近付いてくる..なんでだ!?俺は何もしてない。母校にきてみただけだ。ほんのちょっと昔に戻ってみただけじゃないか! 
 俺は人殺しなんかじゃない!!何もやっていない!!発作的に近くのノートをとり、かきなぐった。「俺は何もやっていない!!」 
 犯罪もしていない。学校でも決して目立つまねはしなかった。今日の今日まで、安定した高校を出て安定した大学を出て安定した就職をして安定した生活をして..安定..安定.. 
 昨日に戻りたい!昔じゃなくていい! 
 学生じゃなく..普通の人に.. 
 俺に..安定を.. 
 〜後日〜 
 「T県T市の会社員Aさん(32)が他殺体で見つかった事件で、容疑者がついに逮捕。調べでは、容疑者は前日にAさんから解雇をいいわたされ、それを恨み絞殺したとみられる。死体には首を絞められた跡があり、それとB高校の体育倉庫にあった縄が一致。 
 
 次の日にB高校に入り凶器を隠したものとみられている。容疑者の指紋も一致。話しによると、職場では上司のAさんと関係はよくなかった。が、普段はおとなしく目立たない性格だったらしい。本人は容疑を否定しているが、取調べをしていく予定。県警察捜索本部の調べでわかった。
 *恋愛マニュアル [#k0acf934]
 20XX年XX月。 
 深刻化する少子化問題を解決するため、 
 「恋愛マニュアル」策定委員会が立ち上げられた。 
 (以下、第1回議事録より抜粋) 
 
 議長: 
   本日は重大な課題である少子化対策について、 
   お忙しい中お集まり頂き嬉しく思う。 
   マニュアルを策定するにあたり、皆さんの自由闊達な意見をお聞きしたい。 
 イケ田議員(以下イ): 
   いきなりの批判で恐縮ではあるが、 
   そもそも恋愛にマニュアルは必要であるのか。 
   私の知る限り、若者は自由恋愛をますます楽しんでいる。 
   目下危急な問題は、出産についての意識向上ではないか。 
 DQ野議員(以下D) 
   そうだ。問題はSEXであり、 
   コンドームを着けたSEXに愛はないと言わざるを得ない。 
 喪々地議員(以下喪): 
   そうではない。恋愛は経済と同じく2極化が進み、 
   イ議員の知らない所で恋愛を享受できない若者は 
   増加の一方を辿っている。今こそマニュアルを策定し、 
   一方的でない恋愛の民主主義を目指すのが今委員会の目的だ。 
 イ:恋愛マイノリティの存在については知っている。 
   だが、彼らは得てして生産力が低い層であるし、 
   遺伝子としても劣(以下校閲削除) 
   マニュアル策定までの費用対効果があるか、非常に疑問である。 
 D:そうだ。童貞は非常に問題であり、 
   童貞が許されるのは小学生までと言わざるを得ない。 
 喪:イ・D両議員の意見は偏見に満ちている。 
   恋愛マイノリティは鋭い知性とを持つ傾向を持つとの調査結果もある。 
   しかし彼らはその鋭さゆえに、得てして恋愛のイロハを知らずに成長しがちだ。 
   外面的劣等感が内面的劣等感を生む、これが悲劇でなくして何であろうか? 
   マニュアルの策定こそが、悲劇のサイクルを打ち破る一歩だ。 
 イ:喪議員はマニュアルに固執しているように思われるが、 
   それ程有効であるなら、まず素案を出してもらいたい。 
 喪:素案は既に用意している。お手元にレジュメを配布したのでご覧いただきたい。 
 D:正上位より背面位の方が妊娠確率は高いという事を盛り込んでいるか? 
 
 イ:喪議員に質問がある。この「フラグが立つ」とはどのような意味なのか? 
 喪:意中の女性に恋愛感情の萌芽が生まれる瞬間の事だ。 
 イ:「幼馴染が起こしに来たとき」とあるが、そもそも幼馴染を持つ事が希少では。 
 喪:幼馴染のケースが増えるように、何らかの法改正は必要かもしれない。 
 イ:「メイドにお茶を零されたとき」とあるが、家政婦のことか。 
   なぜ家政婦である必要があるのか。 
 喪:要素として欠かせないからだ。 
   精度を高めるため、獣人、ロボット、幽霊などあらゆる要素は用意している。 
 イ:余りに非現実的ではないか。 
 喪:現実を的確に見つめた素案であると自負している。 
 イ:議長、ご意見を。 
 議長:この素案は非常に有効である。 
   第1回委員会にふさわしい成果として、今後の議論の中心にしたい。 
 (なお、DQ野議員は女性団体との会合のため途中退席) 
 
 議長:以上で第1回委員会を終了する。皆さんありがとうございました。 
 イ:非常に不満の残る結果である。党より正式に見直しを申し出るつもりだ。 
 喪:将来に展望を持てる、意義深い議論であったと思う。 
   なお、素案を策定するにあたって多大なご協力をいただいた 
   本議会議長にお礼を申し上げる。 
 イ:お前らグルかよ。 
 
 
 
 *瞬間喪動 [#h5b8766b]
 
 
 あの日、俺はフラれた。 
 世界が不規則に流転し、そして緩やかに停止した。 
 俺の時間は、あの日から動き出そうとしない。 
  
 話は、3日前に遡る。 
 女子社員に無視され、上司のイヤミに疲れ果て、いつものようにベットで 
 横になっていた。 
 すると、変ななオヤジが枕元に立っていた。 
 「オマエ、あんまりにも可哀相だから、時間を止める能力をやろう。 
  使用可能回数は3回で、一回目 30分、二回目 1日、三回目は3ヶ月。 
  じゃあ、うまくやれよ・・・・あ、発動の呪文を忘れるとこだった。 
  呪文は、『モツ』じゃ」 
  
 オヤジが煙の様に消えさった後、しばらく呆気取られていたが、悪い夢だと 
 再び横になった。しかし、気になりなかなか寝付けなかった。 
 自分の気を晴らす為、横になりながらも、「モツ」と言った。 
 ・・・何も起こらない。 騙されたと思って寝返りをうとうとすると、異変が 
 起きた。体が動かない。 
 目と手は微妙に動けるので動かすと、枕元に置いたアナログ腕時計が止まっているのを 
 確認出来た。 
 ・・・時間が止まっている。でも俺の中の時間も止まっている。 
  
 次の呪文を使う機会はすぐに訪れた。 
 有意義な魔法の使用法を考えながら街で信号待ちをしていたときに、2組の女性の 
 声が同時に響き渡った。 
  
  
 母親の手から離れる乳母車と、悪戯な風で舞う女子高生軍団のスカート。 
 乳母車は、猛スピードで行きかう車の波に向かっていた。 
 2組の方向は、まったく180度逆で、時間を止めても同時に見ることは出来ない。 
 俺は顔だけ、乳母車を向く、不自然な体勢で、『モツッ』と叫んだ。 
  
 一瞬の静寂、俺は乳母車を蹴倒した。 
 他の人がすでに乳母車に手をかけ、止めたのに、そんな乱暴な真似を 
 した俺に、母親が突っかかってきた。 
 しかし、次の瞬間、ガシャーンという音が響き渡った。 
 乳母車のあった場所には、植木鉢の破片が散らばっていた。 
 赤ん坊は、道路わきの植木の上ですやすやと寝ていた。 
  
  
 考えた末の最後の一回の使い道は、あこがれの美咲ちゃんに告白するときに使用する 
 というものだった。 
 俺は喪男だ。絶対、告白する時にパニックになって、訳解らんことを言い出すに 
 決まっている。そんなときに、この呪文を使えば、ゆっくり3ヶ月も考えて、話を 
 考え直すことができる。喪男に足りない自信の無さからくる余裕を、この呪文は 
 与えてくれる。 
  
 そして、告白の時、美咲ちゃんを前に早くも、緊張が最高潮に達した。 
 告白始めて、数秒で彼女と間にヤバイ空気が流れたので、『モツ』と叫んだ。 
  
 おーーけーーーい、俺。まだ、仕切りなおせる。 
 ゆっくりと、落ち着いてから、また話し始めればいい。 
  
 時間が経つに連れ、頭が鮮明になってきた。停止した美咲ちゃんにさえビビっていたが、 
 次第に慣れた。 
 しかしながら同時に、もしこの告白が成功しても、その後、関係を持続させられるかを 
 考え出すようになった。 
 目の前の美咲ちゃんの顔も、あきらかに嫌がっている顔をしている。 
 俺は後3ヶ月近く、不安に溺れ苦しむのか・・・・・ 
 
 俺の時間は止まったままだ。 
  
  
 そして、時間は動き出した。 
 結果は聞くまででもなかった。 
  
  
 帰り道、俺は、失意のどん底の顔で、電車に乗った。 
 ベルが鳴り終わる寸前、誰かが乗ってきた。・・・美咲ちゃんだ。 
 電車は発車し、彼女は彼女は丁度俺の前に背を向けて立っていた。 
 その時、急ブレーキがかかり、彼女は俺に半身の体勢で寄りかかってきた。 
 俺は思わず、『モツ』と呻いた。 
  
 ・・・あれ、時間が止まっている。 
 アナログ時計を横目で見ると、止まっていた。そのとき、アナログ時計は 
 三日前以前から、電池が切れ掛かっていたことを思い出した。 
 ・・・・・・・最初の一回は、金縛り? 
  
 ふいに、甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。 
 やわなかな・・ 
  
 ぼおおぼぼぼぼぼぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 
 さあsぢふぃあsdふぃsふぃいふぃsdふぃふぃsふぁふぃしあ 
 フォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 
  
  
 俺の股間は止まったままだ。 
 
 
 *喪ウソウ [#t48db30a]
 俺は今日、なんとなく違う道で帰ってみようと 
 仕事帰りに見つけた舗装もされていないあぜ道を歩いていた。 
 人通りの全くない森の脇の裏道。 
 そこに彼はいた。 
 「喪ウソウ〜、喪ウソウいらんかえ〜。」 
 胡散臭いサングラスの男が駅弁売りのような箱を肩から提げて立っていた。 
 「お、旦那、良い所に来たねェ〜。喪ウソウ買わないかい?」 
 こっちに気づいた男は話しかけてくる。 
 この周囲には俺と彼しかいない。スルーするわけにもいかないだろう。 
 「喪ウソウ…?」 
 「そう、喪ウソウ。」 
 そういって男は箱から眼鏡のような物を取り出した。 
 形こそ眼鏡だがレンズの部分は黒く塗りつぶされてサングラスのようだ。 
 「こいつをかければあら不思議。リアルな喪ウソウ世界へご招待だ。どうよ旦那。」 
 この男は何を言っているんだ…。あまりに言動が突飛過ぎる。 
 眉をひそめていると男はまだ続ける。 
 「あ、旦那ァもしかして信用してらっしゃらない?」 
 「まぁ…、唐突ですし。」 
 「じゃ、これを差し上げましょう。」 
 そう言って男は提げている箱の隅の方からひとつの眼鏡を差し出した。 
 「試供品です。タダで差し上げますわ。気に入ったらまたここにいらしてくださいや。」 
 「あ、どうも…。」 
 「家に帰って部屋で一人で見て下さいね。かければすぐに始まりますから。」 
 「はぁ…。」 
 かなり妙な話だが、にこやかに笑う男に背を向けて俺は帰路についた。 
 
 「喪ウソウ…ねぇ。」 
 家に帰り部屋で受け取った眼鏡を眺めるがどう見ても普通の眼鏡にしか見えない。 
 「まぁ…やってみるか、タダだし」 
 そう呟いて眼鏡をかけた瞬間―― 
 
 俺がいたはずの小さなアパートの一室は、大きな畳部屋に変わっていた。 
 「なんだ!?」 
 慌てて眼鏡を外す。俺はアパートの部屋にいる。 
 眼鏡をかける。そこは畳部屋だ。 
 「…そういうコトか。」 
 しかしそれで何だというのだろうか? 
 やたらと広く見える畳部屋が見えるだけだ。 
 ――トントン 
 部屋のふすまをノックする音が聞こえる。 
 「失礼します。」 
 ふすまを開けて入ってきたのはお盆を持ったおっさんだった。 
 いつの間にか俺の前に置かれていたちゃぶ台にお盆の上の器をおっさんが置く。 
 それはホカホカと湯気を立てている味噌ラーメンだった。 
 「?」 
 「では、次を持ってまいりますのでその間におあがり下さい。」 
 目の前にはハシとラーメン。俺の好物だ。 
 
 いや、食うしかねぇだろう。 
 
 ハムッ ハフハフッ ハフッ! 
 
 うまい、やたらとうまい 
 なのに最後の一滴までスープを飲んでも腹にたまることは無かった 
 「失礼します。」 
 そう言ってまたおっさんが入ってくる。見ていたかのようなタイミングだ。 
 「どうぞ」 
 またラーメンだ。今度はとんこつスープのようだ。 
 これは… 
 「おっさん!」 
 「はい」 
 思わず変な眼鏡をかけていると忘れておっさんに声をかける。 
 しまったと思ったが、おっさんはなんと返事しやがった。 
 「なんでしょう」 
 思わず絶句する俺。いやそもそもラーメンの味がしてる時点でおかしいと思えよ俺。 
 「…もしかして、いくらでも食わしてくれるのか?」 
 「はい、とりあえず好物をご用意させていただきましたが、ご注文にも応じます。」 
 「――!!」 
 
 俺は夜があけるまで、好きな物を好きなだけ食いまくる喪ウソウに浸った。 
 
 次の日の帰り道、俺はまた裏道にやってきた。 
 「彼」に会うためだ。今日も彼はそこにいた。 
 「喪ウソウ〜、喪ウソウいらんかえ〜。」 
 「こんにちは。昨日はどうも。」 
 「あ、昨日の旦那!食べ放題の喪ウソウはどうでしたかい?」 
 「楽しませてもらいましたよ。あれはどうい仕組みなんですか?」 
 「っははぁ、そいつはちょっと言えやせんなぁ。企業秘密なモンで。 
 でも、面白かったでしょう?買って行きませんか旦那?」 
 「えー、でも使い切りじゃなぁ…。」 
 昨日の食べ放題の喪ウソウを見せてくれた眼鏡は、今朝も味わおうと 
 かけてみたがただの黒い眼鏡になっていたのだ。 
 「いえいえ、それは試供品だからですよぉ。買っていただければ、いつまでも使えますよ〜。」 
 「ん、そうなんですか。」 
 「えぇ、しかも食べ放題だけでなくいろんなジャンル、面白いのからエッチなものまで 
 いろいろありますぜぇ。どれも1000円ポッキリだ!」 
 「じゃあ…エッチなのいくつか貰おうかな」 
 「毎度!旦那も好きだねぇ〜」 
 
 その日から俺は喪ウソウの虜になった。 
 自分で何も考えなくても、冒険、笑い、欲望、あらゆるものをゲームよりリアルに 
 かつ自分を主人公にして見せてくれる。 
 勇者にもなった。イケメンにもなった。魔法少女にもなった。機動兵器のエースパイロットにもなった。 
 それはとても楽しい日々だった。 
 
 俺はまた裏道に来ていた。 
 「やぁ…。」 
 「あ、旦那、またですかい?大丈夫なんですかぁ?」 
 喪ウソウにハマってからの俺はもう酷かった。 
 食費を削り喪ウソウだけに金を使い職場でもロクに働けず 
 手持ちの金も底をつきかけていた。 
 「あぁ…大丈夫だ…。」 
 そうは言ったが最近ロクに食った覚えが無い。 
 だがやはり彼が次々に持ってくる新作の喪ウソウは 
 金をつぎ込む価値それでもが充分にあると俺に思わせていた。 
 「そういえばあんた。」 
 「なんです?旦那」 
 「その話のタネは一体どこから持ってきてるんだ?」 
 色々と喪ウソウは見てきたが正統派なものから突飛なものまで非常に沢山の種類があった。 
 一人ですべて作れるような感じではない。 
 「お、旦那、気づかれなさいましたか。」 
 「?」 
 「実はですね。この喪ウソウ、素人作品なんですわ。」 
 「素人作品?」 
 「お得意様ですし、特別に旦那にはお教えしましょうか。 
 何も入っていないこの眼鏡をかけてですね。強烈に妄想するんですよ。 
 そうするとその強烈なイメージがこの眼鏡に宿るんです。 
 で、それを妄想癖が凄い人複数に依頼してるんですわ。」 
 「ってことはコレ、元は他人の妄想なわけか…。」 
 「そうなりやすね。あっしはそれを買い上げて商売してるんでさぁ。」 
 「それ、俺にもできるかな…。」 
 「どうでやしょ、ある程度の素質は必要になりやすが…。 
 あ、試しに試供品の空の眼鏡でやってみれば良いんじゃないでやしょ。」 
 「試供品の?」 
 「へい、あれでできれば素質アリってことになりやす。」 
 「わかった、帰ってやってみる。強く妄想すれば良いんだな。」 
 「そうでやす。一応がんばってみてくだせぇ。」 
 
 部屋に戻って最初にかけた眼鏡を探す。 
 眼鏡だらけになった部屋で探すのには時間がかかったが、まだ捨てていなかったようだ。 
 さっそくかける。いつものような喪ウソウは始まらない。 
 「イメージするんだ…。強く…強く…。」 
 そうだな…まずは… 
 
 「…どうだ?」 
 「いや旦那、こりゃ凄いよ。これこのまま高値で買い取らせて貰いまさぁ。」 
 俺は裏道に自分の喪ウソウを持っていった。どうやら素質はあったらしい。 
 「いや、お得意さんがこんな凄い物作れるお人だったとは… 
 これ、空の眼鏡です。好きなだけ作ってやって下さい。 
 旦那の作品だったらどんなものでも買い取らせて貰いますって!」 
 
 俺はプロの喪ウソウ作家になった。 
 好きなだけ喪ウソウをし、そして稼いだ金で他人の喪ウソウを楽しんだ。 
 「俺は…勝ち組だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 
 
 ――俺はアパートの一室で試供品の眼鏡を外した。 
 「どうでした?試供品」 
 「結構楽しめましたよ。いっぱい見れましたし。所で、このプロ作家っているんですか?」 
 「そいつは企業秘密でやすよ…。」 
 
 
 
 *喪ずのはやにえ [#u91d60c9]
 
 僕が好きな志保さんは、長い髪だ。 
 彼女には短い髪が似合うと思ったので、彼女にそのことを 
 赤面しながら伝えると、 
 「ショートにすると耳元が寂しくなるから、良いピアスあったら 
  考えてみようかな」と、笑って答えてくれた。 
 僕の頭の中は、漆黒の髪に隠された可愛い耳に光るピアスで一杯になった。 
 
 次の休日、僕は即座に行動に移した。 
 安月給なので、自分の魂より大事なヲタコレクションを売り払い、 
 高価なピアスを購入した。 
 
 
 ――数日後、志保と彼女の友人が久し振りに再会した。 
 
 「志保、またバッサリ髪切ったの! これで何度目?」 
 
 志保は笑いながら、まだ切ったばかりの髪を撫でた。 
 その手の下では、いくつもの高価なピアス達が煌めいていた。 
 もちろん、その中には彼女の耳に串刺しにされた僕の魂も・・・ 
 
 
 
 *喪林サッカー [#u538755d]
 
 建前上、女人禁制となっている(←強がり)喪の里には、一風変わった 
 若者達がおった。 
 ある日長老が倒れ、お金が必要になった。 
 すると、サッカー大会が街で開かれ、優勝したチームには賞金が与えられる 
 ことを風の噂で知り、彼らは出場を決めた。 
 
 
 大会はトーナメント形式で、彼らは順調に勝ち進んだ。 
 そして、決勝の相手は『チーム・イケメン』 
 激戦の末、延長Vゴールまで試合はもつれ込んだ。 
 しかしながら、首筋のキスマークを見せ付けるイケメン攻撃に混乱したDFが、 
 ペナルティーエリア内で服を脱ぎだし、まさかの一発退場でPK。 
 
 誰もが負けを確信したその時、「待てーーーーーい!!」 
 と、聞き覚えのある声。 
 
 そこには、道路に転がり落ちたキュ○ホ○イト(限定版)を自転車から庇って負傷し、 
 決勝まで欠場していた正守護神がいた。 
 
 交代した守護神が、イケメンキッカーの前に立ちふさがる。 
 背後のスタンドからは、喪男に対するギャルの罵声。 
 この迫力には、喪男でなくてもたじろいでしまう。 
 
 PK開始の笛・・・・・・ドカッ!! 
 キーパーは腕組みをしたまま、微動だにしていなかった。 
 しかし、ボールは空中で静止していた。 
 
 ・・・なんと、キーパーの胸ポケットでキュ○ホ○イト(限定版)が 
 ボールを受け止めていたのだ。 
 
 「悪いが、俺にはブーイングは効かないぜ。なんたってドMだからな」 
 
 
 フィードバッグされたボールは、DFの喪吉に渡る。 
 3人ものイケメンが襲い掛かるが、予測不明のキモい動きでかわす。 
 ――そう、彼は挙動不審な天才ドリブラー 
 
 だが何も無い場所で喪吉は躓き、こぼれたボールがMFの喪太郎に渡る。 
 次の瞬間、警戒され、がっちりパスコースを消されても、針穴に糸を 
 通すようなパスが、味方に通った。 
 ――そう、彼は目を合わさない、というより、むしろ目を合わせられない天才ノールックパサー
 
 そこに、空気のような存在感でスペースに走りこむFWが一人。 
 ――そう、彼は気づいたら周りに人がいない天才ストライカー 
 
 
 ボールは、スタンドの溜息とともに、ゴールに吸い込まれた・・・・ 
 
 
 
 
 
 試合後、賞金を手にした喪男たちの元に制服を着た女子校生が数人駆け寄ってきた。 
 
 「かっこよかったですぅ。あたし、ファンになっちゃいました。」 
 これには、喪男達も度肝を抜かれた。 
 
 「ほんとに、サイコーでした。試合が始まる前は、正直オエッて感じだったけど、 
  試合中は素敵だったぁ。彼氏になって欲しいぐらい。 
  私、あなたのことが好・・・」 
 そこで、喪男はその娘の口をふさいでしまう。 
 喪男の顔は悲しみで溢れんばかりであった。 
 
 「それじゃ、駄目なんだよ。試合中の俺達は、喪だから強くなれたんだ。 
  もし、君と付き合うことにでもなったら、喪は喪でなくなってしまう。 
  だから気持ちは嬉しいけど、君とはここでサヨナラだ・・・」 
 
 喪男達は、静かにその場を立ち去った。 
 その顔には、悔いが無かった。 
 
 
 
 ――さあ、喪里(もり) に帰ろう 
 
 
 *連体保証 [#w9d20baf]
 
 男は連体保証の書類に印鑑を押した。 
 男の名前は池面太郎。学生時代には女子に圧倒的な支持を受け、 
 スポーツは中の上、大学を卒業後は会社で好成績を収めている。 
 一方、池面太郎に連体保証を持ちかけた人物は胆田喪一。 
 池面太郎とは対照的に学生時代は廊下ですり違えばキモイ、くさいと言われ、 
 スポーツはマラソンをすればビリ、サッカーをすればなぜかいつも顔面にボールを食らうという醜態で、 
 大学を出た後、落ち目と評価を受けている会社に入社し、その業績はその中ですら良いとは言えないものだった。 
 この対照的な二人がなぜ連体保証という一種の絆を結ぶのは、二人が大親友であることに起因するだろう。 
 連体保証の内容は、胆田喪一の母が急病で入院したため、その面倒を見るための借金であった。 
 胆田喪一の大親友で、胆田を信用している池面太郎は快く承諾したのであった。 
 
 数ヶ月後、池面太郎の住むマンションに一通の手紙が届いた。 
 内容はこうだった。 
 「連体保証人としてあなたに胆田喪一の借金を払ってもらいます」 
 逃げたのだ。胆田が。 
 
 その後、池面太郎は胆田の家に出かけた、事実を確かめるためである。 
 胆田の家に向かう間、町の中を歩いてる間、池面太郎はある言葉を頻繁に聞いた。 
 「キモーイ!」 
 
 周りには何もない、ただそこに取り残されてるとしか思えない、 
 古めかしくて小汚いマンション。胆田が住んでるマンションだ。 
 胆田が住む一室のドアの前に立つ。ドアをノックする。応答はない。 
 「おい、俺だ池面太郎だ。胆田いるか」 
 応答はない。池面太郎はドアノブを握る。ドアが開いた。 
 中に入って唖然とした。部屋には散乱する酒の瓶、ところどころからする異臭・・・。 
 胆田が首を吊っていた。そしてテーブルには一枚の手紙。 
 「もう疲れた」 
 
 翌日、池面太郎は絶望しながら会社へ向かった。 
 あの胆田が、大親友だと思ってたのに。 
 なんで俺を裏切ったんだ?なんで自殺なんか・・・。 
 さらに確認したら母親は入院なんてしてなかったじゃないか・・・。なぜ・・・。 
 そう思っていたら、いつのまにか会社に着いていた。 
 いつものように自分が働くオフィスへ行く。 
 そしていつものように「おはようございます!」そういって中に入っていった。 
 どんな事情があっても仕事は仕事だ暗いまま仕事をするのはよくない。 
 いつものように「おはよう池面君」「おっはよ〜う池面さん!」と反応が返ってくると思ったが違った。 
 「池面君・・・いったいどうしたんだね・・・?」「え・・・池面さん・・・・・キモイ」 
 気づけば脱兎のごとくトイレに駆け込んでいた。そして鏡を覗き込む。 
 そこには一人の醜い男がいた。 
 見れば吐き気のするような顔だった。しかもそれでいて見ればなぜか池面太郎だと分かる顔。 
 そう、昨日、胆田の家に向かう途中、頻繁に聞いた「キモーイ」という言葉は池面太郎に向けられた言葉だったのだ。 
 そして今日、彼はそれに気づいた。 
 なんでこんな顔に・・・・。なにかしたわけでもないのに・・・・。 
 その日は仕事も何もかもはかどらなかった。 
 
 その夜、池面太郎は改めて絶望していた。 
 友人の裏切り、なぜか吐き気がするほどキモクなった自分の顔。 
 そう思っているところにチャイムがなる。 
 「は―い・・・・。どなたさまですか・・・・」 
 「おう、わしは○×金融の者や。昨日、手紙届いたと思うから、意味はもうわかっとるよな?」 
 「は・・・?」 
 「は?やない。胆田が逃げたんや」 
 
 
 「あんた、奴の連体保証人やろ」 
 
 *織田喪ブナガ [#te2707bf]
 
 喪ブナガは天才だった。幼いころから兵法を学び、「槍は長い方が強い」などの 
 真理を早くからつかむなど、非凡な才能を見せていた。 
 そして成人になり、君主となるとその才能で瞬く間に天下を統一した。 
 そんな喪ブナガにも一つだけ欠点があった。それは筆舌に尽くしがたく 
 醜いということだった。それぐらい気にしないと喪ブナガは思っていたが 
 甘かった。各地で「あんなキモイ君主になんて仕えられない!」と立ち上がる 
 農民が頻発したのだ。今で言う「イケメン一揆」である。次々と起こる一揆 
 に対し遂に腹心の明智光秀がぶち切れ、「原因は全て殿の顔にある!」 
 と断定し、喪ブナガの首を切り落とした。これが後に言う本能寺の変である。 
 
 *喪扉 [#q11d4bed]
 
 
 三週間自分の部屋から出てない喪太郎は扉から奇妙な音が聞こえてきた。無視していたがもう15分はその音が聞こえてくる。 
 「うるせぇ!!」そういいながら扉を開けると外には見たことのない景色があった。 
 「車が…飛んでる…」喪太郎は怖くなり後ろを振り返るが扉は消えていたのだった。 
 
 *2006 喪ード to ドイツ [#x44bda04]
 708 :('A`):2006/06/12(月) 02:29:21 0
 サナエだよ。 
 あたし待ってる。 ずっと、この場所で。 
 
 711 :('A`):2006/06/12(月) 21:49:36 0
 >>708 
 
 サナエへ 
 俺だと言えば判るだろう。 
 明日、夜八時に始めてのデートで食事した店で待ってる。 
 
 
 712 :('A`):2006/06/12(月) 21:54:22 0
 お前らに、ちょっとだけ事情を教えてやろう。 
 サッカーが共通の趣味の俺達は、四年前のW杯の年に別れた。 
 
 その時、もし日本が次のW杯に出場して、初戦の日にお互いがお互いを 
 忘れられないなら、喪板に書き込もうと約束した。 
 
 なんで喪板か、だって? 
 そりゃ、待ち合わせの場所は俺達の存在が一番目立つ場所じゃないと・・・ 
 
 
 *アン喪ロイド [#cd2793a2]
 
 私はロボットの世界では名の知れた人間だった。 
 だがここまでたどり着くまでは、苦難の連続だった。 
 生まれつき醜い顔で、蔑まれた日々。 
 好都合だったのは、うざったらしい人間関係を捨て 
 研究に没頭できる点であった。 
 
 私の目標は、ただ一つ美少女アンドロイド。 
 
 人工知能の研究に明け暮れる日々。 
 第1段階: 泣き喚くことしか知らない。 
 第2段階: 食事であるレモンを与えると、泣き止むようになった。 
       レモンに含有される微弱電気が心地よいようだ。 
 第3段階: おぼろげながら微笑いはじめる。 
  ・ 
  ・ 
  ・ 
 
 研究も、最終段階に入った。 
 もうその頃になると、私の目指す人間に近づけることがどういうことか、 
 俺には薄々気付いていた。 
 ――そう、これは判りきったことだった。 
 
 しかしながら、私は『アスカ』のスイッチを入れる。 
 私の横では、研究のスポンサーである大富豪がいた。 
 
 私の目の前にたたずむアスカがゆっくりと目を開ける・・・・ 
 
 「テメェがあたしをつくったのかぁ!! 
  キモい顔して、こっち見るんじゃねぇよ。」 
 
 研究成果に満足して、大富豪が私の横をすり抜け研究室を出て行った。 
 笑い声がフェードアウトしていく。 
 ――そう、これは判りきったことだった。
 
 大富豪の声が聞こえなくなると、アスカの険しい顔は一転した。 
 愛くるしい、上目遣いでコチラを見つめてくる。 
 
 「でも、世界でどんなに嫌われても、わたしだけは 
  だーーーい好きだから・・・・・・・ねぇ、おにぃちゃん」 
 
 
 彼女は、私の趣味であるツンデレ美少女アンドロイドだったのである。 
 ――そう、これは判りきったことだった。 
 
 
  
 *喪・喪ード系 [#b9816d1c]
 
 とてつもなくダサイ服装が似合う喪男。 
 彼はこれを自ら「喪」服と名づけている。 
 そんな喪でもイケメンの領域である「モード系ファッション」に興味を持つようになった。 
 街に繰り出すとありえない現実を見てしまうのが嫌なのでネットで「モード」は何かググってみることにした。 
 調べてみると・・・ 
 
 モード系(モードけい)とは、 
 最新のコレクションに出ているブランドで固めた服装のこと。 
 
 そうとわかった喪は本屋逝ったり数少ない喪友達から聞いてみることにした。 
 
 喪友達「おうwww喪wwwwwうはwwwwww今日ももてない一日が始まるなwwwwww喪同士頑張ろうじゃないかwwwww」 
 喪の癖にテンションだけはVIP臭い奴だがリアルでVIPPERなんで気にしないことにしよう・・・ムカツク 
 喪「おまいに聞きたいが最近のファッションのトレンド知らないか?」 
 喪友達「服wwwwちょwwwwおまいそんなのに興味あるのかwwwwwきんもーっ☆」 
 ('A`)きめぇのはてめーだ 
 こいつは役に立たないと事前に分かっていたがここまでとは・・・・ 
 
 仕方がないのでコミックしか買わない本屋でファッション雑誌を見ることにした・・・これが間違いだったとは。 
 「最近は男性向けBL・・・いや男性向ファッション誌が多いな・・・なにから見ようか、よしこれだ!」 
 そう、喪が見たのはイケメンが表紙を飾ってる「THEケメン 今の流行を制覇する一冊」と書かれた普通はあやしいと思うが喪はそんなこと気にしないで読んでみた。 
 「ふ〜ん、なるほど。イケメンはこんな風に自分をキメてるのか。けど喪れには・・・あぁ鬱になってくる・・・」 
 もちろん近くにいた女子高生にキモがられてるのはデフォ。 
 
 家に帰りさらにファッションセンスを磨くためと勝手に思い込んでテンション上げて2ちゃんに繰り出した。 
 しかし、いつもどおりに喪板に逝きついファッションネタを出してしまった。 
 案の定「ファッション板池」「ネ喪帰れ」「イケメン乙」と叩かれる。 
 喪にとっては仲間だと思われてた奴らだと思っていたがここで喪板の現実を知ることになった。 
 
 2ちゃんをやってると喪友達からメールが来た。 
 喪友達「なぁ喪wwwww今は流行はネコミミwwwwwここにある格好してwebカメで取れwwwwwwww」 
 奴のメールにあったURLを開くとそこは奴が即興で作ったと思われるヤ○ージオで作ったサイトだった。 
 書いてあることに従って手持ちの服を揃えていった。 
 「なに?ネコミミ、ブッコロスと書かれたTシャツにクソボロジーパン?あったけどなんで奴知ってるんだ?まぁ揃えてみたが。」 
 実はここにあるのはかつてOFF会やったときにネタとしてやっていた格好だがあまりにもウケが良かったのでこれがモードって奴かと喪は思った。 
 とりあえず着てみた喪は喪友達の言うとおりサイトに自分のwebカメのURL貼り付けて撮影した。 
 「一応あいつに報告メールするか・・・」 
 間髪入れず喪友達からメールが返ってた。 
 「うはwwwwwマジでやりあがったwwwwww」 
 いつも思うがこいつ本当に友達か?と疑問に思いつつもカメラをつけたまま2ちゃんやっていた。 
 ファッション板のことは忘れて喪板を楽しいでいたら妙に祭り気味なスレに気がついた。 
 「喪が勘違いすること」のスレにあったURLを開いたら・・・・ 
 
 「ネコミミつけてブッコロスと書かれたTシャツ着てすね毛が見える子汚いジーパンはいてる・・・あ!こっちみやがった!これはひどい」 
 喪はカメラをつけてることにすっかり忘れこのスレにはまっていた。 
 「そういや俺もこんな格好だけどネコミミはつけないな」 
 「VIPでやれ」 
 こんなレスばかりだが喪は気が付いた・・・ 
 
      こ   れ   俺   だ  
 
 何で気が付いたかと自分の画面が映像に映りこんでいたのだ。 
 カメラを止め喪は気が付いた、喪友達にネタとして遊ばれていたのだ。 
 まず逝くことのないVIPに逝ってみると俺のスレがイパーイw 
 やっぱやられた・・・怒りを喪友達にメールしたら。 
 「釣れたwwwwwwwwwww」 
 そして奴が作ったサイトには喪がカメラに映った動画やキャプが上げられていた。 
 
 数週間、そのネタがあちこちのブログで取り上げられ続けた。 
 
 
 *リス喪 [#b3825f76]
 
 今まで携帯なんぞ通話とメールできればいいと思っていた喪が携帯を機種変更することにした。 
 携帯買ってから一度も機種変更したことない喪は最近CMでやってるリ○モに興味をいだいた。 
 「どうせ携帯喪ってもメールする相手いないし電話なんぞ使った覚えないぞ。ならリ○モというipodに似た機能なら使ってみようじゃないか。」 
 早速携帯ショップでリ○モ対応携帯を手にした喪は2ちゃん専用とデカipodと化したA4ノートパソコンにソフトを入れ携帯に音楽を転送した。 
 そして喪は携帯で音楽を聴いてみた。 
 
 そう喪が聞いてるのは「レクイエム」ただ一曲だけなのだ。 
 
 
 *クラスの奇喪いアイツ [#uea29e16]
 
 わたしのクラスには、キモいを絵に描いたような男がいる。 
 そんな男は、女子の評価も最低。 
 私は、よくソイツのことをネタに笑いをとっていた。 
 
 今日は、最悪な一日だった。 
 誰もやりたがらないので、クジで決められた卒業式の委員の仕事が残っていたのだ。 
 私の気持ちをさらに憂鬱にさせたのが、もう一人の委員がキモ男だということだ。 
 
 放課後、わたしとそのキモ男だけの教室。 
 はじめは教室を綺麗に対角線を引くように席に座っていたが、どうしても相談が 
 必要なときが生じたので、何度か相談するうちに二人の座る位置は近づいていた。 
 
 作業に疲れたのと、沈黙が苦痛だったので、キモ男をからかうことにした。 
 
 「ねぇ、あんたって、彼女いるの?」 
 わざと肩がぶつかるぐらい接近して質問をした。 
 
 「あっ・・・・・あぅ・・」 
 
 みるみるうちに、キモ顔は耳まで赤くなった。 
 
 「ねぇったら!」 
 さらに追い討ち。 
 
 「童貞ちゃうわい!!」 
 いきなりの逆ギレ。 
 
 「・・・・はあ? 
  そこまでは聞いてないんだけど・・・」 
 
 すると今度はだんまり。 
 
 「じゃあ、いいわ。それでどんなコ? 出会いのきっかけは?」 
 
 キモ男の、一段階上ずった声で語られたのは、容姿端麗、英語ペラペラの頭脳明晰の超お嬢様、 
 電車内で酔っ払いに絡まれていた彼女をキモ男が助けたのがきっかけという、どっかで聞いた話。 
 
 わたしが知らないとでも、思ってるの? 
 これだから、アニメばかりでドラマを見ないような男は・・・・・・ 
 
 「へえ、すっごーーーーーーーーい!!」と、話に乗ってやると、嬉しそうにペラペラとしゃべっていた。 
 ヤツが長く話すもんだから、その日の作業はそれ以上は進まなかった。 
 
 最高にウケたのが、ヤツの話にはでてこなかった「彼女の『エルメス』さんにヨロシク」と 
 帰り際に言ってやったときの、あの顔・・・・・・・・・真っ青になってやがんの。 
 
 
 
 それから一週間後、あいつの姿を帰宅途中、見かけることになる。 
 雨の中、傘を差してゲーセンの中からでてくるキモ男。 
 ゲーセンの出口では、傘がなくて困り果てている幼稚園ぐらいの女の子。 
 
 キモ男が女の子に声を掛けて、自分の傘を貸そうとしてるみたいだ。 
 
 おいおい、そのビジュアル、あきらかに犯罪だろwwwww 
 ・・・・・・きゃはははは、女の子、頭ブンブン振って断っているよ。子供は、正直だ。 
 
 あのキモ男の困り果てた顔。 
 おっっ、またゲーセンの中に戻ったぞ。そして、傘の中に何か紙を入れたみたいだ。 
 そしてまた女の子に声を掛ける・・・・・なにやら交番を指差しているみたい。 
 今度は、女の子はキモ男の言うことを聞いて、傘をうけとった。 
 しかしながら、女の子は傘を差さずに真っ先に、近くの交番に駆けていった。 
 
 交番で、傘を受けとる警官。 
 なにやら、先ほどのキモ男の紙を読んでいる。 
 すると、しゃがみこみ優しく女の子に語り掛けている。 
 
 納得した女の子は傘を差して、帰っていった。 
 警官の手にした紙の文字が見えた。 
 赤の太文字で、『廃棄』とあった。 
 
 キモ男は既に、鞄を傘にして、走り去った後だった。 
 わたしは、その様子をコンビニの立ち読みコーナーから眺めていた。 
 
 
 次の日。 
 テストがあるので、早めに教室に来た。 
 今日はバレンタインだが、特に本命がいない私には関係のない話だ。 
 教室には、私以外誰もいない。 
 
 
 キモ男の机を横切ると、わたしの鞄がぶつかった。 
 すると、机の中からチョコが落っこちた。 
 ・・・・そういえば、キモ男が帰った後、クラスの男どもが机に群がっていたな。 
 
 拾い上げると見るからにコンビニで売っているような安っぽいチョコだった。 
 わたしは、おもむろにそれを手に持ち教室をでた・・・・・・・ 
 
 
 
 朝のホームルーム開始5分前、キモ男が教室に入ってきた。 
 汗でだくだくのキモ男は、すぐに机の中の異変に気づく。 
 
 うわっ 
 めちゃくちゃ動揺してる。 
 でも嬉しそう。 
 うwっわ、すごい勢いで周りを見渡しちゃってる。 
 
 ・・・・・・ キモーーーーーーーーーーい 
 
 そこにチョコを隠した男どもが冷やかしにくる。 
 そして、がっくりとうなだれるキモ男。 
 
 
 ――あれじゃ、モテないわな・・・ 
 
 わたしは、同じものと交換した、男どものチョコを頬張りながらその様子を眺めていた。
 
 *続キ喪イアイツ [#c88b6a43]
 
 卒業前にクラスで日帰り旅行に行くことになった。 
 バスの中はわきあいあいとしている。キモ男除いて。 
 私は友達と大学生活について話していた次の瞬間だった。 
 とてつもない衝撃がバスを襲って私は気を失った。 
 気が付くと・・・バスは霧の中を走っていた。何事もなかったように。 
 おかしい・・・さっきまではあんなに晴れていたのに。なにやら牧場のような、高原のような所を走っている。 
 たしか行き先は遊園地のはず・・・! 
 みんなはざわざわと騒いでいる中、キモ男は相変わらずだった。 
 
 バスがたどりついた先は・・・・絶壁に建てられたアーチ状の門があった。 
 
 まったく人気がない絶壁に建てられた門から人が現われた。 
 
 そして、語りはじめた。 
 
 「ようこそ!あなたがたにこのカードを引いてもらいます。赤がでれば右へ白が出れば左へ並んでください。」 
 なんとキモ男だけ白を引いた。ここでも疎外される運命のようだ。 
 「では、赤を引いた方々!そちらのゴンドラにお乗りになりましたね。では、よい地獄の旅を!」 
 
 私達は地獄へ文字どうり堕ちた。死してなお苦痛と絶望にまみれた世界へ。 
 係員「さて・・・あなたは醜い容姿として、地獄へおとされました。この世という地獄にね。どうでしたか?キモ男として迫害される苦しみは?」 
 
 「と・・・とても苦しかったです。自分より容姿の劣る者を迫害された者のつらさがわかりました。」 
 
 係「では、天上の世界へ!行きましょう!」 
 「あの・・・あいつらもやはり・・・俺と同じように?」 
 係「ええ・・・俗にいうキモという人種に生まれ変わらせます。」 
 
 キモ男・・・前世、自分より容姿が劣る者を迫害した男は醜い容姿として生まれ変わるこの世という地獄に堕ちた。 
 
 しかし、苦しみを知った彼は形無き姿で永遠の平穏の世界へ上っていった。 
 
 *「人間の科学社」という出版者がある。 [#ab5cb820]
 それに関する話をひとつ。 
 
 喪男「***さんの********という本を注文したいんですが」 
 店員「***先生の本ですね?」 
 喪男「はい。人間の科学社です。」 
 店員「はあ、あの、出版は?」 
 喪男「人間の科学社です。」 
 店員「そんなのわかってます。出版は?」 
 
 どうやら店員は「人間の科学者」だと思ってたらしい。 
 実話。 
 
 
 *サ喪テン [#y0eddf60]
 
 針を背中に打ち、うつ伏せでくつろぐタ喪リ。
 
 「皆さん、針治療をご存知でしょうか。 
  ・・・・ええ、そうです。 
  ツボと呼ばれる経絡に針を差し込む治療法です。 
  一方、似たようなものに風水があります。 
  風水は重要なポイントに寺院などを建設します。 
  針にしろ、寺院にしろ、気の流れの中継点で、 
  まるでアンテナの役割を果たしています。 
  元来、針も治療というよりも宗教的な神に祈りを捧げる 
  という意味あいが強かったのではないでしょうか。」 
 
 タ喪リがいるビルからは、地上を行き交う人の流れがよく見えた。 
 
 丁度その時、夕日に照らされ、東京タワーの先端の影が一人の喪男まで伸びた。 
 それは奇妙な世界から指名を受けたようだった。 
 
 "サ喪テン"
 
 帰宅途中、何気なく立ち寄った店。 
 薄暗い店内では、いかにも胡散臭いオヤジが対応した。 
 
 「お兄さんは、運がいい〜〜。 
  本日入荷したばかりの新商品『サ喪テン様』は、いかがですか?」 
 
 3万円と高い買い物だったが、彼女がおらず無趣味の俺はオヤジの押し売りにも近い 
 強引な売り込みに負けてしまった。 
 
 オヤジが言うには、願いを叶えてくれる神様らしい。 
 帰宅すると、早速商品の箱を開けた。 
 すると、透明なプラスチックの容器についた携帯ストラップがあった。 
 透けた容器からは、小さな女の子の妖精が見えた。 
 
 
 「部内一のマドンナ、マドカさんに挨拶してもらいたいなぁ」 
 半信半疑で、ぼそっと口走った。 
 ♪ぴんぴろりん 
 安っぽい、効果音が鳴った。 
 
 
 次の日、早速ご利益があった。 
 朝、下を向きながらオフィスに入った瞬間、天使のような声で挨拶をされた。 
 顔を上げると、天使の笑顔で微笑むマドカさん。 
 
 家に帰り、サ喪テン様を携帯ケースから出してやった。 
 手に腰を当て、エヘンと言わんばかりのポーズをする。 
 俺はそんなサ喪テン様の頭を撫でてやろうとした。 
 
 チクッ!! 
 手を引くと、細かな針が刺さっていた。 
 
 
 俺の願いは、日を追うごとに、困難なものになった。 
 しかし、そのすべてが叶っていった。 
 その度に、サ喪テン様の針は、太く、そして数が増えていった。 
 ついにはなんら、普通のサボテンと変わりがなくなり、気づくと 
 花の蕾が生えていた。 
 
 
 俺とマドカさんは、サ喪テン様のおかげで、良好な関係になっていた。 
 今日は、二人だけのランチ。 
 しかし、悲劇が訪れた。 
 女慣れしていない喪男故に、彼女を怒らせてしまう。 
 立ち去ろうとする彼女の背中に向かい、俺は叫んだ。 
 
 「仲直りがしたい!」 
 
 彼女は振り返り、こちらに戻ってくる。 
 ぴんぴろりん、という音に誘われるように。 
 俺も彼女の元に駆け寄った。 
 
 そのとき、彼女の背後で、小学生が壊れた傘を振り回して 
 遊んでいるのが見えた。 
 
 
 あ! 危ない。 
 俺の手からは信じられないくらいの血が流れていた。 
 誤って、ガキ共の手から放たれた、傘の骨は俺の腕を貫通していたのだ。 
 もし俺がかばわなかったら、マドカさんに刺さっていた。 
 
 「きゅっ、救急車呼ぶね」 
 マドカさんは、顔面蒼白で携帯電話を手にした。 
 
 
 薄々気づいていた。 
 サ喪テン様の願いが叶うと、危害に合うということに。 
 実は、こんな晴れた暑い日なのに長袖なのは願いの代償で体中が、 
 刺し傷だらけだったからであった。 
 
 今までは、自分が傷つくだけであった。 
 しかし、先ほどのは、他人であるマドカさんに向けられたものだった。 
 そう考えると、無性に腹が立った。 
 
 「こんなバケモノみたいな神様はいらねえよ!」 
 
 ♪ぴんぴろりん 
 またあの音。 
 
 携帯のストラップの中の、サボテンの花がゆっくりと開く。 
 あの可愛らしかった頃からは想像できないほど、おぞましい顔が 
 花弁の中央に浮かび上がった。 
 俺は、暫くそのストラップから目を離せない。 
 そして、サ喪テン様は、一片の花びらを残し消えていった。 
 
 
 その時、俺は気づいてしまった。 
 視界に紛れた、小さな黒点に。 
 もしかしたら、無意識に気づかないフリをしたのかもしれない。 
 
 恐る恐る顔を上げる。 
 
 
 ・・・・・ぐちゅ! 
 痛みを感じる暇さえない。 
 ほんの一瞬の出来事。 
 
 ついに、俺は眉間に突き刺さったのは、すぐ隣の陸上競技場から 
 飛び込んだ槍投げの槍だということを知ることはなかった・・・・・
 
 *喪て機会×3 [#bc8dd0af]
 
 
 人生では、どんな人間にもモテる機会が3回来るらしい。 
 既に自分の喪のオーラには気づいていたが、楽しみで仕方がなかった。 
 間抜けなやつは、その3回のチャンスすら、ものにできずスルーしてしまう。 
 
 「急にボールが来たので」 
 
 なんて、ぬかしてさ。 
 
 俺は違う。必ずキメてやる。 
 俺に光が差し込んでくる予感を、体全体で感じていた。 
 
 そして、そのときが訪れる。 
 俺は呼ばれ、扉を開ける。 
 
 
 
 俺に優しく手を伸ばしてきたのは、甘えたくなるようなお姉さんタイプ。 
 「もう、やんちゃぼうずねぇ、このこは。」 
 ・・・はい、ワン 
 
 まだ、乾かぬ俺の体をなでるキューティクルガール。 
 「お父さんに似て、男前よ (※父ももちろん、喪ーラの持ち主)」 
 ・・・トゥー 
 
 俺の顔をのぞき見る、タレ目がチャームポイントのロリ顔ナース。 
 「かわいいぃぃぃぃ」 
 ・・・スリー 
 
 
 ――へその緒が付いたまま、俺は本気で泣いた。 
 
 *喪の花 [#f6efa21e]
 
 今日も連日の残業で疲労しきっている男。としあき。としあきは本屋に入りロリータ本を買うつもりだった。 
 しかし謎の老人に喪の花をもらう。喪の花が枯れる前に真実の愛を知ればとしあきの願いが叶うという。 
 としあきは小学生が大好きというか真性ペドなので気に入った小学生に愛を求めていく。 
 しかし失恋の嵐。時には警察に追われもした。ある日としあきは夜の街で黒髪ロングおかっぱの少女に出会う。 
 不思議な魅力をもつ彼女にとしあきは本気で惚れ込みとしあきは惹かれていく。 しかし彼女はその美しさからストーカーに刺され殺されてしまう。 
 この時としあきは真実の愛を知る。真実の愛とは殺戮と知ったとしあきは喪の花に願う。 
 こうして醜悪なる怪物、エル喪街の悪夢、モイストが生まれる 
 
 *萌男 [#f99d7930]
 た喪り「環境というものは人を作ります、では人は突然の環境の変化に耐えられるのでしょうか?これはそんなお話…。」 [#e6157055]
 
  
 
 俺はとしあき、26歳無職童貞真性喪男。歩いているだけでDQNにたかられ女には指をさされ警察に職質を受ける。 
 朝、目覚めと同時にそれが始まることを考えると死にたくなる。顔を洗い服を着替える。さぁハロワへ行こう。 
 ハロワへの道中、女子高生集団とすれ違い様にヒソヒソ言われる。なれてるからなんともないがやはり傷つく。 
 DQNにすれ違うこともなく無事ハロワに到着。中に入るとすれ違う人が皆俺をまじまじとみる。 
 ?顔に何かついているのか?ちゃんと洗ったぞ?突然、肩を叩かれ後ろを振り向く。そこには30代前半とおぼしき女性がいた。 
 「ねぇ、あなた何してるの?」女性に声をかけられたのなんて10年振りぐらいなのでビビってしまい逃げ出す俺。 
 何かおかしい!今日はなにかがおかしい! 
 
 ハロワを飛び出すと朝帰りとおぼしきDQNとぶつかり吹っ飛ぶ。 
 あぁ最悪だ。DQN「いてぇだろえが…、骨おれちまったぜぇ?」俺「す、すみません…」見上げると身長190はあろうあきらかにDQNが仁王立ちしていた。下から見上げていると、突然「気を付けろや。」といってDQNはさっていった。 
 …助かった?
 DQNから助かるという異常な事態に対応出来ずにいると「だ、大丈夫ですか…?」 
 先ほど俺とすれちがった女子高生集団だ。そのなかの一人の黒髪ロングおかっぱの子が俺に手をさしだしている。 
 「ああ…ありがとう…」俺はしどろもどろになりながら答える。 
 こんなことは初めてだ…。呆然とする俺を尻目に彼女は俺にメモを渡した。「これ…アドレスです。よかったらメエルを…」そこまで言って走り去る女子高生集団。 
 一体なんなんだ。わけが分からない。 
 
 「ほう…これはこれは」 
 しわがれた声が聞こえる。「…あんたは?」 
 「わしは占い師みたいなものさ、おまえは面白い人生をおくるねぇ」 
 謎の占いババァいわく俺は今まで喪男だったがこれから先少しのあいだ萌男に変わるというのだ。 
 「人間にはモテ期があるという。これから先お前は今までと反対の人生をおくる!職は決まり、彼女はでき、童貞も捨てられる!」 
 まさか、そんなことが?だが今までなら絶対にタカられる状況も脱出できた…。メアドまで手に入れた…。 
 「これから先の人生…!楽しむといい…!」 
 
 そう言って謎の占いババァは消えた。左手が右手なのが気になった。 
 
 
 まだ信じられない俺は試しにワザとDQNにぶつかってみた。 
 しかし先ほどと同じように何もされなかった。 
 わけではない。どうやら893らしくすごい勢いでまくしたてられた。くそ、なにが萌男だ!全然駄目じゃないか…! 
 「おう、サブ。なにカタギに手をだしてやがる…。」 
 どうやら893の親分らしい。 
 「うちの若いもんが迷惑をかけましたね…。お詫びといってはなんですが困ったことがあったらここへ連絡下さい…。」 
 
 萌…男…。本物だ!! 
 
 次の日からは正に薔薇色だった。 
 黒髪ロングおかっぱの少女とも連絡をとり始めた。 
 すれ違う人はみな俺にみとれ、新しく決まったバイト先では初日から中心人物として機能している。 
 ロリコンとばれても「子供好きなんだ?優しいのね!」といわれ 
 PCオタとばれても「博識でステキ!」と言われる。 
 正に地球は俺を中心に回っていた。今の俺の人生は順風満帆。まさしく追い風だった。 
 過去が懐かしいぜ。 
 そんなことを考えていると前からDQNが歩いてくる。俺はあの日からDQNに殴られることはなかった。 
 今回は肩から思いきりぶつかってやろう。 
 ドン!どうせまた逃げるんだろう? 
 しかしぶ意外な返答がきた。 
 拳である。
 続く
 
 *ちょい喪オヤジ [#b26b890f]
 
 ふぅー、今日も残業かあ。しかもサービス残業。周りの人間はどしどし俺に嫌な仕事を 
 押し付けてきやがって。キモイからっていつもシカトしてるくせにこういう時だけ声をかけやがる。 
 ・・・終わった終わった。さぁ、帰ってエロゲでもしよう。 
 
 「よう、喪男君!帰りに一杯どうだね!」え?声をかけてきたのは係長。俺ほどではないがルックスは良くない。 
 でも、この人は前から俺にやけに好意的に接してくれるので嫌いではなかった。「・・・じゃあ、少しだけ・・・」 
 「うむ!若者は年長者に素直に従うものだ!しかし私の相手をしてくれる若者は少なくてねえ!」 
 「はァ・・・」・・・「乾杯!」駅から少し離れた焼き鳥屋で生ビールのジョッキをぶつけあう。 
 「なあ喪男君。君は女性関係とかどうなんだね?」「・・・この顔見れば分かるでしょう・・・あるわけ無いじゃないですか」 
 「ふむ。そうか。しかし君は割と熱心に仕事をするね。私は評価しているよ」「そりゃ、このご時世万一職を失ったら大変ですし」 
 「自己防衛のために働いているというのかい?それだけか?あんなに周りにないがしろにされて」この人は何でずけずけと人の心に踏み込んでくるんだろう。 
 しかしその質問に肯定するのはいささか不本意だった。「・・・まあ、自分のせいで周りの環境が崩れてしまうのはやはりいごごちが悪いというか・・・ 
 みんなの迷惑になりたくないだけですよ」 
 「いやあ!君は前から観察していたがやはり見所があるな!」「は?」 
 「私はね。前から後任者を探していたんだ。ちょい喪オヤジのね」「・・・ちょい喪オヤジ?」「社会には必要なものが色々あるんだ。例えば周囲の人間から 
 疎ましがられる事によって実は周囲のストレスを発散させる浄化装置のような人間がね」「・・・」 
 
 「それがちょい喪オヤジさ。あまりにキモ過ぎる人間はしばしば幼女誘拐殺人などの行き過ぎた犯罪を犯してしまう。 
 しかしちょっとキモイくらいの人間はぎりぎり踏みとどまり、かなりの苦痛に耐える事ができる。この私のようにね。」 
 「・・・」「みんな私をこう思っているだろう。あの年で係長止まりかよ。バーコードはげが。救いねー。とね。 
 しかしそのことで私はみんなの『人を見下したい』という願望をかなえてあげているんだ。その点で私は会社の役に立っているという事で、 
 実は会社から結構厚い待遇を受けているんだ。皆には秘密だがね。しかし私ももう年だ。いつまでもちょい喪オヤジとしての機能は 
 果たせない。だから後任者を探していたんだ。君のようなね」「・・・俺にやれと?そのちょい喪オヤジを」 
 「いいづらいことだが君は努力はしているが業績を見るに君の将来性はあまり見込めない。ちょい喪オヤジの待遇を選んだ方がいいと私は思うよ。」 
 
 「はあ・・・」俺は悩んだ。幾ら自分がキモイからってそれを売り物にして生きていくなんて負け犬じゃないか。 
 ・・・しかし俺はこの誘いをどうしても断れない。係長が他人に思えない。そんな気がした。その時俺は係長の目を見た。 
 深いしわが刻まれた目じり。今までの人生で積み重ねてきた不必要に多い苦労の数々。それはまさしく、俺が経験してきた苦労でもあった。 
 俺は悟った。これは避けられない運命だと。腹は決まった。「・・・引き受けましょう・・・」 
 「いい忘れたがちょい喪オヤジには一つ条件がある。決して結婚できないという条件がね。それでもいいかい?」 
 「それくらいそんな役職を知る前からとっくにあきらめてますよ」「なら、決まりだ」 
 俺と係長は固い握手を交わした。自分がキモイと肯定するなんて妙な話だが、俺の心は晴れ晴れとしていた。 
 明日からまた頑張ろう。次のちょい喪オヤジの適任者が見つかるまで。
 
 
 *the MOon [#f804faad]
 
 
  プールの水面に浮かぶ貴女。 
  深夜、学校に忍び込んでまで逢いたかった。 
  そっと貴女の幻影をすくい取り、優しく口付けをする。 
  僕は誓った。 
   
  ・・・貴女に逢いにいく、と 
   
   
 学校では、キモいだの、うざいだの、なんだので、虐められる僕の 
 唯一の趣味は、無線だ。 
 ここでは顔が見えず、僕を蔑むものはいない。 
   
 それは丁度2ヶ月前の月の綺麗な夜。 
 つけっぱなしのテレビでは、傾き始める地球の地軸に関するニュースが流れていた。 
   
   
 「ダレカ、イマスカ」 
 周波数の調整中、女の声が紛れ込んだ。 
 奇妙な声で少し驚いたが、その声には魅かれるものがあった。 
 僕は好奇心に駆られ、返事をする。 
   
 それから暫く話を続けた。 
 彼女との会話は、ギクシャクしていた。 
 それは僕が喪男だからというだけではなく、彼女はまるで生まれたままの赤ん坊の様に 
 物事を知らないというのもあった。 
   
 僕は次々と彼女に知識を与える。 
 すると、驚くべき飲み込みの速さで知識を吸収する。 
   
 だんだん僕に近づいてくる彼女。 
 無線でも、こんなに心を開ける相手はいなかった。 
 彼女に恋に落ちるまで、そう時間は掛からなかった。 
   
 そして、時はあっという間に過ぎ、そういつもより月が大きく輝いていた日。 
 僕は募る思いに我慢が出来なくなり、彼女に思いを告げた。 
 すると、彼女から、思いもよらぬことを告げられる。 
 「わたしもあなたが好きです。でも、わたし・・・・・・月にいるの」 
 他人が聞いたら、なんて馬鹿げたやりとりだと、思われるに違いない。 
 でも、僕は真剣な顔でその告白に聞き入っていた。 
 それぐらい僕らは、心で繋がっていた。 
   
 僕は立ち上がり、深夜の学校に向かって走った・・・・・ 
   
   
 それから20年後。 
 僕は、発射直前のロケット内で回想にふけっていた。 
   
 特訓1: 
 通過する電車の乗客で一番好みの女性を、ホームから見つける。 
 これにより、判断力と動体視力を鍛える。 
   
 特訓2: 
 女子高の文化祭に、超秋葉服で特攻する。 
 これにより、なにものにも動じない屈強な精神力を鍛える。 
   
 特訓3: 
 も△たんを超える、ヲタクによるヲタクのための参考書『喪う辞苑』を自主制作する。 
 これにより、学業面も完璧。 
   
 これらすべての特訓が、パイロットになるための血となり、骨となった。 
   
   
   
 月に到着した。 
 俺は、他のメンバーを振り切り、彼女との約束の場所に急ぐ。 
   
   
 約束の場所では、僕が想像していたとおりの彼女が笑顔で手を振っていた。 
   
 頭の中に、体中の血が集まっていくような高揚感。 
 全身の細胞が、彼女に魅かれているのが感じ取れた。 
   
 宇宙服に身を包んだ僕と、白いワンピースの彼女。 
 すでに奇妙な絵になっていた。 
 しかし、彼女が宇宙人であろうが、問題は無かった。 
   
   
 青い地球を背景に、涙を流しながら彼女と抱き合った。  
 ・・・・・うれしい、うれしい、うれしい、ほんとうにうれしい 
 そんなチープな台詞しか浮かんでこない。 
   
   
 どれくらい、抱き合っただろうか。 
 我を忘れていた僕は、下腹部が濡れている事に気づいた。 
 自分の流した涙か、汗かと思った。 
   
 僕は彼女を少し体から離し、その箇所を確認する。 
 ・・・自分の腹には、ミミズの化け物が這いずり回り、何匹かは既に僕の体内に入り込んでいた。 
   
 
 
 そのミミズの根元を、ゆっくりと辿り、視線を上げる。 
 目の前には、粘液にまみれた、巨大な化け物がいた。 
 
 「あぁぁぁ、うぎゃあああああああぁぁぁぁーーーー」 
 
 その化け物の至る所についた目玉が、いっせいに俺を見る。 
   
   
 すると、また元の美少女に戻った。 
 僕はなんとなく理解した。 
 この化け物は、強力な電波や音波、視覚による催眠術で、人間の脳に、幻想を見せることができるのだ。 
 また痛みのせいで意識が戻ったり、なくなったりする。 
 その度に、可愛らしい顔とグロテクスな顔がモーフィングのように、いったりきたりした。 
   
 現在に至るまでコイツラが、人類に発見されなかったのは、この能力のおかげ。 
 それが、地球の地軸がづれ、俺の無線機とコイツラの電波が繋がったのか・・・・・・ 
   
   
 辺りを見渡すと、一面この奇怪な生物で埋め尽くされていた。 
   
   
   
 ヘッドフォンをしながら、タ喪リは月見をしていた。 
 無線機の側には、月見団子。 
   
 ヘッドフォンには、先ほどの断末魔の余韻がまだ残っていた。 
 そして、団子を頬張りながらタ喪リは落胆したように肩をすくめる。 
   
 「海外では、月は度々女性に例えられます。そして日本では餅をつく兎ですが 
  月の模様は、吼えるライオン、ワニ、ロバなど、地域によってさまざまに 
  捉え方がことなります。 
  接する人によって、表情を変えるのは、月も人間の女性も同じなのです。 
  もしかすると世界中の男は、生まれた瞬間、月に恋をするのかもしれませんね。」 
   
 お代わりをしようと、団子に串を刺すタ喪リ。 
 すると、突き刺した穴から鮮血が滴り落ちた。 
   
 こちらを向き、タ喪リは妖しく笑う。
 

(HTML conversion costs 0.010 sec.)